創作の本質や問題意識の核に迫る、国内の美術館では6年ぶりとなる大規模個展「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」


《無題》(シリーズ「M/E」より)2020




《無題》(シリーズ「M/E」より)2019


写真家・川内倫子(1972‒)は、柔らかい光をはらんだ淡い色調を特徴とし、初期から一貫して人間や動物、あらゆる生命がもつ神秘や輝き、儚さ、力強さを撮り続けている。身の回りの家族や植物、動物などの儚くささやかな存在から、長い時を経て形成される火山や氷河などの大地の営みまで等しく注がれる川内のまなざしは、それらが独自の感覚でつながり、同じ生命の輝きを放つ様子を写しとっている。国内の美術館では約6年ぶりとなる大規模個展である本展では、この10年の活動に焦点を当て、未発表作品を織り交ぜながら川内の作品の本質に迫る。
展覧会タイトルでもある〈M/E〉は、本展のメインとなる新作のシリーズ。〈M/E〉とは、「母(Mother)」、「地球(Earth)」の頭文字であり、続けて読むと「母なる大地(Mother Earth)」、そして「私(Me)」でもあります。アイスランドや北海道の氷河や雪景 色と、コロナ禍で撮影された日常の風景とは、一見するとかけ離れた無関係のものに思えるが、どちらもわたしたちの住む地球の上でおこっており、川内の写真はそこにある繋がりを意識させる。本展は、人間の命の営みや自然との関係についてあらためて問い直す機会となることだろう。

国内の美術館では約6年ぶりとなる写真家・川内倫子の大規模個展となる本展は、写真や、映像などを通して、川内の創作の本質や問題意識の核に迫る内容。空間設計を建築家の中山英之が手がけ、鑑賞者が会場で作品に向き合う体験を身体感覚として経験できるよう、川内とのディスカッションを重ね、インスタレーションとして展示が組み立てられる。展覧会タイトルにもなっている新作シリーズ〈M/E〉を中心に据え、この10年の川内の活動に焦点をあてる。



《無題》2012(シリーズ〈An interlinking〉より)


1 新作〈M/E〉を中心とする6年ぶりの大規模な個展
2016年の「川内倫子展 川が私を受け入れてくれた」(熊本市現代美術館)以来国内では約6年ぶりの大規模個展となる本展は、新作シリーズの〈M/E〉を中心に、未発表や国内であまり紹介されてこなかった作品を織り交ぜながら構成。〈M/E〉は、2019年にアイスランドで撮影した写真に加えて、コロナ禍での身近な風景などを加えた形で、本展において初めて全貌を発表す。


2 写真にとどまらない表現
川内は、写真にとどまらず、これまでも映像作品の発表や文章の執筆を行ってきた。本展でも、映像作品や2018年に出版した写真絵本『はじまりのひ』を朗読したサウンドを取り入れるなど、展覧会全体が一つの体験となることを目指している。


3 建築家・中山英之による会場デザイン
本展は、中山英之建築設計事務所が会場デザインを手がける。川内の「自分が作品を制作する際に感じた感覚や経験を、展示空間において観賞者と共有したい」という想いに応えた空間が作り上げられる。


シリーズについて


〈4%〉



《無題》2012(シリーズ〈4%〉より)


《無題》2011(シリーズ〈4%〉より)

ロサンゼルスのアーティストインレジデンスTHE LAPIS PRESSでのコミッションとして、2011年にサンフランシスコ、2012年にロサンゼルスにそれぞれ滞在して制作された。球体や水平線など、宇宙をイメージさせる被写体が多く登場する、日本では初公開となるシリーズ。


〈An interlinking〉



《無題》2015 (シリーズ〈An interlinking〉より)



《無題》2014 (シリーズ〈An interlinking〉より)


川内の写真を象徴する6×6の正方形フォーマットで撮られたシリーズ。日常にあるイメージや小さな命の姿を、ローライフレックスの6×6フィルムでとらえている。過去20年以上にわたって撮影された アーカイブから今回の展示のために構成した未発表を含む作品群を紹介。


〈光と影〉



《無題》2011 (シリーズ〈光と影〉より)



《無題》2011 (シリーズ〈光と影〉より)


2011年4月、友人の写真家の案内兼通訳として訪れた石巻、女川、気仙沼、陸前高田で白と黒のつがいの鳩と出会ったことで生まれた作品。生と死、相反するものが同時に存在する世界を象徴するかのような2羽の鳩の姿を写している。本展ではスライドショーで展示予定。


〈あめつち〉



《無題》2013 (シリーズ〈あめつち〉より)

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《無題》2013 (シリーズ〈あめつち〉より)


熊本県阿蘇で古くから行われてきた野焼きを、4×5のフィルムカメラを用いて撮影したシリーズ。野焼きに加え、イスラエルの嘆きの壁など、自然への畏怖と人間の祈りや「捧げる」という行為に焦点を当てた作品が含まれる。


〈M/E〉



無題》2021 (シリーズ〈M/E〉より)



無題》2021 (シリーズ〈M/E〉より)


2019年より川内が取り組んできた新作シリーズ。アイスランドの氷河や冬の北 海道の雪景色と、コロナ禍に自宅周辺で撮影した家族や生き物の姿などの身近な風景など、ミクロとマクロの視点から自然の姿を写しとっている。本展の中心に据えられたシリーズであり、空間全体を使った構成で展示。


〈Illuminance〉


2011年に発行された写真集『Illuminance』の映像作品として発表され、展示される度に新しく映像を追加していくことをコンセプトとした作品。当初10分程度だった再生時間は増え続け、川内の活動の軌跡であると同時に、永遠に未完であり続ける作品でもある。


「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」
会期 2022年10月8日[土]̶12月18日[日]
会場 東京オペラシティ アートギャラリー
開館時間 11:00 – 19:00(入場は 18:30 まで) ※11月3日[木]-6日[日]は「アートウィーク東京」の開催にあわせ10:00-19:00開館
休館日 月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
入場料 一般 1,200 [1,000]円/大・高生 800[600]円/中学生以下無料
主催 公益財団法人 東京オペラシティ文化財団、朝日新聞社
巡回情報 2023年1月21日[土]―3月26 日[日] 滋賀県立美術館(http://shigamuseum.jp)
*同時開催「収蔵品展 074 連作版画の魅力」、「project N 88 䑓原蓉子」の入場料を含む。
*[ ]内は各種割引料金。障害者手帳をお持ちの方および付添1名は無料。 *割引の併用および入場料の払い戻しはできません。

【関連イベント】
baobabミニライブ「ひびく つなぐ みちる」
日時 11月3日[木・祝]19:30-/11月4日[金]9:00-
会場 東京オペラシティ アートギャラリー 展示室内
定員 30名(事前申込)
参加費 無料(展覧会の入場料が必要です)
予約方法の詳細およびその他の関連イベントについては、会場、ウェブサイトなどで随時ご案内。


【川内倫子略歴】
写真家。1972年滋賀県に生まれる。2002年『うたたね』『花火』(リトルモア刊)の2冊で第27回木村伊兵衛写真賞を受賞。著作は他に『AILA』(2005年)、『the eyes, the ears,』『Cui Cui』(共に2005年)、『Illuminance』(2011年、改訂版21年)、『あめつち』(2013 年)などがある。2009年に ICP(International Center of Photography)主催の第25回インフィニティ賞芸術部門受賞、2013年に芸術選奨文部科学大臣新人賞(2012年度)を受賞。主な国内での個展は、「Cui Cui」ヴァンジ彫刻庭園美術館(2008年・静岡)、「照度 あめつち 影を見る」(2012年・東京都写 真美術館)、「川が私を受け入れてくれた」(2016年・熊本市現代美術館)ほか多数。近刊に写真集『Des oiseaux』『Illuminance: The Tenth Anniversary Edition』『やまなみ』『橙が実るまで』(田尻久子との共著)がある。

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