『Ch. 1 Vs. 1』シンシア・エリヴォ(Album Review)

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『Ch. 1 Vs. 1』シンシア・エリヴォ(Album Review)

 シンシア・エリヴォといえば、2017年12月に初来日した際ミュージカル・ショー『4Stars 2017』で城田優と、昨2020年1月には故・三浦春馬とミュージカル・コンサートで共演したことが日本でも話題を呼んだ、英ロンドン出身の女優/シンガー。日本での知名度はまだ“そこそこ”といったところだが、演技力や歌唱力、個性的なファッション・センス~キャラクターが世界中で人気を博している。

 現時点でチャート上位にランクインした曲はないが、リスナーにとって印象深い名曲・名パフォーマンスは数知れず。築き上げたキャリア、功績もすばらしく、2016年開催の【第70回トニー賞】では『カラーパープル』で<ミュージカル主演女優賞>を、翌2017年開催の【第59回グラミー賞】では同作が<最優秀ミュージカル・ショー・アルバム賞>をそれぞれ受賞。そして 昨年2月に開催された【第92回 アカデミー賞】では、初主演映画『ハリエット』が<主演女優賞>と<主題歌賞>の2部門ノミネートされ、「Stand Up」のパフォーマンスも大絶賛を浴びている。

 サウンドトラックの他には、2015年に同イギリスの俳優/シンガーのオリバー・トンプセット&スコット・アランとコラボレーション・アルバムをリリースしているが、 シンシア・エリヴォ名義の作品としては本作『Ch. 1 Vs. 1』が初で、実質上のメジャー・デビュー・アルバムとなる。本作はユニバーサルの傘下、ジャズの名門ヴァーヴ・レコードからのリリースで、トータル・プロデュースはその『ハリエット』にも参加したウィル・ウェルズが担当した。

 映画やミュージカルに出演していた俳優が歌手としてデビューするケースは珍しくないが、昨今では内外共に減退の一途をたどっている印象で、シンシアのデビューはジェニファー・ハドソン以来のインパクトがある。とはいえ、前述のグラミー受賞やアレサ・フランクリンの伝記ドラマ『Genius: Aretha』での歌唱など、シンガーとしての実力が如何なものかは今さら何をといったところで、むしろ「初のアルバム・リリース」ということに驚かされた。

 オープニングの「What In The World」は、聖歌隊のコーラスを従えて力強く歌う芯の強いパワー・バラード。歌唱はもちろん、チェロやピアノを響かせるクラシカルな演奏、パンデミックを経ての想いとも受け取れる歌詞も美しい仕上がりだった。次の「Alive」も、痛み~生と死~運命を歌った悲壮感ある曲で、ロックとR&Bをブレンドした力強いサウンドに、地声とファルセットを融合させた流石の歌業で聴かせる。

 誰かを救って自由にしてあげたい、というタイトルに直結した思いを綴った「Hero」も、ギターとベースによるシンプルな演奏とシンシアのボーカルが際立つ傑作。かつてのフォーク・ロックともとれるが、ソウルフルな歌声も相まって個人的にはローリン・ヒルの「To Zion」を彷彿させる。同路線では、純粋な恋心を歌った熱量あるバラード「I Might Be In Love With You」や、カントリーやフォークの演奏形態を取り入れた「Sweet Sarah」もいい曲。

 4曲目の「The Good」は、シンシアの本領を発揮したスタンダードなポップ・ソング。希望に満ちたポジティブな歌詞、親しみある旋律、軽やかなボーカル・ワークいずれもミュージカル出身らしいパフォーマンスで、ストーリー仕立てのミュージック・ビデオでも持ち前の演技力を発揮した。

 本作からは、シルキーな声で優しく包むオルタナティブR&B風味の「Day Off」もビデオが制作されていて、こちらもオールドレンズで撮ったようなノスタルジックさが、テーマである「休息」を連想させる傑作だった。大サビも存在を示すパワフルなボーカルもないが、リラックス&ドリーミーな空気感の「A Window」、大切な人の涙や悲しみを受け止める包容力に溢れたアート・ポップ風の「Tears」も、これまでのイメージを払拭させる意欲作。

 瞑想的なピアノ&バイオリンが印象的な「You’re Not Here」、映画のエンディングを連想させる壮大なバラード「Glowing Up」、古典的なブルース・セクションによる「Mama」の終盤3曲は、本作のハイライト。「You’re Not Here」は、歌詞に感情移入したら涙なしでは聴けない、ロバータ・フラック~アリシア・キーズのマナーに則ったソウル・バラードで、希望に満ちた「Glowing Up」はビヨンセの『ライオン・キング』にも匹敵する情感に圧倒させられる。「Glowing Up」がピークかと思いきや、クイーンの「Bohemian Rhapsody」を引いた最終曲「Mama」ではそれを超えて来るから凄い。

 歌詞やサウンドに斬新さや個性はみられないものの、UKソウルらしいスタイリッシュさを含む聴きやすさがあり、我々日本人の耳にも馴染むナンバーが満載。ミュージカルの要素を引きずり過ぎず、個人の作品ときちんと線引きしているあたりも好感がもてる。そのあたりは、ストーリーテラーとして経験や感情を露わにした歌詞もしかり。メアリー・J. ブライジの『メアリー』(1999年)を思い出させるカバー・アートやその風貌から、濃厚なソウル・ミュージックを連想させるが、非常にライトでジャンルや時代にも左右されない大衆向けの作品、ともいえる。

Text: 本家 一成

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