【現地レポート】維新の会「兵庫攻め」第1ラウンドの伊丹・宝塚市長選で大惨敗

伊丹市長選挙の掲示板

日本維新の会が今年7月の参議院議員選挙に向けて党勢拡大の第一歩として、また共同代表である橋下徹大阪市長と“道州制”の是非をめぐって衝突を繰り返している井戸敏三兵庫県知事との“頂上決戦”の前哨戦として、公認候補を立てて挑んだ兵庫県伊丹市と宝塚市の市長選。14日に投開票が行われ、両市長選とも維新候補が現職に大差を付けられて惨敗を喫しました。また、市長選挙と同時に行われた両市議会議員補欠選挙でも維新候補は元職に競り負けて4戦全敗と、まったくいい所がない結果に終わりました。

告示前には接戦も予想されていた中、維新候補がいずれも現職に空前の大敗を喫した理由は以下のように、最低でも5つは挙げられます。

その1:「伊丹廃港」隠しが裏目に

伊丹市長選で「空港の存続・活性化」を最重点公約に掲げて出馬した現職の藤原保幸市長に対し、維新共同代表の橋下氏はかねてから関西国際空港への機能集約を前提に「大阪国際(伊丹)空港廃止」を強く主張していました。

維新が擁立した元市議会議員は市議時代に飛行場問題対策特別委員会の副委員長を務めるなど、空港存続の立場で活動していた経緯があり、公認を得るために「存続」から一転して「廃止」へ変節したイメージが最初から付きまとっていました。出馬が決まった後の街頭演説でも聴衆から「変節」を問いただされることが多く、対応に苦慮した維新は「空港の存廃は市民が決めるべきで官が口出しすべき問題ではない」との見解をまとめて廃港問題を事実上“棚上げ”。争点化を避ける作戦に出ましたが、この“棚上げ”処理が却って「争点隠し」と受け取られ、他の陣営に追及の材料を与え「現職に挑戦する側が守勢に回る」という、奇妙な対決構図となってしまいました。

しかも、維新の方針に従って空港を廃止した場合にその分の税収入をどう穴埋めするのか、それとも単に削るだけなのかや跡地利用についてはっきりしたビジョンが示されなかったことにも不信が広がり、結果的に選挙戦の序盤から大きくつまずいてしまいます。

その2:明確に拒否された「阪兵併合」

昨年末の総選挙で伊丹・宝塚両市を含む兵庫県第6区では維新の比例票が政権を奪還した自民党を押さえてトップとなり、この選挙結果が兵庫県知事選と神戸市長選を前に足がかりを築くべく両市長選への公認候補を擁立する契機となりました。ところが、実際に選挙戦へ突入すると維新はホームグラウンドの大阪府から一歩踏み出した先で予想だにしなかった強烈なアウェイの風に直面してしまったようです。

その最たる理由は市長選の告示前、浅田均政調会長が伊丹の候補予定者集会で選挙戦を前に伊丹・宝塚両市を含む阪神間と神戸市を「大阪都」に吸収する“阪兵併合”を提唱したことにあります。維新側は当初「浅田氏の個人的見解」として火消しを図ろうとしましたが、時既に遅し。伊丹・宝塚の両市では「地図上から市の名前が消える」と言う危機感が急速に拡大し、維新以外の陣営は一斉に維新を狙い撃ちして「大阪都拡大反対」「兵庫を守れ」の論陣を張ったので現職に挑むはずの維新陣営は防戦一方で、前述の伊丹廃港と合わせて逃げの一手に追い込まれてしまいます。

3選を果たした伊丹市の藤原市長は選挙戦を「対立候補というより、橋下市長と戦っている気がした」と振り返ると共に、「大阪府知事や大阪市長が乗り込んで“伊丹をこうすべきだ”と言うのはいかがなものかと思い“伊丹を大阪の植民地にしてはいけない”と訴えて来た」と、維新が掲げる“阪兵併合”への拒絶が4万1267票を獲得。維新候補にトリプルスコアの圧倒的大差を付けての勝利につながった一因であるとの認識を示しました。

その3:大阪府・市で進む「文化破壊」拡大に対する危機感

「阪兵併合」や「伊丹廃港」に比べると余り大きく取り上げられていない“隠れた争点”として、市の文教施設に関する問題があります。宝塚市は来年で100周年を迎える宝塚歌劇だけでなく、当地で少年時代を過ごした“漫画の神様”手塚治虫記念館、スイス製のパイプオルガンと美しいステンドグラス装飾で人気のコンサート会場ベガ・ホールなど充実した文教施設が数多く存在し、また伊丹市には全国的にも珍しい昆虫館や今年3月に22年ぶりの設備更新で最新鋭の投影機を導入したプラネタリウム、昨年7月に移転開館し市民有志が参加する運営委員会組織で注目を集めている新図書館“ことば蔵”、日本有数の西洋版画コレクションで知られる市立美術館など政令指定都市にひけを取らない文教施設が多数存在します。

両市の“個性”であり、またその施設やイベントを大阪府内を含む周辺の市町から両市への集客につなげている文教施設が維新市政になった場合、活用から一転して冷遇され、最悪の場合は廃止かジャンク扱いで民間に売却されるであろうことは想像が容易。橋下氏が大阪で府立中央図書館への統廃合を強行した国際児童文学館を始め、府立中之島図書館、大阪フィルハーモニー交響楽団、そして文楽に対して行っている冷酷な仕打ちを見れば分かるでしょう。

宝塚市で再選した中川智子市長は、市内唯一の映画館“シネ・ピピア”がデジタル映写機の導入費用を自力で拠出することができず廃館の危機におちいった中で、館の存続を求める市民の陳情を受けて今年度予算案にデジタル化費用580万円を計上しましたが、多くの市民がこの対応を評価すると共に「維新市政ではとても実現しなかった」と考えてもおかしくありません。

その4:投票前日の地震対応そっちのけで応援演説

橋下市長と幹事長を務める松井一郎大阪府知事は選挙期間中、2度にわたって伊丹・宝塚の両市で応援演説を行いました。2回目の応援演説は投票前日の13日でしたが、この日の早朝には淡路島付近を震源とする震度6弱の地震が発生。幸いにして死者は出なかったものの、震源に近い淡路島や阪神間など兵庫県内のみならず、泉南郡岬町で震度5を記録した大阪府内でも、住宅の部分損壊や水道管の損傷が確認されました。1995年に阪神・淡路大震災を体験した兵庫県が地震の発生後、ただちに対策本部を設置して状況確認に努めたのに対し、大阪府では防災情報メールの送信がシステムエラーで失敗していたことが判明するなど、対応の甘さが目立ちました。

そんな中、首長として優先すべき地震への対応そっちのけで政党幹部として隣県の選挙へ遊説に行った橋下・松井の両氏。18年前の震災と同じ早朝の地震であの時に大きな被害を受けた記憶が鮮明によみがえった伊丹・宝塚の両市民から冷ややかな視線を浴びせられたのは当然と言うべきでしょう。東日本大震災から2年が経過し、防災が市町村レベルで重要政策と位置付けられる中で、維新の防災に対する意識の低さが投票日前日の地震で露呈したのは余りにも皮肉な現象でした。

その5:決定打となった「宝塚市民にはなりたくない」

橋下市長と松井知事が当の候補者を押しのけて伊丹・宝塚の両市民に対して“上から目線”で 「維新流改革」をまくし立てる応援演説もとにかく不評でした。伊丹では藤原市長が国土交通省出身である経歴に難癖を付けて「天下り官僚に大阪のような市役所改革はできない」と連呼するも共感はまるで広がらず、それ以上に宝塚で市民の怒りを呼び起こしたのは、橋下氏が口にした「僕は宝塚市民にはなりたくない」の一言です。

大阪で維新を躍進させた要因が大阪市役所の職員モラルの低さだったのと同じ感覚で公務員バッシングを加熱させる余り、宝塚市職員の給与水準が全国一であることを槍玉に挙げて「宝塚市民にはなりたくない」と、よりによって当の宝塚市民の前で公言したのです。しかも、この時の応援演説の様子を維新支持者が録画して『YouTube』にアップロードしたものが狙いとは正反対の意図で広まり、その場に居合わせた聴衆以外の市民にも知れ渡るところとなりました。その結果「橋下氏が“僕は宝塚市民になりたくない”と言ったと聞き、怒りでいっぱいだった」と振り返った中川市長は、前回より約18000票も上積みする4万3447票と、維新候補に2万票以上の大差を付けて“完勝”しました。

結局のところ両市とも現職に重大な失政がなく、維新の候補者が現職以上に両市民が行政に求めているものをきめ細かく拾い上げて明確なビジョンを提示する姿勢が決定的に欠けていたのが最大の敗因だったと言えます。

まとめ:郷に入りては郷に従え

維新は国政において一応、野党に分類されていますが、今や衆議院で3分の2を押さえ高支持率をキープしている安倍政権にすり寄る姿勢が目立ち、また3月の党大会で採択された旧たちあがれ日本系の右派色が色濃く出た党綱領や大阪市会議員が陳情書をゴミ箱に投棄した写真をブログにアップロードする非常識な行動、相次いで発覚した迂回寄付問題など「自民党との違いがわかりにくくなっている」「議員の前に社会人として問題がある」と言う不満が昨年の総選挙で投票した(橋下氏言うところの「ふわっとした民意」である)ライトな支持層の離反を招き、昨今の支持率低迷につながっているようです。

関西でも、大阪府から一歩外に出ると「維新」ないし「橋下」ブランドがまるで通用しなくなっている結果をまざまざと見せつけられたことに対し、橋下・松井の両氏は15日に在阪局の取材で敗因を尋ねられ「党の実力不足」「維新の政策が理解されていない」と述べましたが、むしろ維新の掲げる政策が伊丹・宝塚両市が抱える課題の解決方法として全く不適であると言う審判を下されたと謙虚に受け止めるべきところでしょう。

「郷に入りては郷に従え」。今回の伊丹・宝塚両市長選で“維新流”の押し付けが反発を招いた結果、このような大惨敗を招いた事実への反省なくして兵庫県知事選や神戸市長選、ひいては大阪府内で“反維新”の砦となっている堺市長選を戦国時代の感覚で“獲り”に行っても、同じ失敗を繰り返すだけに終わるのは目に見えています。

写真:伊丹市長選挙のポスター掲示場(筆者撮影)

※この記事はガジェ通ウェブライターの「84oca」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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