『生きててよかった』木幡竜インタビュー「“引退後のボクサーたちの幸せ、幸福感は何だろうか”をずっと考えてきた」

昨年放送のドラマ「アバランチ」で“最狂の敵”役を演じ注目を集めた、俳優・木幡竜さん主演の映画『生きててよかった』が5月13日より公開中です。

【ストーリー】
長年の闘いが体を蝕みドクターストップによって強制的に引退を迫られたボクサー・楠木創太は、第二の人生を歩むため恋人との結婚を機に新たな生活を始めるも、社会に馴染めず苦しい日々を過ごす。そんなある日、創太のファンだと名乗る謎の男から大金を賭けて戦う 欲望うずめく地下格闘技へのオファーを受けるが…。

年齢と身体の限界を超えてもなお、闘い続けることでしか生きる価値を見出せない元ボクサーの主人公・創太を演じたのは、自身もプロボクサーという経歴を持つ木幡さん。プロボクサー、サラリーマンを経て一念発起で俳優を志し、中国映画『南京!南京!』(09)で高い評価を得ると、翌年にはアンドリュー・ラウ監督の『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』でドニ―・イェンらと並び、悪玉のトップを演じ異彩を放ちました。

本作の撮影の為に10kgの減量をし、ボクシングシーンも自ら挑むなど体当たりの演技を見せてくれた木幡さんにお話しを伺いました。

――本作大変楽しく拝見させていただきました。ボクシングを題材にした映画ですが、それ以上に一人の男の生き様が描かれていてアツくなりました。

そう言っていただけて少し安心します。自分で主演させていただきながら、「これ共感してもらえるのかな?」という不安があったので。今も不安ではあるのですが(笑)。

――いえいえ、本当に面白かったです!特に、鎌滝恵利さん演じる幸子とのシーンは何とも言えない感情になる女性が多いのではないかと感じました。

そう思っていただけたらありがたいです。鎌滝恵利さんとは後半に特に激しいシーンがあって、撮影も困難な事が多く、本当に大変でへとへとになりながら撮影しました。戦友の様な存在だと思います。

――木幡さんは創太と同じく元ボクサーという経歴をお持ちですが、本作にはご自身の経験や感じたことなども反映されているのでしょうか?

性格やキャラクターは自分と全然違うとは思うんですけど、崖っぷちで、一生懸命生きている滑稽な男ってところは似ていると思います。創太はリングの上でしか呼吸ができませんが、僕も、カメラの前に立って、そのパンチの代わりに演技をしている様な、そんな感覚です。

自分自身もボクシングをしてきた経験があるので、「引退後のボクサーたちの幸せ、幸福感は何だろうか」ということをずっと考えてきて。その想いからプロデューサーに企画を伝え、6年ほどの時間をかけてこの映画が完成しています。

――「ここでしか生きられないんだ」という創太の、無口なのに表情から滲み出ている切実さがありました。本作のアクション監督を『ベイビーわるきゅーれ』の園村健介さんが務めていらっしゃいますが、ご一緒していかがでしたか?

キャラクターの心情や物語を表現するようなアクションを演出される方だなと思いました。おっしゃった様に創太はセリフ数は少ないのですが、パンチの拳に感情がのっていくタイプなので、カッコ良く見せる為のアクションというのとは違うのだと思います。

――見せるアクションではなくて本物の混じり合いというか、実際にパンチをくらうこともあったのですよね?

冒頭のボクシングシーンで、ダウンしているところは僕の希望で実際にパンチを当ててもらっています。どうしてもダウンするときの精気を失った顔を撮ってもらいたかったので。本当に崩れ落ちるほどの威力でした(笑)。ただ、実際に戦ってそれを撮影するというわけではなくて、全部計算でカット割りから動きから本当にセンチ、ミリまでこだわって動きを完全に決めて撮っています。創太が工場で同僚を殴ってしまうシーンがあるのですが、あの時のお相手の安田ユウさんは格闘技未経験者なので、すごくリアルな反応になっていて、良いショットが撮れているなと思いました。

――木幡さんは、ボクサー、サラリーマンという経験を経て、単身中国に渡り中国映画に出演されていますが、もともと中国映画のアクションが好きで渡中されたのでしょうか?

それがそうではなくて、俳優の仕事が出来るのなら、と、しがみついていった感じで、今の中国映画市場の発展について先見の明があって選んで行ったわけでは全く無くて。与えられた環境で必死でした。最初は日本人役だったりするので、中国語の勉強も全然やりませんでした。でもその後、中国語の台詞がある役を頂けたので、中国語を勉強する様になって、中国語で話したり、中国語でちょっとギャグの様なことを言ったりすると、皆さんすごく喜んで笑ってくれるので、それが僕の楽しみになっていった部分もあります。

――これからも、国内外で木幡さんの活躍が拝見出来そうですね。

中国映画はもちろん魅力的ですし、予算もたくさんあり、1つのシーンで6台のカメラに撮ってもらう、なんてこともありました。なので、もちろんチャンスがあったらまた参加したいです。でも、元々僕は古い日本映画が好きで、溝口健二監督とか、成瀬巳喜男監督の作品が特に好きです。いつかそういった、繊細で綿密に書かれた作品に出演出来たら、と、もっと努力しないといけないなと思っています。

――とても楽しみにしております。最後に、『生きててよかった』を拝見した後から、ずっと木幡さんにお聞きしたいことがあって。私は本作のラストシーンがすごく好きなのですが、木幡さんから見て、創太は幸せだったと思いますか?

幸せだったと思います!あれ以上ない終わり方だったと僕は思っています。もちろん、観る方によって感じ方が違うと思うので、ぜひ皆さんの感想をお聞きしたいです。

――今日は素敵なお話をありがとうございました。

撮影:オサダコウジ

(C)2022ハピネットファントム・スタジオ

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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