映画『異動辞令は音楽隊!』内田英治監督インタビュー「キャスト陣の演奏に感動」「セリフじゃない良さ、感情を味わっていただけたら」

第44回日本アカデミー賞で最優秀作品賞ほか数々の賞に輝いた『ミッドナイトスワン』を手掛け、映画界でいま最も注目される内田英治監督が、YouTubeで偶然目にした警察音楽隊のフラッシュモブ演奏の映像から着想を得たオリジナル脚本で描く『異動辞令は音楽隊!』。

犯罪捜査一筋 30年の鬼刑事で、突然警察音楽隊へ異動辞令を命じられる成瀬司を演じるのは日本映画界・ドラマ界を牽引し、どんな役をもモノにする圧倒的演技力とお茶の間の抜群の好感度、そして唯一無二の存在感をもって常にトップに立ち続ける阿部寛。そして、清野菜名、磯村勇斗、高杉真宙ら話題作への出演が相次ぐ若き才能と、光石研、倍賞美津子ら日本映画界の重鎮たちが脇を固めます。

内田英治監督に映画作りにかける想いや、音楽シーンでの苦労などお話を伺いました。

――本作、大変楽しく拝見させていただきました。制作のきっかけは「警察音楽隊が演奏するフラッシュモブの動画を観たこと」だそうですね。

そうなんです。いつも妄想ばっかりしているので。ちょっと面白いものを見ると、そこから変なストーリーを考えちゃうんですよね。

――音楽隊というテーマと中年男性の悲哀を描いたストーリーが、ユニークな組み合わせでありながら面白かったです。

ありがとうございます。“中年男性の悲哀の映画”って日本にはあまりないですけど、アメリカ映画には多いじゃないですか。ミッキー・ロークの「レスラー」とか。昔から、ああいう作品を作りたいなと思っていて。そこに最近、音楽映画にハマってるので、フラッシュモブの映像を見たときにビビッてアイデアが浮かびました。

――監督が、音楽映画にハマったきっかけは何かあるのですか?

ここ10年くらいずっと好きで、吹奏楽に限らず、ミュージカルでもバンドものでも、なんでも良いんですけど、「音楽の力で映像を見せていくもの」を作りたいなと。ジャンルに拘らず、ミュージカルの映画もやってみたいですけどね。

ただ、音楽モノって大変なので。本作はキャスト人数が多いので1人が間違えると撮り直しになりますし、時間はかかりますよね。

――キャストの皆さんがほぼ楽器未経験なのに、ここまで演奏されていることに驚きました。

今回は吹き替えを使ってないので、一人一人めちゃめちゃ大変だったと思います。阿部さんのドラムだったら一定の感覚で叩くところから練習をはじめて、それを1、2ヶ月で仕上げていかないといけないので。役者さんって、すごいんだなって思いました。

――素晴らしいですね…センスというか。

センスもそうだし、絶え間ない練習と努力のおかげですね。すごく大変だったと思うんですけど、誰も「無理です」ってならないし、ちゃんと撮影の時までに仕上がっているっていう。役者のみんなに今回は、だいぶ助けられた気がしますね。

――本作は順撮り(シーンの順番どおりに撮影していくこと)が多かったのでしょうか?皆さんの演奏が揃っていく過程がすごく感動的で。

多少前後する部分はありますが、順撮りに近い感じで撮影していきました。阿部(寛)さんは、特に「音楽を楽しむ」表情が次第に出てきますよね。だんだん楽しくなっていく感じは、現場でも見ていて思いました。

――清野菜名さんもトランペットは初だそうですね。

トランペットは誤魔化しが効かないので本当に大変だったと思います。押すところを押さないといけなくて。「ブラス!」っていうイギリスの映画があるんですけど、プロの音楽家の人にみてもらうと、意外と適当らしいんですよ(笑)。指が実際の演奏とは全く合っていない。
なので、「ブラス!」を皆で見て、「多少、合ってなくても大丈夫だよね」って励まし合ったんですけど。結果、清野さんは完璧に演奏してくださいました。間違ってるところ一個も無いです。

――皆さんとはレベルが違いますが、私も学生時代に吹奏楽部だったので、大変さがよくわかります。

そうなんですね! 本作のカメラマンの伊藤麻樹さんもクラリネットをやっていたって言ってた気がします。吹奏楽やっていた方って結構いらっしゃるんですよね。今も吹けますか?

――私もクラリネットで、指は分かるかもしれませんが、吹けないと思います。(高杉)真宙さんがサックスですが、木管楽器も独特の難しさがあると思うので素晴らしいなと思って拝見しました。今回、楽団のシーンを撮って、監督自身も感動される部分がありましたか?

もともとビッグバンドが好きだったので。目の前で撮影していると迫力あったし。なにより、練習もみんなで集まってやっていたので徐々にチームワークが出来上がっていく様を見るのも楽しかったです。最初の練習で初顔合わせして、徐々に気が知れ合い始めて…。映画づくりの過程として、とてもよかったです。

――私、この指揮者の方の役の、「自分は、30年、これをやってる」って言うシーン、すごく好きで。指揮者ってすごく難しいポジションだったりするじゃないですか。彼も最初は思い入れがあるのかないのかって感じで描かれていますけど、本当は思い入れがあるというところが好きでした。

なるほど。色々な方に、「このシーンが好き」という感想をもらうのですが、今回、ちょっとバラバラだから人によって見るところが違うなと。「ミッドナイトスワン」は、皆さんが好きと言ってくださるシーンが大体一緒なんですけど。

――まさに観る方によって刺さるシーンが違うということですね。監督的には特に手応えを感じたシーンはありますか?

基本、自信がないのであんまり決まったなというシーンはないのですが、楽器ができない状態から見ているので、演奏シーンは感動しますね。最後の演奏する曲自体も相当難しいので、最初は「こんなの不可能だよ!」みたいな感じだったんです。「撮影までに叩けたり弾けたりするのは、ほぼ不可能だと思います」とも言われていて。それが最後出来たときは、ちょっと感慨深かったですね。

――そうですよね。資料の中でも音楽を担当された小林さんが「本当に感動した」と、おっしゃっていますね。

小林さんとはめちゃめちゃ話し合いながら進めました。ピッチも通常の「IN THE MOOD」より早いので、悩むじゃないですか。オリジナルは遅いので。出来あがりを見たら、やっぱり速くしてよかったなって思いました。軽快、爽快で。

――今回の映画作りのために、色々と音楽隊について調べられたと思うのですが、印象に残っていることはありますか?

阿部さんが先日、愛知県警音楽隊に訪問したのですが、主人公の成瀬みたいな方が実際にいらしたみたいですね。バリバリの刑事をやっていて、ある日、突然音楽隊に異動を命じられた。「なんで俺が」って、同じこと思ったそうです。でも、その後音楽隊から異動した後に自分から志願して、また音楽隊に出戻ったという。「警察をやっていて市民に喜ばれるということが、音楽隊でしかできないから」ということをおっしゃっていたそうです。

――今回、阿部さんとご一緒してみて、いかがでしたか?

みんな大好き、阿部さんという感じでしたね。なんていうんですかね、優しいし…最近は優しいを通り越して、僕は面白いですね。見ていて。なんて言うんだろう…観察しがいがあるというか、本当に面白い方なんですよ。口数が多いわけじゃないんで、面白いことを喋るとかじゃ無いんだけど、行動が変わっているんですよね。現場でもいきなりクワガタ持ってきたり、不思議な方ですね。

芝居では、めちゃめちゃストイックですね。こんなにストイックな役者、いないんじゃないかなと思うほどで。

――自分のシーンの表現の仕方をずっと練っていらっしゃる?

そうですね、ずっと現場でも一人考えながら練られていたのだと思います。多分、嘘の芝居ができないタイプで。芝居に限らず嘘がつけない方だと思います。

――なるほど。自分が本当に見たもの、経験したものじゃないと。

見たもの、経験したもの…。芝居もちゃんと突き詰めたリアリティのある気持ちでやりたいタイプ。それが全てに出ている人ですね。

――だからこそ、真剣にドラムと向き合って、習得されて。ドラムを叩く役、もっと見たいです。

僕の中では、本作のパート2、やりたいんですけどね。パート3くらいまでやりたくて。まだこの映画が公開されてないのに気が早いのですが(笑)、パート2が、警視庁音楽隊との対決っていう構想で。警視庁音楽隊はとてもエリートで、全員音楽大学出身。パート3は、ニューヨーク市警との対決っていう構想はあります。

――とても見たいので、期待しております。撮影を「ミッドナイトスワン」から伊藤麻樹さんが引き続き担当したと思います。犯罪のシーンの怖さも音楽のシーンも素晴らしかったのですが、撮影はお任せなんでしょうか?

すごく大まかな方向性は話して。あとは、細かいカメラワークとか。カットの切り取り方は、本人に任せていますね。

――今回、珍しいカメラを使ってらっしゃるそうですね。

そうなんです。Netflixのドラマ「クイーンズ・ギャンビット」でチェスの映像がすごかったので。あれは特殊なカメラを使っているっていうことで、同じ雰囲気が欲しいって言ったら伊藤さんが借りてきてくれました。すごく高価なカメラで…。通常はこの規模の映画だと借りられないそうですが、ラインプロデューサーと一緒に、拝み倒したらしいです。

――やっぱり、その映像を見た時は監督的にも「これだ!」って感じでしたか?

そうですね。僕は技術とか機械がよくわからないんですけど、扱いもとても難しいそうで。良い画にはなるけど、使うのもすごい大変。だから撮影隊は、すごく大変だったみたいです。ピントの幅がとても狭くて、ピントを合わせる技術が、すごく必要。今回は、いつも伊藤さんとやっている凄腕の女性が頑張ってくれました。

――ストーリー、俳優さんたちのお芝居、そして素敵な撮影に音楽と、五感で感じられる部分が多い作品だと思うのでたくさんの方の感想を見れることを私も勝手に楽しみにしております。

音楽の力は本当にすごいです。セリフじゃない良さ、感情を味わっていただけたら嬉しいです。

――今日は素敵なお話をありがとうございました!

『異動辞令は音楽隊!』大ヒット上映中

(C)2022「異動辞令は音楽隊!」製作委員会

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

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