差別はネットの娯楽なのか(13)――防犯ブザーの不配布撤回と朝鮮学校に届いた善意
東京都町田市教育委員会は8日、朝鮮学校(西東京第二学校)に防犯ブザーの配布をしないとした3月末の決定を撤回した。不配布が5日の朝に報じられてから、約3日間の間で不配布について実に500件以上の問い合わせがあったという。
5日に朝鮮学校への防犯ブザーの配布とりやめについて記事にしてから、週末は何ともやりきれない時間を過ごした。月曜には協議が行われ、決定の撤回か否かの結果が分かるだろうとのことだったが、万が一撤回されなかったら?といった不安はぬぐえなかった。
しかし、正午が過ぎたぐらいに、ツイッター上で「防犯ブザーが配布されるようだ」とのRTが回ってきた。
すぐさま事実確認のため町田市教育委員会に連絡したところ、電話に出た職員は
「同日の午後までに行われた協議で、配布しないとの決定が撤回された。また、すでに朝鮮学校へは防犯ブザー45個を郵送している」
と説明した。
3月の決定と、その後の撤回の理由については、
「前回の決定は事務局内での判断であり、教育委員は不参加だった。重要な事例は教育委員も参加して行うべきとのことから」
というものだった。
協議の中では
「子どもの安全を守るのも教育委員会の役割」
「教育委員会はこのような決定を社会情勢のみで判断すべきではない」
との意見が出たとのこと。決して朝鮮学校だけを差別した前回の決定が間違っていたからとは、ひとことも言わなかった。
防犯ブザーは郵送ではなく、直接持参して朝鮮学校側に今回の件をきちんと謝罪しなければならないのでは、と一瞬思った。が、ひとまず今回の取り消しについて嬉しく思うとだけ伝え、電話を切った。
ネット上では、すぐさまこの撤回というニュースが飛び交った。フェイスブックでは、
「ハッキョ(学校)にも防犯ブザーが各地から送られてきました。学生数以上の数の、色んな種類の防犯ブザー。ほとんど日本の一般の方が報道を見て、住所を調べて届けてくれました。防犯ブザーだけではなく、
『大変な中で入学式を迎えて気持ちだけですが…』
と、お花とお金を学校まで届けてくれた方がいました。学校までの道がわからず、花を抱えながら通りを行ったり来たりしている姿を見た時、その花を受け取った時、涙がでました」
といった、同校の教員の話がシェアされ、それを読んだ時は胸が熱くなった。
町田市教育委員会は、当初は不配布の理由について
「北朝鮮との関係が緊張しているという社会情勢を考慮」
「(市民の)理解を得られない」
とした。
日本の市民は町田市教育委員会が思うよりもずっと、優しくて温かかった。私たちは、差別に出会うたびに声をあげるが、なかなかその声は届かない。大切なものを守りたいだけなのに、「外国人のくせに、権利ばかりを主張する」と逆に攻撃され、抑えつけられたりもする。次第に諦めることに慣れ、声も出なくなってしまう。
けれど、今回は違った。声を上げることによって、確実に何かが変わった。朝鮮学校の無償化除外問題や排外デモをはじめ、在日コリアンを取り巻く問題は山積みで、すべてが解決したわけではない。町田市教育委員会が、きっちりと朝鮮学校側に謝罪していないことも忘れてはいけないと思う。
けれど、まずは一歩前進。この社会は、まだまだ捨てたものじゃない。そして、この一件が、朝鮮学校無償化除外問題についてもこの社会が考え直すきっかけになればと願う。
画像: 朝鮮学校に届いた善意の品
(李信恵)
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