新政権が打ち出す介護職の賃上げ。本当に大切なのは介護の持続可能性

【科目】介護✕在宅介護 【テーマ】注目を浴びる介護職の賃上げの本当の目的
【目次】
介護職員の賃上げの議題が出たことは、介護業界にとってプラス支給対象の選定や支給方法には課題も多いそもそも介護職員の賃上げは手段であって目的ではない持続可能な介護業界になるために各自ができることを!
有限会社リハビリの風の阿部洋輔です。
新政権が打ち出した介護職員の月額9,000円賃上げの話題が出て以降、介護業界はさまざまな面で注目されています。
本質的には、介護職員の賃上げは「持続可能な介護業界をつくる」ための手段だと感じます。
今回は、この介護職員の賃上げと持続可能な介護業界について考えていきたいと思います。
介護職員の賃上げの議題が出たことは、介護業界にとってプラス
今、介護業界は職員の賃上げ議論に湧いています。これまでも介護業界の賃金は一般企業の給与水準に比べて低いことが指摘されてきました。そして、紆余曲折を経ながらも、今回賃上げが実施されることとなります。
いまだ3K(きつい・汚い・危険)のイメージが強い介護業界にスポットライトが当たり、エッセンシャルワーカーの待遇改善が話題に上がったことは、介護業界で働く者としてはとても喜ばしいことです。
支給対象の選定や支給方法には課題も多い
今回の賃上げについて、課題と指摘されている点をおさらいしましょう。
1.支給対象が曖昧?
介護業界で賃金を上げる場合、まず「どういう事業所の形態で、どういう職種の人まで支給されるのか」が問題になります。岸田首相の所信演説では、介護業界で働く人のことを「介護士」と表現していました。
介護職という呼称は一般的ですが、「介護士」という資格はないため、介護業界で働いているどの部分を対象にするかが不明確になってしまいます。すでにさまざまな団体でも動きがあり、介護業界で働く理学療法士・作業療法士が支給対象に認められる一方、ケアマネジャーは支給対象から外れるとされました。これに各団体が反発しており、まだどのように収束するかわかりません。また、多職種の職員で決められた補助金を分配することになれば、1人9,000円という金額が減ってしまう可能性が大いにあります。
2.支給方法にムダがある?介護職員の処遇を改善するための「処遇改善加算」は9割以上の介護事業所が加算しており、今回の補助金は、その事業所経由で現場の介護職員に分配されることになります。介護事業所は、この補助金をもらうために書類を準備する必要がありますし、支給後はこの補助金が正しく配分されているかを市区町村が確認することになっています。事務作業が積み重なれば、介護業界の「ムリ・ムダ・ムラ」を助長することになってしまうのではないでしょうか。
そもそも介護職員の賃上げは手段であって目的ではない
介護職員などの賃上げは、「持続可能な介護業界をつくる」という目的を達成するための手段です。
介護職員の賃上げが行われることで、介護現場での働きが報われたと感じる人がいます。
ただ、それだけで将来の介護業界が安泰というわけではありません。現場で働いている人に補助金を支給することが今後の介護業界をより良くする唯一の解決策ではありません。ほかにも次のような課題を解決していく必要があります。
介護業界にはびこる「ムリ・ムラ・ムダ」を減らす(ICT化による書類仕事の削減、ロボット導入による業務効率化)介護事業所が効率的に運営できるようなルールの変更(実地指導の簡素化)
すでに業界として取り組んでいることも非常に大切になってきます。
持続可能な介護業界になるために各自ができることを!
エッセンシャルワーカーの介護職員の処遇を改善しようとする流れがでていることは、とても喜ばしいです。
とはいえ、俯瞰してみれば、介護職員にお金を支給するために、余計な事務コストをかけていては本末転倒ではないでしょうか。介護業界の「ムリ・ムダ・ムラ」は、まだまだ残っており、その解消に向けてやるべきことは山積しています。
ただ、今回の介護職員賃上げの取り組みが「持続可能な介護業界になる」ためのひとつのきっかけになってくれたらと思います。私たちは現場で行えることを着々と行っていくことが大事ではないでしょうか。
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