M&Aにより進む介護施設の大規模化、資本の投入で変化する介護業界の常識

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M&Aにより進む介護施設の大規模化、資本の投入で変化する介護業界の常識

M&Aによる再編が進む介護業界

介護関連のM&Aが活況

近年、介護業界では事業者によるM&Aが進んでいます。一般的に、M&Aは企業間の合併・買収・提携などを含み、近年は異業種が参入する際の手段として活用されています。

大和総研の報告によると、2020年の介護関連のM&A件数は過去最高を記録しました。2022年から「団塊の世代」が75歳を迎え、介護ニーズの増加が見込まれており、多くの企業が介護業界を成長産業と捉えているのです。

2021年にもアメリカ発祥のファンド会社が日本の大手介護企業を完全子会社化するなど、介護を専門としない企業が続々と業界に参入しています。今後、巨大な資本力を持つ企業を中心に、介護業界の再編が進むことが予想されています。

こうした市場の動きに合わせて、関連ビジネスやサービスの提供を開始する企業も増えています。介護人材の派遣・紹介や外国人材の採用支援などを行うある企業は、M&Aのマッチング支援サービスを開始しました。M&A時に課題となりやすい人材確保などのサポートが行われることで、業界内のM&Aのスピードはより加速するでしょう。

再編の要因は小規模事業者の苦しい経営状況と後継者不足

介護業界の再編が進む背景には、小規模な介護事業者の倒産があります。東京商工リサーチの調査によると、2020年の「老人福祉・介護事業」の倒産件数は118件で、過去最多となりました。


出典:『2020年「老人福祉・介護事業」の倒産状況』(東京商工リサーチ)を基に作成 2021年12月17日更新

業種別では、「訪問介護事業」が最多の56件、次いでデイサービスなどの「通所・短期入所介護事業」が38件、この両業種だけで8割を占めています。また、倒産した企業の内訳をみると、負債1億円未満が94件、従業員5人未満が79件、設立10年未満が65件でした。設立から日が浅く、資金力の弱い小規模・零細事業者が大半を占めていることがわかります。

倒産件数が増加しているのは、大手企業との利用者獲得競争の激化や、後継者や人手不足により、事業の継続が困難になっているからだと考えられています。

M&Aによって解決される介護業界の課題

求人活動の規模を大きくできる

介護事業者のM&Aによるメリットは、大きく分けて2つ、「人材不足の解消」と「経営状況の安定」です。

介護事業者の悩みの種である人材不足を、実は買収側も同様に抱えています。新たに介護事業への参入を考えたとき、ゼロから人員や施設をそろえるには、かなりの時間と労力がかかるため、すでに運営している事業者を買収する方が効率的です。そのうえ、たとえ買収されたとしても、同じ介護職であることは変わりないため、既存スタッフの雇用は確保されます。一般企業のM&Aと比べて、スタッフが刷新されるような心配は少ないのです。

また、大手の企業に買収された場合、これまで小さい規模でしか行えなかった採用活動を、大規模化することができます。資金の投入により、大手人材企業による採用サービスの利用などが促進されるうえ、大企業が持っている採用ネットワークを最大限に活用することができるのです。大企業の参入によって業界全体のイメージアップにつながることも大きなメリットです。

加算の算定率が向上して経営が安定する

業績の安定している企業の資本が注入されるので、経営状況が改善するだけでなく、事業所の事業規模もより大きくなります。このことは、利用者の獲得競争で有利に働くのです。

例えば、通所介護の事業所別の経営状況をみると、大規模型の施設の収益が高いことがわかります。2019年の調査によると、大規模型の経常赤字割合は20%程度と経営は安定的でしたが、地域密着型では41.8%となり、規模が小さくなるほど赤字割合が大きくなっています。

また、大規模化によって加算の算定率が向上されることも予想されます。事業規模別に個別機能訓練加算Ⅰ・Ⅱのどちらも算定した事業者の収益差率をみると、規模が大きいほど算定しやすく、経営が安定しやすいことがわかります。


出典:『2019 年度(令和元年度)通所介護事業所の経営状況について』(福祉医療機構)を基に作成 2021年12月17日更新

介護業界は新たな時代に突入するか

介護保険外サービスの拡充で給料がアップする

現在、介護事業者のほとんどは保険制度における介護報酬(介護料収入)に頼っており、その割合は、訪問看護事業所で99%、通所介護で93%となっています。


出典:『新陳代謝で生産性を向上させる介護業界』(大和総研) を基に作成2021年12月17日更新

現状の介護事業は3年ごとに改定される介護報酬によって、収益が大きく左右されます。しかし、M&Aが進むことによって、介護事業者による介護保険外サービスが充実し、介護料収入に頼らない収入を得ることが見込まれます。これまでのM&A事例をみると、そのほとんどが新たな事業に乗り出して、収益構造を変化させようとしていることがわかっています。

こうした変化は、介護職員の賃金にも大きな変化をもたらすことが予想されます。岸田新政権による賃金アップが波紋を呼んでいますが、そもそも介護事業が介護報酬に頼らずに収益を上げられるようになれば、国の方針に左右されることなく、より安定して利益を確保することができます。そうなれば、介護職員の給与算定にポジティブな影響が出る可能性も高まります。

事業の多角化でさらに競争が激化する

売り手側は、従来の経営方針やノウハウなどについて、買収側とのすり合わせが難しいといった面があるのも事実です。また、介護業界全体には、一般企業の資本が参入することによって競争原理がもたらされます。その中で、今後はサービスの多様化が進み、質の向上などが求められるようになるでしょう。

介護者にとっては介護保険外サービスの充実などによって、より日常生活に根差したサービスを受けられることになる一方、介護従事者の負担が大きくなることも考えられます。しかし、その分だけ報酬が上がる可能性もあります。実際に大手介護企業では、マネジメント職の年収を55万円アップするなどの目標を打ち出しています。

介護事業は国民生活の重要なインフラでもあるため、安定したサービスの提供が求められます。M&Aによって得られるメリットを最大限に活かしながら、サービスを充実させて、業界そのものを安定させていくことが求められていくでしょう。


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