開幕連敗記録を作った“トンボ”はどんなチームだったのか

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2021年を2位で終え、V奪還に燃えて2022年シーズンに入った阪神タイガース。しかしなんとセリーグ開幕連敗記録を更新する9連敗と最悪な形のスタートになってしまった。

プロ野球の開幕最多連敗記録は12。1955年のトンボユニオンズ、1979年の西武ライオンズの2チームが記録している。阪神の連敗が続いていたとき、この2チームの名前を報道で目にした人も多いはず。西武ライオンズは79年に連敗記録を作り最下位になってしまうが、その後は皆さんも知る通り常勝軍団になり、以降42年もの間最下位に沈むことはなかった(2021年に42年振りに最下位に…)。

さて、コアなプロ野球ファンでも「トンボユニオンズ」について詳しく知っている人は少ないだろう。このトンボユニオンズはプロ野球黎明期にたった3年(厳密にはたった1年)だけ存在した球団なのである。今回は阪神の開幕連敗で名前を耳にするようになったトンボユニオンズがどのようなチームだったのか紹介していきたいと思う。

始まりは親会社なし!唯一の個人名を冠してスタートした球団

プロ野球が現在のような2リーグ制になったのは1950年のこと。当時はセリーグ8球団、パリーグ7球団でスタートした。50年オフにセリーグの西日本パイレーツがパリーグの西鉄(現西武)と合併して消滅。52年オフに大洋(現DeNA)と松竹ロビンスが合併してセリーグが現在の6球団になった。一方、パリーグは7球団のままで、奇数だと試合の編成をする上で必ず試合の無い球団が出てしまうため、パリーグも6球団への縮小が叫ばれていた。

しかし53年オフ、大映スターズのオーナーだった永田雅一氏がパリーグ総裁に就任すると、縮小ではなく8球団への拡大を目指した。しかしオーナー会社は簡単には見つからず、永田氏と親交のあった高橋龍太郎氏に白羽の矢が立てられた。
高橋氏は大日本ビール(アサヒビール、サッポロビールの前身)の社長を務めた人物で、大の野球好きだったそう。高橋氏は永田氏の8球団構想に賛同し、なんと私財を投じて球団を設立。川崎球場を本拠地にし、親会社なしの個人名を冠した「高橋ユニオンズ」が1954年のシーズン開幕前に誕生したのだった。

創設2年目で記録となる開幕大型連敗 止めたのはあの大投手だった

高橋ユニオンズには当時38歳のスタルヒンなど、峠を越えて他球団では戦力にならなくなった選手たちばかりが集まった。そんな寄せ集めチームでも54年シーズンは健闘し、最終的には6位に。しかし観客も集まらず、高橋氏の財力を頼りにしている球団はいきなり経営難に陥った。
そこで高橋氏はシーズン単位でのスポンサー探しを始めた。ネーミングライツのようなもので、文房具でおなじみのトンボ鉛筆との契約に至り、1955年はチーム名をトンボユニオンズとした。
こうしてトンボユニオンズは55年シーズンに入ったが、いきなり開幕12連敗と負けに負けまくってしまう。この開幕連敗を止めたのがあのスタルヒン。被安打5、7奪三振の完封で2-0で勝利し連敗を止めた。通算297勝目、83度目の完封勝利でスタルヒンにとってはこれが最後の完封勝利になった(83完封はNPB最多)。スタルヒンはこのシーズン中にNPB初となる通算300勝を達成した。
しかしチームは大型連敗を繰り返し、42勝98敗の勝率.300、最下位の8位に沈んでしまった。さらにトンボ鉛筆も1年でスポンサーを離れ、チーム名は再び高橋ユニオンズに。

高橋ユニオンズのその後

54年、55年と低迷するチームをなんとか支えるため、高橋氏は家を売るなどして資金を作った。しかし創設3年目となる56年も2年連続で最下位に沈み、パリーグは6球団縮小を進めていくことになった。そして57年2月に高橋ユニオンズは大映スターズに吸収合併されることになり、プロ野球史上初にして唯一、個人名を冠したチームは消滅することになった。また大映はその後も合併をし、現在の千葉ロッテマリーンズに繋がっていく。

80年を越えるプロ野球の歴史において、たった3年、トンボユニオンズとしてはたった1年しか存在しなかった高橋ユニオンズ。開幕連敗という不名誉な記録ではあるが、これからも歴史の1ページにその名前を残し続けていく。

(Written by 大井川鉄朗)

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