このホテルからの脱出劇すべてに”ある一族の底知れぬ闇”が潜む。探索型”入れ替え”アドベンチャー『冷夏の淡雪』

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1950年(昭和25年)8月1日未明、元華族の花堂清文(かどう きよふみ)氏が経営する「花堂ホテル」に強盗が侵入。花堂家とその関係者、宿泊客の多くがひとり残らず殺される凄惨な事件が起きた。

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それから7年後の1957年(昭和32年)。清文の息子、花堂涼吾(かどう りょうご)は墓参りのため、居酒屋で知り合った自称・友人の時雨(しぐれ)、給士の小梅と共に墓石の置かれた「花堂ホテル」へと訪れる。

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そこで時雨に誘われるがまま、現在も事件後のまま保存されたホテル内部に足を踏み入れ、中を見て回ろうとするのだが、謎の怪現象によって入口を塞がれ、3人は閉じ込められてしまう。

さらに、夏休みを利用し、偶然にもホテルへ訪れていた姉弟「青(あお)」と「凪(なぎ)」もこれに巻き込まれる。かくして5人はホテルから脱出するため、互いに協力しながら手がかりを探し始める。
だが、それと共に彼らは花堂家の闇に触れることになるのである……。

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懐古的な雰囲気漂う『冷夏の淡雪(れいかのあわゆき)』は2022年3月25日より、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」にて公開中のWindows PC用フリーゲーム。レトロサスペンスアドベンチャーを呼称する「RPGツクールMV」製タイトルである。

制約下で4人を入れ替え、進めていく探索型アドベンチャー

厳密なジャンルは探索型のアドベンチャーゲームとなる。プレイヤーは主人公の涼吾を始めとする4人のキャラクターを操作し、舞台となる「花堂ホテル」の内部を探索。その脱出に繋がる手がかりを探っていく。

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その概略の通り、本作は複数のキャラクターを操作し、マップ探索を実施するシステムおよびゲーム体験を特徴とする。ただ、厳密な仕様は若干、制約が際立つものになっている。そもそも、4人がパーティになって一緒に行動する訳ではない。

探索は基本、2人1組のチームで実施していくのである。残る2人はホテル内のエントランスエリアにて待機。現在の同行者、あるいはチーム編成を入れ替えたい時は、各々に話しかけなければならない。

また、「青」と「凪」の姉弟によるチームは組めない。彼女たちを同行させる場合は、必ず涼吾か時雨のどちらかがいなければならないのである。それぞれが未成年という設定にちなんだ、保護者同伴という名の制約が設けられているのである。

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さらに同行者、チーム編成の変更時には「小梅のお守り」なる有限アイテムを1つ消費。このお守りが尽きてしまうと、諸々の変更が不可能に……と思いきや。エントランスエリアに待機する小梅に話しかけることで、不足分のお守りを補充できる。もちろん、補充分にも限りがあるため、何度か消費すれば尽きてしまう。ただ、そうなった時も小梅に話しかければ補充してくれるので、何もできずに行き詰まるということはない。こんな入れ替えにおいても制約があり、独特の煩わしさが表現されている。

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別に尽きても手詰まりとならず、何度でも補充可能なら、システム的に存在意義が無いのではと思うかもしれない。だが、実は地味にゲーム体験面での意味が込められていたりする。詳細は後述にて。

そして、このような入れ替えを可能にしていることから、4人それぞれにも明確な特徴を設定している。

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主人公の涼吾なら「背が高くて、力が強い」、自称・涼吾の友人である時雨は「背が高くて頭が切れる」、姉弟のひとり青は「運動神経がよい」、もうひとりの凪は「背が低い、難しい文章を読めない」といった感じだ。

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ホテル内部にもこれらの特徴を活かすことが試される謎解き、イベントが豊富に用意されており、随所で適切なチーム編成を要求してくる。
チームも前列と後列が設定可能で、誰を前にするかで調べた対象への反応が変わる仕掛けもあるため、こちらの方でも試行錯誤が試される。

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複数のキャラクターを操作し、入れ替えながら探索するスタイル自体は特段、珍しいものではない。当もぐらゲームスでも同様のスタイルを採用した探索型アドベンチャーゲームで、『迷い子たちのララバイ』という作品を過去に取り上げている。(紹介記事

ただ、本作は幾つかの制約が作品の個性になっている。それなりに試行錯誤も試されることから、どこかパズル的な手応えに富んでいるのはひとつの見所だ。未成年のキャラクターが保護者同伴必須という制約もちょっとユニーク。

それもあって、独特な味わいのある探索型アドベンチャーゲームとして完成されている。

制約によって描かれたパズル的味わい。そして、それらの意味。

本作の魅力は2つある。
ひとつに「入れ替え」をテーマにしたパズル的な味わいのある探索。
もうひとつは闇の深いストーリーである。

探索は2人1組の行動厳守、保護者同伴、入れ替えのたびに専用アイテム(お守り)消費という制約が件の味わいを演出している。

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4人一緒に行動できないからこそ、探索においては状況を踏まえた推察が必要になるので、常にどの組み合わせが適切なのかを考え続けなければならない。

さらに尽きる心配はないものの、入れ替えのたびに専用アイテムを消費する仕様も「使いすぎて大丈夫か……?」との節約意識を抱かせる。そうした思考を巡らす要素が揃っているのもあって、探索中にはパズルを解いているかに等しい心持ちになりやすい。同時に考えさせられるからこそ、目前の展開に集中してしまう。

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さすがに解法が分からず、詰まり気味になった時は集中力が途切れて疲れたりもするが、そんな具合に制約の数々がいい意味で手間を必要とする展開を作り出しており、独特なやり応えを演出している。

用意された謎解きやイベントも簡単なものから捻りを効かせたものまで、バリエーションに富んでいて攻略し甲斐がある。場所によっては制限時間付きのイベントも発生したりと、緩急をつける工夫も抜かりない。

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また本作、実はボリュームも大きめ。詳細は伏せるが、舞台設定とは裏腹に密度の濃い内容になっている。また、謎解きも前述の通りバリエーション豊かというのもあって、それなりに時間を取られやすい。どういったネタが出てくるのかは見てのお楽しみだが、その凝った作りの数々に色んな意味で面食らうだろう。謎解き好きなら至福のひと時となるはずだ。

それぞれのマップで展開されるストーリーも闇が深い。大筋こそ閉じ込められた場所からの脱出と単純だが、探索を進めるにつれ舞台のホテル、そして経営者の清文を筆頭とする「花堂家」の正体が暴かれていく。並行して過去、ホテルにて起きた殺人事件の真相も紐解かれていくのだが、それも設定から受ける印象とは裏腹なものになっている。

さらに大筋にも様々な謎が付きまとう。

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ホテルのあちこちに現れる宿泊客たちの魂、それに関係する怪奇現象、なぜかあちこちに開けられた穴。そして、主人公の涼吾を始めとするキャラクターたち。
とりわけ「青」と「凪」はなぜ、ホテルにやってきたのか、そもそも何者なのかについては嫌でも関心を持ってしまう。自称・涼吾の友人を名乗る「時雨」もまた然り。

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一連の謎の数々はほぼすべてエンディングにて暴かれるのだが、正直、呆気に取られるかもしれない。同時にどこまでも闇が深いという実態も思い知るだろう。

状況的にオチは恐らく「みんな脱出できて、めでたしめでたし」と予想しやすい。目的が目的だけに尚更だろう。ところが、これが色んな意味で思いもしないオチになっている。同時に本作のとある要素の裏の顔に気づかされる。どれかは言及しないが、一連の展開を見れば恐らく「そんな意味があったか!」と膝を叩いてしまうだろう。

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また、本作のエンディングは2種類ある。片方はいわゆるトゥルーエンドである。だが、その意味が示すものは……これ以上は核心に触れかねないため、言及は控える。

ただ、”闇が深い”の理由がよく分かるはず。
同時に本作にどこか末恐ろしい印象を持つだろう。これ以上のことを知りたいのならばホテルへと訪れ、探索を進めていっていただきたい。闇を見るべし。

2周目向けのやり込み要素も見所の良作。ただ、ある欠陥に要注意。

加えて本作、実はエンディングを迎えた後も楽しめる作りになっている。それが件の「お守り」。チームの入れ替えのたびに1個消費するが、尽きても何度も補充できる仕様から存在意義の怪しさがあると先ほど言及した。だが、実は体験面での意味が込められているとも。その理由はこの「お守り」自体、使った回数が記録されるようになっているからだ。

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そして、この記録が思いもしない形で返ってくるのである。例によって、どんな風に返ってくるのかは見てのお楽しみ。一切、言及することはできない。

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しかし、その”返ってくるもの”を見れば、ほぼ確実に新たな心持ちで2周目に取り組みたくなるだろう。同時に本作に秘められし、探索型アドベンチャーゲームとしての遊び応えを思い知るはず。
念のためだが、別に使いすぎるとマズい展開になるとか、そういう訳ではない。なので、1周目は特に意識せず使っていくプレイがお薦めだ。意識するのは2周目以降でいい。むしろ、せざるを得ないだろう。
あとは直接体験して、その裏の顔というものをお確かめいただきたいところだ。

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他に本作は音響周りの演出もストーリー全体に漂う闇と、廃墟のホテル特有の不気味さを際立たせている。詳しくは言えないが、随分思い切った手法を採用しているのだ。そんな訳で、あえて音量設定大きめでプレイいただきたい。呆気に取られるだろう。

また、その設定とは裏腹にドキッとさせる類の表現はほとんどないに等しく、ホラーが苦手な人も楽しみやすい。逆に雰囲気で怖がらせる所はあるが、登場人物たちの会話、特に最年少の「凪」の明るさは色々と救いになる……かもしれない。

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ただ、気になる箇所も。主に謎解きだが、本作の紹介ページで難易度は低いと書かれていながら、メモなしでは解くのは困難といった、手ごわいものがあったのには矛盾を感じる。
とりわけ「いろは唄」の謎解きは分からない人には何が何やらではないだろうか。しかも、序盤の序盤にこのようなものが出てくるのには順番的に違和感を禁じ得ない。できれば、この辺が分からない人のためのヒントがあると良かったかもしれない。

また、詳しくは伏せるが大浴場の謎解きも、若干引っかけの度合いが強かった気がしてならない。特に地面部分はもう少し強調してもと思ったのだがどうだろう。

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いずれも解法が分かれば一瞬とは言え、これで難易度が低いというのは筆者個人としては違和感を覚えた次第だ。とは言え、探索周りにストーリー、クリア後のやり込み要素といった作品特有の魅力は盤石であり、プレイヤーにひと際強烈な印象を残す。

エンディングの締め括りも相まって、プレイ後の余韻もひときわ強烈……というより闇深し。探索型アドベンチャーゲームとしてもやり応えのある要素が備わっているので、このジャンルが好きな人にも強くお薦めしたい1本だ。

[基本情報]
タイトル:『冷夏の淡雪』
作者:彩水メイ
クリア時間:3~4時間
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料

ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/27944

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