『フューチャー・パスト』デュラン・デュラン(Album Review)

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『フューチャー・パスト』デュラン・デュラン(Album Review)

 デュラン・デュランの功績については今さら何をといったところだが、あらためて米ビルボード・チャートを基に振り返ってみると、1stアルバム『デュラン・デュラン』(1981年)が10位、その勢いを受け継いで翌年リリースした2nd『リオ』(1982年)が6位、全英チャートで初の1位を獲得した3rd『セブン・アンド・ザ・ラグド・タイガー』(1983年)とデビューから3年連続、2015年9月に発表した14thアルバム『ぺイパー・ゴッズ』(最高10位)まで5作がTOP10入りしたが、意外にもアメリカで1位を獲得したアルバムがない……ということに驚かされる。

 とはいえ、81年のデビューから40年間で売り上げた総セールスは8,000万枚を超え、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”では9曲、UKシングル・チャートでは13曲がTOP10ヒットとなった。両チャートを制した「ザ・リフレックス」(1984年)や、翌85年公開の映画『007 美しき獲物たち』に提供した同名曲など、キャリアを代表するNo.1タイトルもある。ヒットを連発した80年代以降も精力的な活動を継続させ、ツアーや作品を通じて確たるファンを獲得してきた。

 そのサクセス・ストーリーを細かく記述すればきりがないが、40年経った今も第一線で活躍し続けることができるのは、メンバー間の信頼感や努力、謙虚さ、力強い作品を生み出そうという信念諸々があってこそ、だろう。パンデミックの影響もあり前作から約6年のブランクを要したが、デビュー・アルバムから40年という節目に合わせて完成させた本作『フューチャー・パスト』は、キャリアの集大成というべく内容で、タイトルの如く、往年のファンやその時代を生きたリスナーと歩んだ「過去」と、ベテランの域に達してもチャレンジ精神を忘れない「未来」の二面性をもつ。

 ソングライター/プロデューサーには、前作『ぺイパー・ゴッズ』でいい仕事をしたマーク・ロンソンや、70~80年代にかけてディスコ・ヒットを連発したジョルジオ・モロダー、著名アーティストのリミックスを多数手がける英ロンドンのDJ=エロル・アルカン等が参加。彼らと作り上げたサウンドをより良くすべく、ゲスト陣も絶妙な面々が厳選されている。

 オープニングは、アルバムから1曲目にシングル・カットされた「インヴィジブル」。突き刺さるようなシンセサイザーとノイジーなボーカルで80年代全盛期に回帰する、ファンキーな幕開けを演出した。正式なクレジットはないが、職人技で唸らせるギター・プレイはブラーのグレアム・コクソンによるもの。次曲「オール・オブ・ユー」も80’s直系のシンセ・ポップ/ファンク・ロックで、初期の作品で耳にしたようなメロディー・ラインが馴染む、デュラン・デュランらしい曲。

 次の「ギヴ・イット・オール・アップ」は、2014年に「ハビッツ(ステイ・ハイ)」でブレイクしたスウェーデンのポップ・シンガー=トーヴ・ローとのコラボレーショで、繊細で憂鬱な雰囲気の歌詞、ロックとエレクトロ・ポップを掛け合わせたラインは、まさに両者ならではの業。個人的にはペットショップ・ボーイズのニュアンスに近い。

 3曲目のシングルとして発表した「アニバーサリー」は、キャリアを振り返り称える本作の核となる曲で、「自分たちへのトリビュート」と話していたとおり、デビュー作からのヒット「ガールズ・オン・フィルム」(1981年)や「ザ・リフレックス」に続いてチャートを圧巻した「ザ・ワイルド・ボーイズ」(1984年)あたりのサウンド・プロダクションを蘇らせている。溢れ出す活気、新旧の著名人……ではなくそのソックリさんを招いたパーティーのミュージック・ビデオからも、バンドが最高のコンディションでアニバーサリー・イヤーを迎えられたことがわかる。

 バンドらしい演奏とハイトーンが映えるロック・バラード「フューチャー・パスト」、ジョルジオ・モロダーの腕が鳴るテクノ・ポップ「ビューティフル・ライズ」、前期のニューウェーブをそのまま焼き直したような「トゥナイト・ユナイテッド」……と、リイシューかと錯覚するほど“エイティーズ”な3曲が続き、マーク・ロンソンと共作した「ウィング」へ。「ウィング」は、作品に対する苦悩や向上心などアーティストならではの感情が読み取れる、静かなパワーを秘めた力作で、マーク・ロンソンならではのスタイリッシュさが、良い意味でアルバムのトーンを崩した。

 「ウィング」に続く、マイナー調の仄暗いポスト・パンク「ナッシング・レス」、時折ヒップホップが頭角を現すオルタナティブ・ロック「ハンマーヘッド」の2曲も、前半までのテンションとは違う情調で新鮮味を与えた。「ハンマーヘッド」は、 “ドリルの女王”と謳われている英ロンドンのフィーメール・ラッパー=アイヴォリアン・ドールのハスキーでキレのあるラップが聴きどころ。一転、次の「モア・ジョイ!」ではシンセ・ポップに戻り、アルバムのフィナーレ「フォーリング」へと繋ぐ。

 「モア・ジョイ!」は、名古屋出身の4人組ガールズ・バンド=CHAIのパンキーなシャウトを従えた“ハジける”アップ・チューンで、サウンド自体は往年のスタイルだが「日本の女の子たちとコラボレーションする」という斬新な試みに挑戦した。最終曲「フォーリング」は、故デヴィッド・ボウイのキーボードとして活躍したマイク・ガーソンをフィーチャーした心揺さぶるバラードで、過去に敬意を表し、未来を指し示す彼らの“想い”が曲を通じて伝わった。マイクによるジャズの旋律を奏でるインタールードのピアノ・ソロも最高。

 「自分たちらしくあり、且つ時代に見合った作品を作る」とある意味最も難しいテーマを掲げていたが、本作はそれを十二分に反映させた『フューチャー・パスト』というタイトルに相応しい作品になったといえる。「後ろを振り返るが先も見据えている」というメッセージは、畑の違う我々の生活の中にも当てはまるものであり、糧になる。

Text: 本家 一成

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