理学療法士が教える歩行と認知機能。日々の運動がもたらす介護予防

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理学療法士が教える歩行と認知機能。日々の運動がもたらす介護予防

【科目】介護✕リハビリ  【テーマ】認知機能の低下予防には生活の中での運動が大切

【目次】
歩行は認知機能の低下を抑制する効果がある歩行障がいがあったら認知症を疑うべき?日々の外出や運動と介護予防のポイント

こんにちは。理学療法士兼webライターの森田亮一です。

今回は、歩行と認知機能の関連から、日々の運動習慣について解説します。

日本では、認知症高齢者が増加し、社会問題として取り上げられることも少なくありません。日本の認知症有病率は65歳以上で約17%とされており、他人事と思えないほどの高い数値を示しています。

運動と認知機能の関連性を学び、自らの生活習慣をつくりあげて認知症に備えましょう。

歩行は認知機能の低下を抑制する効果がある

多くの論文で歩行を含めた運動は、認知症発症のリスクを低下させると示している

さまざまな疫学研究によって、「歩行を含めた運動を行っている人たち」と、「運動を行っていない人たち」では認知症の発症率が異なると示されています。

例えば、週3回以上運動したり、ウォーキングやダンスをしたりしている人は認知症発症リスクが低いといった結果を示す論文があります。

また、歩行速度が低下すると、軽度認知障害のある高齢者は認知症発症のリスクが高まるという論文もあり、歩行は認知機能において重要な関連があると認識して良いでしょう。

運動が認知機能に影響する理由

運動によって認知症発症のリスクが低下する理由としては、アセチルコリンが影響するとされています。

アセチルコリンは、脳内で感覚や認知機能、運動や記憶など、さまざまな機能と結びついている神経伝達物質の一つです。

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症では、脳内のアセチルコリンの減少が確認されており、治療薬としてドネペジル(アリセプト)という薬が用いられるのは一般的です。

ドネペジルとは、アセチルコリンを分解する酵素を阻害し、脳内のアセチルコリンの濃度を高めることができる薬です。濃度を高めることによって、認知機能が改善する症例が多数報告されています。

脳内のアセチルコリンの濃度が低くなってしまうと認知機能の低下が起きます。それを改善するために、治療薬を用いて脳内のアセチルコリン濃度を高めるようにしているのです。

運動とアセチルコリンの関係

運動を行うことで、脳内の神経に作用しアセチルコリンが増加する可能性があると考えられています。実際、ラットを用いた研究では、記憶を司る海馬という領域のアセチルコリンの量が増加したという報告もあります。

運動と認知機能を関連付けた論文は比較的少ないですが、認知機能を改善させる可能性を示唆する論文は存在しており、運動が認知機能改善の一助になる可能性があります。

脳内のアセチルコリンが認知機能に影響する

歩行障がいがあったら認知症を疑うべき?

歩行と認知機能の結びつきや、歩行速度が脳に与える影響などについて知ると「歩行に違和感があったら認知症を疑うべき?」と、もしかしたら考えてしまうかもしれません。

しかし、歩行障がいを引き起こす疾患は多く存在しています。以下に歩行障害を引き起こす疾患の例を紹介します。

水頭症パーキンソン病腰部脊柱管狭窄症脊髄小脳変性症脳卒中下肢閉塞性動脈硬化症

少なくとも上記のような疾患が考えられます。それぞれに現れる障がいは異なりますが、すべて歩行障がいを引き起こす可能性を含んでいます。

このように多様な疾患が考えられると、歩行障がいが出現したときに受診するべき病院の診療科はどこになるだろうと迷ってしまうかもしれませんが、まずは病歴や健康状態を把握している主治医に相談することから始めると良いでしょう。

日々の外出や運動と介護予防のポイント

運動と認知機能、脳が関連していることは多くの論文から示されています。

日々の外出や運動が、認知機能低下を防ぐ重要なポイントとなるのは間違いないでしょう。

日本の認知症患者の割合

現在、日本は超高齢社会を迎え、認知症患者数の増加が社会問題となっています。

日本は先進国の中でも、認知症の有病率が高い国とされており、内閣府は2020年の65歳以上の高齢者の認知症患者は602万人程度と示しています。認知症有病率が高齢者の16.7%にも達しています。

生活習慣病と認知症の関係

生活習慣病も認知症と関係性があるとされています。生活習慣病には、脂質異常症や高血圧、糖尿病が含まれ、血管に関連するものが多いです。血管へのダメージは、身体だけでなく、脳の血管にも影響します。

例えば、疫学研究においてメタボリックシンドロームがアルツハイマー型認知症の危険因子になっていることが報告されています。

認知症は生活習慣病との関連が強く、認知症自体が新たな生活習慣病と考えても良いのではないかという意見もあるほどです。そのため、認知症予防は普段の生活から見直す必要性があります。

日々の外出や運動を健康のためにどのように考えるか

認知症を含めて要介護状態を予防するためには、どのようにすれば良いのでしょうか。介護予防のポイントはやはり運動になってくるでしょう。

日本人の運動習慣は、週に1回以上の運動機会を持つ成人がほぼ右肩上がりに増加傾向にあります。しかし、同時に日本人の3人に1人が運動不足というデータも存在しています。

つまり、運動不足の背景は運動機会ではなく、運動以外の生活活動にあると考えても良いのではないでしょうか。

先進国では、交通機関や仕事を含め、座ったまま過ごす時間が増えてしまいがちです。最近ではテレワークが普及し、生活で動く機会が少なくなってしまった方もいるでしょう。

運動機会を増加させるには、空き時間を作り、生活リズムを変えていく必要があります。

ただ、生活リズムを大きく変えるのは現実的に難しいかもしれません。まずは今の生活の中で自然に動く機会を増やしていってみてはいかがでしょうか。例えば、以下のような行動を増やすと良いでしょう。

エスカレーターを使用せずに階段を使用する下にある物を取るときに屈伸運動をする買い物に行く回数をあえて増やす歯磨きをしながらスクワットをする掃除の回数を増やす自宅の階段をあえて多く昇降する車の運転中に歌う立ってテレビを見る

普段の生活の中で、できそうなことから行っていくと良いでしょう。

習慣をいきなり大きく変化させることは難しいです。少しずつ生活の中に運動を取り入れ、良い習慣をつくれるように意識することが大切です。

日々の生活の中で簡単な運動を取り入れる

歩行の歩数目標の設定

国土交通省都市局が発表している「まちづくりにおける健康増進効果を把握するための歩行量(歩数)調査のガイドライン」では、以下のように国民の歩行量の目標設定が示されています。

20~64歳の男性:9,000歩20~64歳の女性:8,500歩65歳以上の男性:7,000歩65歳以上の女性:6,000歩

この目標設定には理由があり、厚生労働省が2006年に発表した「健康づくりのための運動指針2006」において、運動目標を「1週間に23エクササイズ(1日あたり8,000~1万歩)」と定めたからとされています。

歩数が健康に及ぼす好影響

疫学研究においても、歩数に応じた健康への好影響が示されています。

1日1万歩:冠動脈疾患や高血圧症の発症率低下1日8,000歩:骨粗鬆症や筋肉の減少を予防1日6,000歩:動脈硬化を予防1日4,000歩:うつを予防

実際、1日1万歩程度を歩くには、その分の時間を確保する必要があり、実現することは簡単ではありません。

歩行を無理にしようとするのではなく、日常生活の中で行っている活動が運動となれば良いのです。

厚生労働省が定めた生活習慣病予防に必要な「1週間に23エクササイズ」ですが、1日あたりで考えると、1日に必要なのは約3.3エクササイズになります。

では、1日3.3エクササイズとはどれくらいの運動量か、以下にいくつか例を示します。

軽い筋力トレーニング:約62分掃き掃除:約60分体操:約54分立って料理をする:約54分速歩き:約47分自転車:約47分ゴルフ:約47分床磨き:約44分バドミントン:約33分軽いジョギング:約31分階段昇降:約31分ゆっくりとした水泳:約31分シングルステニス:約27分ランニング:約25分速い水泳:約16分

以上を参考にすると、だいたいの必要運動量の予想がつくのではないでしょうか。重要なのは、1週間の運動時間を総合して考えることです。運動量が少ない日があっても、別の日に多く運動するというのも良いでしょう。

日々の外出・買い物の回数を増やしたり、散歩に出かけたりするのも有効です。この記事を読んだことをきっかけに、生活習慣を見直してみてはいかがでしょうか。

厚生労働省が生活習慣病予防のために推奨した、1日1万歩の目標を達成するのは簡単ではありませんが、歩行のみに囚われず、1週間のトータルの活動量を考えていくことが大切です。

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