【第66回】とっとり方式認知症予防プログラムと町ぐるみでの支援、すべての住民がともに暮らせる社会を目指す

access_time create folder政治・経済・社会
【第66回】とっとり方式認知症予防プログラムと町ぐるみでの支援、すべての住民がともに暮らせる社会を目指す

認知機能の低下を防ぐ「とっとり方式認知症予防プログラム」を2017年に完成させた鳥取県。コロナ禍においても続けられるよう工夫を施し、認知症予防に力を入れている。認知症と共生できる社会をめざし、さまざまな取り組みを行う鳥取県・平井伸治知事に話を伺った。

【ビジョナリー・平井伸治】

認知症の予防を試みた新しいプログラムを開発予防と共生。現在進行形で2つのテーマに取り組む認知症と共生できる社会に

認知症の予防を試みた新しいプログラムを開発

北嶋史誉

鳥取県では、認知症研究の第一人者として知られる鳥取大学医学部の浦上克也教授と連携し、さまざまな取り組みや検証などを行っています。認知症は軽度のうちなら、投薬治療や生活習慣の改善などで進行を遅らせることができますから、早期発見が非常に大切なのです。

浦上教授は、軽度認知障害を早期に発見できるタブレット端末のプログラムを開発しました。県内の市町村でこのタブレット端末を取り入れ、浦上教授の指導のもと、早い段階から生活習慣の改善や投薬治療などでその後の進行を遅らせる、そうした形でもう10年以上前から認知症予防の取り組みを実践してきました。その発展形で生まれたのが「とっとり方式認知症予防プログラム」です。

検証を重ねた結果、「とっとり方式認知症予防プログラム」は認知症の予防に効果があることがわかりました。2017年の完成から4年経った現在、県内では市町村の予防教室や老人クラブ活動などでプログラムを取り入れています。ブログラムの実施によって認知症予防の効果実績が増えてくれば、介護保険の費用も減らすことが可能になります。実践することで多くのメリットが見込める取り組みですので、より多くの市町村にこのプログラムを積極的に取り入れてほしいと思っています。

「とっとり方式認知症予防プログラム」とは

「とっとり方式認知症予防プログラム」とは、鳥取県と日本財団との共同プロジェクトで、鳥取大学・伯耆町・鳥取県が連携し、浦上教授を中心に開発した独自の認知症予防プログラムのこと。準備運動、有酸素運動・筋力運動、整理体操の「運動」を50分行った後に、20分間の休憩または「座学」で認知症について学び、最後に思考力や判断力などを刺激する「知的活動」を50分行う。約2年間にわたる伯耆町で行われた実証実験から、この一連のサイクルを週1回行うことにより、認知症の発症や進行を遅らせることができると証明されている。

このプログラムには、認知症予防の効果だけでなく、「高齢者が絆を感じられる安心の居場所」を提供する役割もある。参加者同士が新しく知り合い、指導スタッフの医療職・介護職とも顔見知りになれるため、高齢者の孤立化を防ぐことができる。参加していく毎に仲間意識が高まり、自信を取り戻していく高齢者も多いという。

s02伯耆町教室運動rc=
「とっとり方式認知症予防プログラム」に参加する人たち

動画公開、通信教育方法。コロナ禍でも続けられる工夫を

週1回のプログラム参加を楽しみにする高齢者も増えてきた頃、新型コロナウイルス感染症の流行が始まった。認知症予防だけでなく、自宅に閉じこもる生活が引き起こすフレイルの予防も兼ねて、県では2020年の4月からホームページで「とっとり方式認知症予防プログラム」の動画を公開することを決めた。また団体で活用する場合は、プログラム内容をDVDとパンフレットに収録したものを無償で配布している。

ゲーム感覚、エクササイズ感覚で、一人でも楽しく実践できるよう工夫されたこの動画を見ることで、家にいながらプログラムの継続が可能になった。また、動画をそのまま流すだけではなく、通信教育方式で算術をやったり、ひとひねりしたオリジナルプログラムを編み出す市町村も現れた。浦上教授たちによる2020年~2021年の追跡調査によって、コロナ禍で行われた「とっとり方式認知症予防プログラム」が認知機能の低下を防いでいたことが分かっている。

予防と共生。現在進行形で2つのテーマに取り組む

北嶋史誉

本県では認知症について、認知症予防と認知症との共生という2つのテーマとして取り組んでいます。 予防については、まずは「とっとり方式認知症予防プログラム」の普及と実践です。高い効果が実証されていることから、日本財団からも心をよせていただいており、共同で広げていきたいと思っています。

共生については、誰もが暮らしやすい地域社会の実現に向けて「認知症サポーター」や、小学生を対象とした「キッズサポーター」の養成を実施しており、その数も順調に増えています。県内では地域で認知症の方が行方不明になった場合を想定した訓練を行っており、地域の方と一緒に子どもたちも参加することで、小学生の頃から認知症に対する理解を深めてもらっています。

また、鳥取県では、障がいのある人が暮らしやすい社会を目指して、障がいを知り、共に生きるという「あいサポート運動」を行っており、その実践にもなっています。

「認知症サポーター」養成研修

鳥取県では、認知症を正しく理解し、認知症患者と家族をあたたかく見守り支援する「認知症サポーター」の養成に、2006年から取り組んでいる。認知症患者が住み慣れた地域で安心して暮らせることを目指し、2011年までに認知症高齢者へのマンツーマン体制を目指し14,000人以上のサポーターを養成した。サポーターは、同じ町に住む隣人として帰り道がわからなくなっている人がいれば誘導したり、買い物で困っている人に手助けをしたりするなど、各々ができる範囲で認知症患者をサポートしている。

鳥取県では目印としてサポーターにはオレンジリングを配布しているほか、サポーターが所属する事業所などには「認知症サポーターステッカー」を交付し、いっそうのサポーター活動の普及啓発に努めている。養成講座が始まってから15年が経過した2021年9月末現在のサポーター数は104,959人。県の総人口に占めるサポーター人数の割合は全国3番目、総人口当たりの講座開催回数が全国1位と高い水準になっている。

オレンジリングと認知症サポーターステッカーの写真
オレンジリングと認知症サポーターステッカー

子どもたちも一緒に地域ぐるみでの認知症ケア

琴浦町では、認知症について学習した小学生「キッズサポーター」も参加し、認知症高齢者が行方不明になったという想定での町ぐるみの模擬訓練を行っている。琴浦町役場では、家族から行方不明の連絡を受けるとその情報を防災行政無線で町内に放送し、同時に県の防災情報メールサービス「トリピーメール」で発信。警察やJRにも協力を依頼し、地域ぐるみで高齢者のSOSを受け止めるネットワークを構築している。

毎年行われる模擬訓練を通し、子どもたちは認知症への理解を深めていく。「あそこのおじいちゃんがいなくなったらここを探してみよう。ここのおばあちゃんなら、こっちを探してみよう」と認知症を身近に感じ、患者を持つ家族とのコミュニケーションを重ねることで、認知症に関するケアを経験しながら学んでいく。

認知症患者にとっても、訓練は社会で共生していくことへのきっかけになる。家族も必要以上に神経質になることもなくなり、心にゆとりが生まれてくる。認知症患者だけでなく、さまざまな障がいの特性や障がい者への必要な配慮を正しく理解することがあたたかな地域社会を築く第一歩になるのだ。県では2009年より、障がい者への配慮や手助けをする「あいサポーター」制度を導入している。


模擬訓練の様子

認知症と共生できる社会に

北嶋史誉

認知症だからといって、自立できないわけではありません。若年性認知症の方など、さまざまな場面で能力を発揮できる機会もあります。それぞれ異なる障がいの程度や症状を理解して、ともに生きるという社会づくりが必要です。現在、全国に認知症の方は400~500万人いるとされ、決して少数派とはいえない状況です。お互いを認め合って、生きて行くための体制づくりを進めていかなければなりません。

専門家の役割は重要です。鳥取県では専門性の強い基幹型病院1つ、各圏域に地域型病院4つの5つの病院と提携しながら、認知症疾患医療センターを展開しています。センターの多さは、人口比でいえば国内トップクラスレベルだと思います。

認知症は早期発見ができれば症状を改善することが可能ですから、かかりつけ医による認知症チェックが非常に重要です。センターでは県内の開業医を対象にした認知症研修などの人材育成を行ったり、医療・福祉関係者や住民からの相談を受けたりしています。

認知症医療センターの専門家によるきめ細やかなケア、地域のつながりを強くして住民同士で助け合うネットワーク社会の構築、それに認知症を予防する「とっとり方式認知症予防プログラム」の活用。これら3つを組み合わせながら、年を重ねても健やかに生きられる人たちを増やしていきたいですね。これは、介護費用全体の節約にもなりますからこのような、介護費用の削減につながるアプローチを社会全体で継続して考えていくことが必要だと思っています。

「希望大使」は地域共生社会の推進力

藤田和子さんは、45歳の時に若年性アルツハイマー病の診断を受けた。それを公表し、以来「希望大使」のパイオニア的存在として認知症への普及啓発を行っており、認知症になっても大丈夫!」と言える地域共生社会の推進へ大きな力となっている。

2ヵ月に一度、認知症を有する方々が集まって意見交換会を開いたりするほか、若年認知症患者や家族をサポートする「にっこりの会」などを通し、県下では認知症共生先進地域になるべく、さまざまな取り組みを行っている。

にっこりの会で町歩き
町歩きをする「にっこりの会」のメンバー

成長に制約はない~ロナルド・レーガンの言葉

アメリカ40代大統領ロナルド・レーガンは、1994年11月にアメリカ国民に宛てた手紙でアルツハイマーと診断されたことを発表した。彼は大統領任期中の1981年から1989年の間に症状が出ていたとも言われている。だが彼は勇気と品格を持ってアルツハイマーに立ち向かい、世界の指導者として活躍した。そんな彼は「成長には限界はない。なぜなら人間の知性と想像力、そしてその驚くべき力に限界はないのだから」という言葉を残している。

私たちは決してあきらめることなく、すべての住民がともに生きていける暮らしやすい社会の構築を目指して進んで行かなければならない。「世界のレジェンド、レーガンが『人間の驚くべき力が奇跡を生み出し、そして社会は育っていく』と言っているのですから、その言葉を私たちは重く受け止めなければなりません」平井知事はそう締めくくった。

※2021年10月26日取材時点の情報です

写真:鳥取県提供


関連記事リンク(外部サイト)

ポリファーマシーが原因!?高齢者の転倒リスクが上がる薬とは
宮田裕章「社会に最大多様・最大幸福をもたらす力は“データ”にある」|賢人論。|みんなの介護
議論が進む、理学療法士の訪問看護。拡大するニーズに応えるために解決すべき課題

access_time create folder政治・経済・社会
local_offer
みんなの介護ニュース

みんなの介護ニュース

みんなの介護ニュースは、最新の介護情報、介護に関する話題や時事ニュースを、コラム形式でわかりやすくお届けします。

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

ガジェ通制作ライブ
→ガジェ通制作生放送一覧