『ベイクオフ・ジャパン』審査員・石川芳美に聞く「パン作りで大切にしていること」「感銘を受けたベイカーの言葉」
『バチェラー・ジャパン』シリーズや、『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シリーズなど、数々の人気バラエティ・リアリティ番組を配信してきたPrime Video が、初のクッキング・リアリティ番組となる『ベイクオフ・ジャパン』シーズン1を独占配信中です。
総勢10名のアマチュアベイカーたちが、限られた時間内でお菓子やパン作りの腕と感性を競い合うクッキングコンテストで、様々な試練を乗り越える中で生まれるベイカーたちの絆や、成長をドラマチックに描く本シリーズ。ベイカーたちを厳しくも温かい目線でジャッジする審査員に、「Toshi Yoroizuka」のオーナーを務める鎧塚俊彦氏と、日仏ベーカリーグループのオーナーでパン職人の石川芳美氏が就任。番組のホストを坂井真紀さんと、 工藤阿須加さんが務めています。
今回は、審査員を務めた石川芳美さんに貴重なお話を伺いました!
――『ベイクオフ・ジャパン』という番組で審査員としてオファーを受けたときはどのような心境でしたか?
ただただ光栄で、とても嬉しかったのを覚えています。『ベイクオフ』シリーズはフランスでもやっていてもともと知っていたので、声をかけていただいたときは驚きました。私はパン業界の方には知ってもらえているかもしれませんが、日本で有名なわけではないですので、「よく私を見つけてくれたなぁ」と嬉しかったです。
――番組に参加してみて印象に残っていることはありますか?
何と言ってもすべてがリアルで“ガチ勝負”だったので、これほどリアルなんだということに驚きました。テクニカルチャレンジでは私も鎧塚さんもベイカーの皆さんが作っているところは一切見ておらず、本当に番組を見て初めて作る過程を知った感じで。そこまできっちりリアルに作るんだなっていうところに一番驚きました。あとは何よりも、ベイカーの皆さんの間に生まれるヒューマンドラマっていうのも、日本人らしさが溢れていて、イギリスやフランスの番組と少し違って面白い所だと思います。あと、お菓子のクオリティも日本はやはり高いなと思いました。
――鎧塚さんとのご共演で刺激を受けたことは?
お互いにその道で長くやってきた者同士ですが、やっぱり素晴らしいプロの方だなと思いました。経験値もボキャブラリーの数も豊富でいらっしゃって、コメントもすごく的確だし、本当に素晴らしいパティシエの方だなと。こんなにすごい方なのにとてもフレンドリーで気さくな方で、人間的にもすごく尊敬できる方だなと感じましたし、非常に勉強になりました。鎧塚さんのお隣に立つには私はまだまだ未熟なんですが、もっともっと私も勉強しなきゃって刺激をうけました。
――番組ホストを務めた坂井真紀さんと工藤阿須加さんとのご共演はいかがでしたか?
お二人のバランスが本当によかったなと思います。坂井さんはとってもお優しい方で涙もろくって、いつもベイカーの皆さんに感情移入されていて、ベイカーの皆さんを支えるホストという立場にぴったりだなと外から見ていても思いました。工藤くんはガッツに溢れる方で、いつも「がんばれ!」って励ましながらベイカーさんたちをすごく支えていらっしゃいました。私たちは審査員として審査をする立場でしたけど、その後ろでおふたりがベイカーのみんなとより深くかかわって支えていているなという印象を受けましたね。
――石川さんがパン作りを本格的に始めたきっかけは?
もともとは音楽を3歳から26歳までやっていて、パン作りなんてまったく興味がなかったんです。前の夫が家業で漬け物屋をやっていて、私は二代目の若女将として嫁ぐことになったんですが、当時の私は二代目の若女将になるのに漬け物がどういうものなのかを全く知らないのはまずいんじゃないか、発酵とはどういうものなのかを勉強しておかないとヤバいんじゃないかと思っていたんです。
でも、子供もいたので、なかなかそこから東京農大などの大学に通って、発酵について一から学ぶことはできないしどうしよう…と思っていたときに、たまたま近所のパン教室が生徒募集をしていたんです。そのポスターを見て、「ここに行けば発酵の勉強ができるかもしれない!」と思ってそのままパン教室に通うようになったのがきっかけです。パンも漬け物も、発酵するという点で一緒なんですよね。そこからは凝り性な性格も相まってパン作りにどんどんのめり込んでいって、結果的に自分でパン教室を開いたりお店を開いたりするまでになりました。
――発酵を学ぶと思った事が最初のきっかけだったのですね。パン作りにおいて大切にされていることは?
パン作りの世界に入ってちょうど30年になるんですけど、今私は“食の中心”にいるんです。というのも、フランスではパンが主食で、日本のお米みたいなポジションなんです。なのでまずは「命を繋ぐ」ということが大切にしていることの一つです。そして、「生産者と消費者を繋ぐ」という意識も大切にしています。農家の方が生産した小麦を加工して消費者のもとに届けるという一番大切な役割を担っているのがパン屋だと思うんです。そのときに、「農家の方がどういう小麦を作りたかったのか、どういうパンにしてほしかったのか?」ということを考えながら私たちの技術を駆使して消費者の口に届くような商品に加工していくことが大事なんですね。私たちが良い物をつくればつくるほど生産者の作った小麦がたくさん消費者のもとに届くので、ただ単純においしいパンが作れるだけではなくどれだけ生産者に還元できるか、そのためにはどんな仕事をすればいいのか、ということを一番大切にしてきました。
――生産者さんへの還元を考えてパン作りをされているのですね。フランスではとてもパンが大切にされているのだと思います。
日本からフランスに来たときに、「パンって主食なんだ!」という単純な感想を抱いたのをとても覚えています。最近では日本でもパンをたくさん食べますけど、やはり日本の主食はお米で、パンは嗜好品ですよね。フランス人はパンがないと生きていけないんです。わかりやすい例で言うと、フランスではひとつの通りにパン屋さんがいくつかあって、日本でいうコンビニくらいたくさんあるんですね。そしてそのパン屋さんも定休日やバカンスでお休みすることもあるんですが、ひとつの通りで最低1~2軒はパン屋が開いていなければいけないって法律で決められているんです。通りにあるすべてのパン屋が閉まっているというようなことは絶対にあってはならないことなので、自由に休んだりはできない。なぜなら、近隣の住人に主食を提供しなければならないという責任がパン屋にはあるから。
コロナでロックダウンしている最中でも、「パン屋は閉めてはいけない、営業しなければならない」という指示が出ていたんです。日本ではそれぞれの家庭でお米を炊きますけど、フランスではおうちでパンは焼かずパン屋で買うんです。なのでフランスでパン屋が開いていないというのは、日本でお米が手に入らなくなるようなもので、それだけパン屋が食の中心にあるんです。
――すごく素敵なお話を教えていただきありがとうございます!パンやパン作りが登場する、石川さんが好きな作品はありますか?
『ベイクオフ・ジャパン』です!(笑) 他にはあんまり思いつかなくてすみません。私、パンオタクなんです。パンのこと以外は全然わからなくて。リアリティ番組みたいなのもあんまり見ないし、そもそも家にテレビがないんです。でも『トップ・シェフ』はネットでアーカイブを観れるので最近はよく見ています。私は基本的に365日ずっとパン屋にいて、パンばっかり見て暮らしているんです。パンを作るか売るかのどっちかです。
――石川さんがパンオタクであるからこそ、私たちも美味しいパンをいただけるのですね。最後に、この番組をどんな方に観ていただきたいか、見所をお願いいたします!
パンとかお菓子が好きな人はもちろんですが、夢を追いかける方に観ていたきたいです。今回ベイカーたちを見ていて思ったのは、彼らにとってパンやお菓子作りは大切な人への愛情表現や自分の想いを伝えるツールでもあるということにすごく感銘を受けたんです。それって視聴者の方にも通じるところがあると思います。この番組を通して、何かを伝えたり何かを目指したり、何かを続けることで結果がついてくるんだっていうことが、パンやお菓子作りをしない人でも響くものがあるんじゃないかなと。
「失敗しながらもこうやってコツコツ続けていけばいいんだ」って思ってもらえるかなと思います。また、脱落していくベイカーさんのコメントで興味深かったのが、「これで明日からまた頑張れます」っておっしゃるんですね。この番組の趣旨はまさにこの言葉にあるのかなと思っていて。「やるだけやったからもう後悔はない、明日からまた頑張れる」って思えるのは、コンテストで負けたことよりも自分に打ち勝つために頑張ったという意味合いが彼らにとって大きいからだと思うんです。そういった姿勢が、何かを頑張っていたり夢を追いかけている人に響くんじゃないかなと思います。何かに打ち勝つ方法はたくさんあって、「負けたようでも実はそうではなくて、新しい何かがまた始まるんだ!」みたいなところを見ていただく人に感じてもらいたいなと思います。たくさんの人に見てもらえたら嬉しいです。
――今日は素敵なお話をありがとうございました!
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