『神は見返りを求める』吉田恵輔監督インタビュー「俺にも、観ている人にも絶対あると思う汚い部分」「“趣味、人間観察”について」
『ヒメアノ~ル』『愛しのアイリーン』『空白』など数々の話題作を撮り続ける、吉田恵輔監督オリジナル最新作で2022年6月24日(金)より全国公開中の映画『神は見返りを求める』。
本作の主人公・イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)は、合コンで底辺 YouTuber・ゆりちゃん(岸井 ゆきの)に出会う。田母神は、再生回数に悩む彼女を不憫に思い、まるで「神」かの様に見返りを求めず、ゆりちゃんの YouTube チャンネルを手伝うように。2人は、人気がでないながらも、力を合わせて前向きに頑張り、お互い良きパートナーになっていくが、あることをきっかけに、二人の関係が豹変して…。
YouTube、YouTuberをテーマに<見返りを求める男>と<恩を仇で返す女>の心温まりづら いラブストーリーとなっている本作について、吉田監督にお話を伺いました!
※吉田恵輔監督の表記は、正式には土に口です。
――映画、めちゃめちゃ面白かったです。「見返りを求める男」と「恩を仇で返す女」というテーマで作品を撮ろうと思ったきっかけは?
実体験だよね(笑)。若かりし頃に、この映画でいうゆりちゃんの様な存在がいたという。今でも応援する気持ちと、こいつクソだなって思う気持ちが混在しているので(笑)。本(脚本)を書く時って、自分の中に在るものから書いていくことが多いので。
――このタイミングでそのお話を書かれたというのは何かあったのでしょうか。
基本的に、映画は成功と挫折の物語が好きなんですけど。でも、僕がいつも作っているのって「成功まで至らない」という映画が多かったんです。夢だけ持って、夢破れるみたいなものが多かったので。だから一回、夢に手が届いて、人間性が変わっていく作品をやりたいなっていうのはありました。
――まさに本作では、ゆりちゃんが成功して性格が激変してしまいます。
例えば、「俺、昔、松坂大輔と高校一緒だったんだけど、あいつプロ野球ですげぇ稼いでるのに久しぶりに会ったら全然変わってなくてさ!」っていう良い話を聞くんだけど、自分的には全然面白くない。
「あいつ、時計4つもつけてたよ!めちゃくちゃジャラジャラしてて」っていうのなら、めっちゃ爆笑できるんだけど。変わってなくて良い人エピソードが、ちょっと面白くないなって思って。もし自分が大成功したら時計4つくらいしてやろうかなって(笑)。そっちの方が、みんなが飲んだ時に俺の悪口で盛り上がれるなって(笑)。
――外車に乗り出したり(笑)。
そう、そう(笑)。「こんな安い肉、食べられないよ!」って言うくらいに人が変わりたいなって。その方が、キャラ的に面白いなって俺は思うから。成功して性格の変わらない人って素晴らしいし、付き合いやすいんだけど、物語の登場人物としては面白くないなと。変わっていく様が滑稽な人が見たいと思って作った映画です。
――なるほど。ゆりちゃんの変わり方が、絶妙にリアルでした。
岸井ゆきのが演じることで許されるキャラクターになるというか。あんまり嫌悪感を感じないんだよね。他の人が演じると、イラッとしそうだけど、ゆきのちゃんは笑いに変換できるから。
――すごく分かります。周りのYouTuberも、すごくリアルで。色々見て研究されたのですか?
色々見ましたね。でもYouTube自体、流れが早いじゃないですか。この映画の撮影も2020年の10月にしていて、公開されるのって一年以上、先じゃないですか。その間にYouTubeの流れって変わっているわけですよ。なので、あまり今っぽすぎると…。女の子で言う、「その服、去年、流行ったよね」っていう、いちばん恥ずかしいパターンになりそうだから(笑)。
――(笑)。
だからルックスとかやってることも、ちょっとずらした方が良いだろうなって思って、あまり流行を踏襲しすぎないようにしました。
――なるほど。本当に一ヶ月単位で流れが変わりますもんね。
底辺のYouTuberと、今のYouTubeでもよくありそうなパターンと、今のYouTubeでは出来ないだろっていう映画の技術を持って作ったパターンの3つあったら、どこかではハマるだろうと。
――特にゴッティーのキャラクターって、今ちょうど…。
似たような人がいるんだよね。
――ですよね!
もっと時代が逆にいくと思っていたのね。ゴッティーって、シバターみたいな、YouTuber同士でディスり合っているような人たちの世界だったんだけど。映画を作っている時にすでにYouTubeの規制が激しくなっているのを感じていたから、そういう動画は減っていくのかな?と思っていた。そしたら、実際は真逆でエグい話をしていく人が現れた。しかも“ゴッティー”と名前も似てて、未来予知感がすごなと思って(笑)。ただ、その人から着想を得たと思われるのが嫌なので、これだけは言っておきますが、撮影は2020年で脚本を書いたのはそのさらに一年前です!
――先ほど、監督自身のご経験が着想のきっかけになっていると仰っていましたが、ちょうど私も最近「見返り」について考えることがあって。「見返り」って難しいですよね。
人間って奢ったことは覚えていても、奢られたことは覚えてないでしょ。飲み会で「あの時、誰が出してくれたっけ?」って覚えてないけど、自分が後輩に奢ったのって、結構ねちっこく覚えているから(笑)人間そんなもんだよなと。
――ゆりちゃんも、もちろん田母神に感謝はしているけど、「そこまで恩着せがましくする?」って思っているんでしょうか。
彼が居なかったら今の自分はいないのは確かだとしても、キーマンは彼じゃないと思っているんじゃない? バズったのは違う人がきっかけだから、それとこれとは別じゃんって感じで。俺も映画を作る上で、色んな人と出会ってきたわけ。デビュー当時なんか、予算1000万あるかないかで、レイトショーだけでやるような会社が俺を見つけてくれてデビュー出来た。それは、ものすごくありがたかったし感謝はしているんだけど、自分が今後もずっとその規模で映画を作っていくのかと思うと、それは嫌じゃん。自分も自分で、ステップアップしなきゃいけないし。その会社や人達に感謝はあるけど、今もう一回やれるか、恩を返せるかっていうと、ちょっと難しい。
今、俺が一緒にやっている人って、俺がある程度、評価されてから集まってきた人たちなの。だから最初、何者でも無い俺を支えてくれた人からすると「恩を忘れて、そっちにいきやがって」って思うかもしれないよなって。
――なるほど、難しいですよね…。
本当難しいよね。だから、「今でも感謝しています。ただ、今はなかなか一緒にできないんですけど」って気持ちを忘れないようにしないと、危ないよなって。
――映画監督のお仕事ってそうですよね。資金集めの面も大きいですし。
そう。監督なんか時価だから。その時の価値じゃん。だから、難しいよね。
――こうしてお話を聞いていると、『神は見返りを求める』のお話ってどんな職業の方にもあてはまりますよね。
そうなんだよね。必要じゃなくなってきた時の説明をちゃんとしてくれれば良いと思う。人の切り方も難しいと思うんだよね。会社員じゃないから違う人とチームを組めば良いんだけどさ。最初から腹を割って話せば済むかもしれないのに、適当にあしらったり、すれ違って変に自然消滅すると、怨恨が残るよね。
――ありますね。
そういう経験もしてきたし、見てきたし、俺もこういう人間性あるしっていうところを、映画にいっぱい入れて。だから、気をつけているけど、俺にも絶対“ある”部分なので。映画を観てくれるお客さんもどんなに良い人でも、どっかしらあると思う。観ていて、可笑しいんだけど、自分にもどっかあるなこういう所という映画かなと。
――その通りだと思います。私もそう感じました。そして監督はこの映画について「可愛らしい作品になったと思います」とも書いてらっしゃいますね。
一個前に『空白』を作っていて、その反動で作ったので…(笑)。『空白』を書いている時に、精神的にストレスがかかったので。重いものをやったから次、ふざけ切ってやろうとおもって。その跳ね返りがすごかったの。着ぐるみが出てくるくらいファンシーな作品が良いなって。
――でも、本作にもピリつくシーンが結構ありますよね。
そうね。やっぱり飽きちゃうんだよね。どうしても、ちょっとエッジが立ってるものが好きだから。柔らかい感じと面白い感じで囲って考えさせるっていうのでも作れるんだけど、そこに「無くても良いじゃん?」ってくらいのエッジを入れたくなってくるし。残酷さを見せたくなっちゃう。
――「ムロツヨシさんの豹変ぶりが怖い」と話題になりそうですが、ムロさんの狂気のお芝居は監督の予想通りでしたか?
怒っててヤバいんだけど、憎みきれないというか、少しキャラっぽさが残っているのがすごいと思います。本当に怖いと引いちゃうしさ。ムロさんって、ちょっとだけ、ぬるさがあるから(笑)。映画の中でも、ゆきのの方が強くすら見えたりとか。それはムロさんのキャラクターが良い作用をしてくれているのかなって。
――悲しいですよね。怖いんですけど悲しさの方が勝つ、不思議なキャラクターでした。
現場で撮っているときは、俺は結構ゆりちゃんの感情に持っていかれたんですよね。だけど、編集してみたら、田母神の方に感情が移っていて。田母神って堪える系のシーンが多くて。ゆりちゃんは言いたいこと「ギャー!」って言ってるから、撮影中に目がいっていたけど、編集してみると、田母神がじんわりと黙っていたり、睨んでいる中にも感情の起伏が見えていたから。「ムロ、ありがとう」「ムロ、ちゃんと芝居してたんだね」って、ありがとうと想いながら編集していました。現場でもうちょっと感謝を示せばよかったなって(笑)。
――撮っているときは気づかなかったんですか(笑)?
「ムロ、ゆきのに食われてるよ!」って思ってた。「これ、ゆきのの映画じゃん!」って思っていたけど、編集してみたら、ちゃんとムロさんも主役でしたね。
――素晴らしかったです。ゆりちゃんも田母神もひどいキャラクターではあるんですが憎めないのが、岸井さんとムロさんのすごさですね。
女性が観たときに、どっちに感情移入するのか分からないなって思いますね。逆も有り得るし、女同士でも男同士でもこういう関係性ってあると思うから。
――また、若葉竜也さん演じた梅川のキャラクターも絶妙にうざくてリアルでした。
だけど、ああいう奴がいちばん会社でいいポジション取りそうだなって。梅川みたいに「趣味=人間観察:って言う人がいるじゃない。それを聞くと俺は「えええ〜…!!!」って気持ちになるのね。役者さんとかでもそう書いている人、結構いると思うから申し訳ないなと思うけど(笑)。観察してる割には、結果が出てるように見えないなって。そういう人、お見かけするなって。
――映画でも「趣味、人間観察」というくだりが出てきて大笑いでした。
あれ観てドキッとする人絶対いるよね。「俺、Facebookに“趣味、人間観察”って書いてる!今日、帰って消そう」って思うかもしれない(笑)。あれって「俺は君たちよりも人間のことをよく理解しているからね」ってアピールな訳じゃん。でも、「それを寒いぞと思っている俺に気付いてない時点で、人間観察できていないんじゃない?」って言いたくなる(笑)。
――すでに観察できていないっていう。(笑)。
だから、梅川のキャラクターを書いているときは、すごく楽しかったです。書けば書くほど、俺の意地悪な人間性が出てくるなって。ただ、仕事は上手くこなすだろうなって。やることはやる男なんだろうなと。だから、それだけ自信を持っているんだろうなって。
――少しお話が戻りますが、『空白』の次に『神は見返りを求める』を作られたということで、ということは次回作はまたヘビーな作品に戻りますか?
戻るね。次は『空白』の第二弾くらいの感覚。覚悟しておいた方が良いかもしれないですね。メンタルやられる映画が出来ると思います。ある意味、『空白』より重いもの…答えの出なそうなものを書いて、また気持ちが凹んで。そういうのをやると、また次回作で楽しい作品を撮ろうと思う。
この映画、とにかくゆきのが可愛かったからね。ムロも楽しいしさ。『空白』も撮影自体は楽しい現場ではあるけど、話が重すぎて悪ふざけできないじゃん。「うまそうなお菓子があるよ!」とか言いづらい空気感で。でもこの映画はみんなでお菓子を取り合えるくらいの良い現場で、緊張もなく楽しかったですね。
ムロさんもゆきのちゃんも俺の映画に出てくれるの2回目だしさ。これまで12本映画を作ってきてメイン2人とも知ってる人というのは初めてでしたね。過去に麻生(久美子)さんが2回出てくれているくらいで。若葉くんは初めてだけど人を緊張させないし、とにかく楽しかったな。
――本作の公開はもちろん、次回作も楽しみにしております。今日はありがとうございました!
『神は見返りを求める』
ムロツヨシ 岸井ゆきの
若葉竜也 吉村界人 淡梨 栁俊太郎
田村健太郎 中山求一郎 廣瀬祐樹 下川恭平 前原滉
監督・脚本:田恵輔
主題歌:空白ごっこ「サンクチュアリ」 挿入歌:空白ごっこ「かみさま」(ポニーキャニオン) 音楽:佐藤望
企画:石田雄治 プロデューサー:柴原祐一 花田聖
撮影:志田貴之 照明:疋田淳 録音:鈴木健太郎 美術:中川理仁 装飾:畠山和久 編集:田巻源太 VFXスーパーバイザー:白石哲也
衣裳:松本紗矢子 ヘアメイク:杉山裕美子 スクリプター:増子さおり 音響効果:渋谷圭介 キャスティング:川口真五 助監督:松倉大夏 制作担当:森田勝政
音楽プロデューサー:杉田寿宏 ラインプロデューサー:島根淳 宣伝プロデューサー:宇佐美梓
配給:パルコ 宣伝:FINOR 制作プロダクション:ダブ ©2022「神は見返りを求める」製作委員会
■公式サイト:kami-mikaeri.com ■Twitter:@MikaeriKami
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https://getnews.jp/archives/3120340
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