NASA火星探査機「インサイト」マグニチュード4クラスの地震を3つ観測

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NASA火星探査機「インサイト」マグニチュード4クラスの地震を3つ観測

【▲ NASAの火星探査機「インサイト」を描いた想像図。左手前の地面に置かれている装置が火星地震計「SEIS」(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

アメリカ航空宇宙局のジェット推進研究所(NASA/JPL)は現地時間9月22日、火星探査機「InSight(インサイト)」がこの1か月間でマグニチュード4クラスの火星の地震(火震とも)を3件検出していたことを明らかにしました。

2018年11月に火星のエリシウム平原へ着陸したインサイトは火星の内部構造解明を目的としており、これまでにインサイトが捉えた地震波の解析によって火星のコアが液体であることやそのサイズ、地殻の厚さなどが判明しています。インサイトのミッションは着陸から2年間(火星における1年)の予定でしたが、現在は2022年12月までが予定されている延長ミッションを行っています。

■過去最大となるマグニチュード4.2の地震を2回捉えた

地上に設置されたインサイトの地震計「SEIS」。写っているのは風と熱から装置を保護するためのドームで、SEISの本体はこの中にある(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ 地上に設置されたインサイトの地震計「SEIS」。写っているのは風と熱から装置を保護するためのドームで、SEISの本体はこの中にある(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

JPLによると、インサイトに搭載されている火星地震計「SEIS(Seismic Experiment for Interior Structure)」は、8月25日にマグニチュード4.2と4.1、9月18日にマグニチュード4.2の地震を検出しました。過去にSEISが捉えた最大規模の地震は、2019年に検出されたマグニチュード3.7とされています。今回検出されたマグニチュード4.2の地震のエネルギーはその5倍に相当し、火星で検出されたものとしては最大級の地震となりました。

9月18日の地震は検出からまだ日が浅いものの、8月25日の地震については分析が進んでいます。JPLによると、8月25日に検出されたマグニチュード4.2の地震はインサイトから8500kmも離れた場所で発生したといいます。この地震の震源地についてはまだ明らかではありませんが、JPLでは興味深い可能性の一つとしてマリネリス峡谷の名をあげています。マリネリス峡谷は長さ約4000kmに達する長大な渓谷で、インサイトからマリネリス峡谷の中心付近までの距離は9700kmとされています。

いっぽう、同じ日に検出されたマグニチュード4.1の地震はこれよりもインサイトに近く、925km先で発生したとされています。ちなみに、インサイトがこれまでに検出した地震の多くは東の方向およそ1600km先にあるケルベロス地溝帯が震源でした。ケルベロス地溝帯では過去1000万年以内に溶岩が流れたと考えられていて、固まった溶岩流の一部には過去200万年以内に起きた地震によって破壊されたことを示す痕跡も見つかっており、活発な地震活動の存在を伺わせる地域です。

また、8月25日に検出された2つの地震はその性質も異なっていました。JPLによると、遠方で発生したマグニチュード4.2の地震は低周波振動が卓越していたのに対し、マグニチュード4.1の地震は高周波振動が特徴的だったとされています。

このように性質や震源までの距離は異なるものの、2つの地震はどちらも風が強い昼間に検出されています。風は地震波の検出を難しくするノイズの原因となるため、インサイトの地震計SEISは主に風がおさまる夜間に地震を検出してきたといいますが、この2つの地震は風によるノイズが大きな時間帯でも十分検出できる地震波を生み出していたようです。

■風と砂粒を使った太陽電池のクリーニング作業が実を結ぶ

2019年3月と4月に撮影された画像から作成されたインサイトのセルフィー。着陸から半年以内の時点でも左右に展開された太陽電池を覆う埃が目立つ(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ 2019年3月と4月に撮影された画像から作成されたインサイトのセルフィー。着陸から半年以内の時点でも左右に展開された太陽電池を覆う埃が目立つ(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

地震波の検出という観点では障害となる風ですが、今回のマグニチュード4クラスの地震を捉える上ではこの風が助けになりました

インサイトは太陽電池から電力を得て稼働していますが、2018年11月の着陸から3年近くが経った現在はその表面が砂埃に覆われていて、生み出される電力量が低下しています。これに加えて、真円よりも扁平な楕円形に近い公転軌道を周回する火星は太陽からの距離が火星の1年を通して変化するため、太陽電池の発電量も増減します。

インサイトは主要な機器の温度を保つために電力で稼働するヒーターを使っていますが、太陽電池が生み出せる電力量は砂埃が積もったことでミッション開始当初よりも低下しているため、火星が太陽から遠ざかる時期にはヒーターを優先するために観測機器をオフにしなければならない可能性がありました。地震はいつ起きるかわかりませんから、地震計SEISが観測を止めている間に貴重な地震波を検出しそびれてしまうかもしれません。

そこで、太陽電池に積もった砂埃を払い落として地震の観測を続けられるだけの電力量を確保するために、風が利用されたのです。

砂を落とした際に撮影された画像から作成されたアニメーション(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ 砂を落とした際に撮影された画像から作成されたアニメーション(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

インサイトの運用チームは2021年5月、ロボットアームに付属しているスコップを使って、地面からすくい取った砂粒を太陽電池付近の機体上面めがけて落としました。砂埃をはらう方法としては逆効果のように感じてしまいますが、機体に落ちて跳ねた砂粒が昼間の強い風に運ばれて太陽電池に当たり、積もっていた砂埃を期待通り運び去ったことで、太陽電池が生み出す電力量を回復させることに成功したのです。同様のクリーニングを何度か繰り返した結果、運用チームはインサイトの電力レベルを一定の状態で保つことができたといいます。

現在火星は遠日点を通過して太陽に再び近づきつつあるため、インサイトの発電量も徐々に回復しつつありますが、この試みが行われていなければ一連のマグニチュード4クラスの地震は検出できなかったかもしれません。インサイトの主任研究員を務めるJPLのBruce Banerdtさんは「着陸から2年以上が経過してもなお、火星はこれらの特徴的な地震を通して私たちに新たな何かを伝えようとしているかのようです」と語ります。

なお、火星は10月8日に合(地球から見て太陽の向こう側に位置するタイミング)となるため、NASAの火星探査ミッションはしばらく休止されます。インサイトへのコマンド送信も9月29日から停止しますが、合の前後も地震計SEISによる地震波の検出は継続して行われます。運用チームは今後を見据えて、合によるミッションの休止期間が明けた後に太陽電池のさらなるクリーニングを行うかどうか検討しているとのことです。

 

Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL
文/松村武宏


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