老後資金3,300万円を奪った相手、それは信じていた友人だった

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老後資金3,300万円を奪った相手、それは信じていた友人だった

「騙されたんだ、と気づいてから眠れなくなりました。夜になると『これじゃ、お墓も買えない』『病気になって入院なんてことになったら、お金をどう工面しよう?』と考えてしまって……」と78歳のE子さんは、その小さな肩を震わせた。

ご主人に先立たれてからは、時給750円の立ち食い蕎麦屋で10年間パートをして生活を支え、子どもを育て上げてきた。「パート代からコツコツ貯めたもの、主人が老後資金にと残してくれたもの。そうやってできた3,300万円が全て奪われてしまった…。頭がおかしくなってしまって、病院にも行きました。今は眠り薬をいただいて、なんとか寝ている状態なんです」そう言って、うな垂れた――。


▲ご近所の友人に誘われた“いい話”が… イメージ:PIXTA

詐欺を仕掛けてきたのは近所に住む美容師だった

中学を卒業後、実家の農業を手伝いながら、成人式直前で結婚。以降、専業主婦として子どもを育ててきたE子さんは、穏やかで上品な口調で話す、いかにも真面目な雰囲気の女性だ。55歳で夫に先立たれたあとは、夫の残したお金には手をつけず、立ち食い蕎麦屋や介護士のパートで生計を立てつつ、コツコツ資産形成をしてきた苦労人でもある。

「自分がしっかりして、子どもや孫たちの面倒を見なければ」と気負って生きてきたためだろう。60代と言っても通じるほど、背筋はしゃんと伸び、服も髪型も身綺麗にされている。その外見からは、詐欺被害者だとは到底思えない。

彼女に初めて会ったのは、2021年7月1日。原告がE子さんとS子さんの2人、被告が金島忠男、金島雪子、江渡賢慈(オフィスケイ)、石島克浩、4人の損害賠償請求事件の第一回目の口頭弁論での席だった。

共に裁判を起こしている幼なじみのS子さんは足が悪いため、E子さんは常に気遣いながら行動していた。このS子さんとは、近所に住む幼馴染で姉妹のように育ったという。S子さんもまた、1,000万円の被害に遭っている。

原告と被告の関係は次の通りだ。


▲金島夫妻とパートの訪問先Tさん(被害者)は斜め隣に住む近所同士。E子さん(被害者)とS子さん(被害者)も、金島の家とは徒歩数分の距離に住んでいる。Tさんは家族が被害に遭っており、別で裁判を起こしている。加害者は「本名もわからぬ少し前に知り合った他人」ばかりではないのだ

今回の投資詐欺は、S子さんのパート先であるTさんの家から始まった。

TさんとS子さんは、年齢がそれほど離れていなかったこともあり、ご自宅に行くと世間話を度々していた。その世間話のなかで「いい話があるよ。金島さんという人からきた話だけれど、100万円預けると、月に3万円だか、7万円だかの分配金がもらえるよ」と誘われたのだという。

そこでS子さんは、Tさんの紹介で金島夫妻に会いに行き、説明を聞いた。最初のうちは半信半疑だったが「銀行に預けていても増えないでしょ」「預けたお金は解約すれば全額返ってくる」という言葉で背中を押され、まずは500万円を預けることにした。

金島から「この書類に書いてほしい」と渡された紙は、難しいことが書かれていて、あまり理解できなかった。だが「大丈夫。私を信じて」という金島(妻)の言葉により、言われるがまま記入してしまった。もちろん、この書類がくせ者で、投資の契約でもなんでもなく、あとからわかったことでは金銭消費賃貸借契約書だった。

とはいえ、預けてから1ヶ月も経たないうちに4万9568円の入金があったため、そのことでS子さんは、この話をすっかり信じ込んでしまった。結局、保険を解約してなんとか作ったお金を500万円追加で預けてしまうのだ。約半年のうちに計1,000万円を金島に預けたということになる。

それだけではない。“いい話”だとすっかり信じてしまったために、幼なじみのE子さんを誘ってしまったのである。


▲利殖勧誘の相談は年々増えるばかり 出典:警視庁生活安全局生活経済対策管理官の資料より

神様仏様を拝む人に悪い人はいない

今回の事件で、被害が大きく広がったのには、金島雪子が真言宗系の新興宗教​団体の霊能者という立場であることも影響している。

その宗教団体は、全国に約80万人もの信者がいると言われている。そのなかには、霊能者という立場についている人たちが1,000人程度いて、修行を積むと同時に勧誘活動の結果によって、その地位につけるとされている。ざっくりいえば「その宗教団体のなかで位の高い人」ということになる。

夫を早くに亡くしたE子さんは、霊能者だという金島雪子に一目置いた。そして「一緒に拝みに行きましょう。先祖の供養になりますよ」と誘われたことから、親密な付き合いが始まるようになったのだ。

「拝みに行く日は、ご主人が車を出してくれ、お寺まで雪子さんと一緒に送ってくれました。雪子さんは、とても穏やかな雰囲気の優しい話し方をする人で、私は『いい方と知り合った』と思いました」

これまでの苦労や寂しさに寄り添ってくれた金島雪子を、E子さんはまるで菩薩のように感じ、慕うようになっていったという。

「私は、早くに夫を亡くしたので、お寺や神社に誘われると断らないんです。どんな宗教であっても、一緒に拝みに行くようにしているんです。神様や仏様に拝む人に、悪い人はいないと思っているので……。それに、金島さんのご主人も上等な背広を着て、500万円もするという腕時計をつけていて、立派な方のように見えました」

幼なじみは1,000万円を預けたという。そして、目の前にいる金島雪子は徳の高い人物であると聞いている。金島の夫は、事業で成功している立派な人のようだ……。そんなことから、E子さんは金島夫妻を信頼できる人物だとすっかり判断してしまったのだ。

「それでも、投資と言われていたら絶対に預けませんでした。これまで投資には手を出したことはありません。怖いものだと思ってきましたから。『私(金島)に預けてください』『大丈夫だから。銀行に預けておくよりずっといい』と言われ、銀行に預金するのと同じだということで600万円を預けたんです」


▲銀行に預けるのと同じ感覚で預金を託してしまった イメージ : PIXTA

2人は“信頼して”合計4,300万円を渡した

その後も付き合いは続いた。拝みに行ったあとは、カフェやファミリーレストランに寄り、食事やお茶をすることもあった。そのような付き合いのなかで、E子さんは金島雪子への信頼をますます深めていった。

そんなある日、金島はTさんたち3人と、S子さん、E子さんを自宅に集め「新しい会社を立ち上げた。毎月お金が増えるようになる」という説明を行った。

その場では説明だけで終わったが、解散したあとにE子さんは金島(夫)からの電話を受ける。「親しくしているE子さんだけに特別に良い利息がつく。毎月60万円が入ってくるから1200万円を預けて欲しい。このことは他の誰にも言わないで欲しい。内緒の話である」

すでにすっかり金島夫妻を信じていたE子さんは、ゆうちょ銀行の定期預金を解約し、1200万円をバッグに入れて金島の自宅へ行き、そのお金を預けてしまった。


▲「このバッグに1200万円を入れて運んだんです。全て入れたら閉まらなかったので、上から布をかけて見えないようにしました」(E子さん)

「誰かに奪われてはいけないと、胸元にしっかりと抱えていったんです。でも、結局奪われてしまったんですよ」(E子さん)

すっかり金島夫妻を信じているE子さんに味をしめたのだろう。被告の4人は、E子さんにさらに「1500万円を預けて欲しい」と伝えた。

E子さんはこのお金を振り込むとき、郵便局の職員から「これは詐欺だからおろせない。振り込むこともできない」と止められている。すぐに警察官も駆けつけた。

しかし、金島夫妻から「お金を振り込むときには、誰にも言わないように」と再三釘を刺されていたこともあり「詐欺ではないから大丈夫」と言い張った。結局、その日は下ろすことも、振り込むこともできずに帰宅したのだが、金島夫妻はその話を聞いても、やはり「お金を作ってください」と、再度、お金を持ってくるように促した。

最終的に別の郵便局から、指定された口座へ振り込んでしまい、E子さんはわずか1年足らずの間に計3,300万円、S子さんは1,000万円を失ってしまったのである。

徐々に増えつつある高齢者を狙う悪徳商法

「投資だとわかっていたら決して話には乗らなかった、いわばお金の知識を持たない方たちが、元本が保証されるから預けて欲しいということで、銀行と同じ感覚でお金を渡してしまっている。しかも、難しい言葉を敢えて使って、理解できないように説明しているんですよね。結果、よくわからないけど、信用している人たちだからと、お金を預けてしまっている。信用を利用してお金を奪う手口は非常に悪質です。ましては、奪われたのは、これまでご両人が地道に働きコツコツと貯めてきたお金ですよ」

E子さんとS子さんの事件を担当する、詐欺事件に詳しい加藤博太郎弁護士は憤る。

 4人に対する損害賠償請求の民事訴訟は、金島忠男・金島雪子と江渡賢慈(オフィスケイ)、石島克浩が分割して進んでいる。

また、加藤弁護士の「高齢者なので早めに進めてほしい」という依頼により、裁判は非常にスピーディに進んでおり、2回の弁論のあと、9月2日に江渡賢慈(オフィスケイ)と石島克浩への判決が出た。口頭弁論は被告が全て欠席のうえ、一部では非を認めていることもあり、E子さんもS子さんの全面勝訴となった。

そして、10月4日から金島忠男・金島雪子の口頭弁論が始まる。


▲被害に遭っても周囲に相談できずにいる人が多い 出典:警視庁生活安全局生活経済対策管理官の資料より

現在、警察では特殊詐欺に対する啓蒙活動をしぶとく行っている。成果は出ており被害額も、認知件数も年々減少している。だが、その被害者は9割近くが高齢者で、被害額は285.2億円(令和2年)と驚くほどの金額が、闇に流れているのが現状だ。

ちなみに、E子さんとS子さんが遭遇した件は、悪徳商法のひとつである利殖勧誘事犯として、加害者の顔が見えない特殊詐欺とは別に扱われる。検挙件数としてはここ10年では横ばいだが、相談件数が徐々に増えている。

すでに後期高齢者となっているE子さんとS子さんが失ったものは、お金だけではない。長きに渡って築き上げてきた地元での安心の暮らし、信頼して付き合える身近な友人、そして心身の健康……。いろいろなものを失った。

このような被害を防ぐには、一体どうしたらよかったのだろう。

S子さんは自ら打ち明けるまで、ご主人も把握していなかった。もちろん子どもには知らせていない。E子さんに至っては、今でも子どもたちには被害を秘密にしており、ひとりで抱え込んでいる。

自分の親が仲良く付き合っている友人が、もしかしたらタチの悪い人なのではないか? ――そう疑念を抱いたとしても、子どもは正面を切って指摘できないかもしれないが……。


▲裁判に挑むE子さんとS子さん

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