<木曜ミステリー>枠の守護神たちが集い、科捜研オールスターズが固め、「名探偵コナン」が宿る。綿貫大介『科捜研の女 -劇場版-』
京都府警科学捜査研究所(通称・科捜研)の法医研究員・榊マリコ(沢口靖子)を中心とした、ひと癖もふた癖もある研究員たちが、法医、物理、化学、文書鑑定などの専門技術を武器に事件の真相解明に挑む姿を描く、『科捜研の女』。
テレビ史における重要ドラマのひとつとして当たり前に存在しすぎていて、改めて思いを馳せることがなかったが、タイトルから秀逸だ。特殊で興味深い仕事のおもしろみを描きながら、そこで働く女性を主役に据えた物語という点で、それは伊丹十三監督の映画『マルサの女』を彷彿とさせる。
『科捜研の女』の番組スタートは1999年。科学捜査のリアルな現場を描き、なんと今年で22年目に突入した。現行の連続テレビドラマシリーズとしては、最も長く続いているのだから、このドラマの担っている役割と功績はかなりでかい。木曜の夜8時、毎シーズン決まった枠にいつも帰ってきくれる安定感もいいし、お昼過ぎにやっている過去作の再放送をぼーっと流し観する時間もいい。もはや日本人の生活の一部と化していると言っていいと思う。そんな『科捜研の女』が『科捜研の女 ‐劇場版‐』として、ついにスクリーンデビューを果たした。
ドラマの劇場版というものには正直懐疑的なところもある。テレビっ子としては、テレビスケールでいつもの時間にみんなが楽しめるように放送してくれ!とどこかで思ってしまうのだ。しかし……ファンとしてはもちろん観ないわけにはいかないし、もちろん観ました。
今回、榊マリコをはじめとする“科捜研”のスペシャリストたち、捜査一課の土門刑事(内藤剛志)らがスクリーンを舞台に挑むのは<世界同時多発 科学者不審死事件>という難事件。捜査線上には未知の細菌を発見して国際的注目を浴びた天才科学者・加賀野亘(佐々木蔵之介)が浮上するが、なかなか真相にたどり着けない。マリコ、どうする!? というのが映画のあらすじだ。
まず、沢口靖子、内藤剛志、佐々木蔵之介という、テレ朝木曜8時<木曜ミステリー>枠の守護神たちがスクリーンで一堂に会している様が、ドラマ好きとしてはたまらない。『科捜研の女』とは別の世界線で、内藤剛志は同枠の『警視庁・捜査一課長』で、佐々木蔵之介は『IP~サイバー捜査班』で主演をしている。他の人が入り込むすきのない金城鉄壁の布陣をつくった制作陣、抜け目がない。
とくに同枠における沢口靖子と内藤剛志の功績は偉大だ。リッツパーティが終了した今、沢口靖子のイメージは完全に科捜研の一人勝ちだろう。内藤剛志も、もはや刑事以外の役を想像できない(いろんなドラマで刑事役をやりすぎているのもある。どの刑事役を演じているのか写真だけではきっと区別がつかない)。2人が俳優ということは重々承知だし、もちろんテレビの中の人たちなのだけど、実際に沢口靖子は科捜研の法医研究員として、内藤剛志は刑事としてこの世界で働いてくれているのではないかと錯覚してしまうことがある。それくらい、板に付いている。だからこそ2人には、これからも日本のために捜査を続けてほしいし、被害者の無念を晴らすため、必ずホシ(犯人)をあげてほしい! 日本はこの2人に守られていると言っても過言ではないのだ。
(ちなみに僕が沢口靖子という人物を最初に認識したのは『古畑任三郎』(第2シリーズ)の「笑わない女」回。規律に厳しい女学校の教師・宇佐美ヨリエ(沢口靖子)が、規律を嫌う同僚教師を口封じのために殺害するという内容。規律や校則を厳格に守らせようと生徒たちに厳しく接する沢口靖子の役は、脚本家・三谷幸喜の当て書きによるもの。その影響か、沢口靖子のことを強い意志を持つ笑わない「鉄の女」という印象をずっと持っていた。プライベートの想像できなさも相まって。宇佐美は規律によりお茶も飲まず、常にお白湯を飲む役柄だった。お白湯? と当時衝撃を受けたが、今思うとそれはもっともシンプルで最強のスーパードリンク。そして先日知ってさらに衝撃を受けたのだが、沢口靖子本人も、現在は常にマイボトルにお白湯を入れて持ち歩いているらしい。三谷幸喜おそるべし!)
そんな沢口&内藤のドモマリコンビやレギュラーメンバーのほかにも、今回の映画は、科捜研オールスターズというべきキャストが大集結。まさにドラマファンに向けた、「科捜研ファン感謝祭」な作りになっている。過去に登場したあの人この人が出現するたびに、ファンとしては思わず「ありがとうございます!」と言いたくなる。
もちろん、ストーリーもしっかりしているので、22年目にして初見の人でも大歓迎。入門編として楽しめる。ちなみに今回の脚本を手掛けたのは「名探偵コナン」シリーズを手掛けた櫻井武晴氏。「これはもう、劇場版名探偵コナンじゃん……!!(歓喜)」と興奮できる類似場面もあるのでお楽しみに。
(話を戻して……)改めて、22年はすごい。シリーズが続いても、まったく変わらぬ魅力を放ち続ける沢口靖子のマリコ役。鑑定の所作も完璧で、キャラクターとして完成されている。重度の科学捜査オタクで、好きなことを突きつめている生き方も、「科学は嘘をつかない」という信念もすばらしいし、一方で科学は万能ではないからこそ慎重に鑑定をして、冤罪を起こさないようにする姿勢も見ていて心地が良い。
科学捜査用のALSライト(指紋や体液、血液、毛髪、繊維、打撲痕など、様々な捜査対象の検出が可能なライト)を扱う様なんかはもはや伝統芸の域だと思う。きっとマリコの活躍は、現実世界の女性研究員活躍の拡大にも大きく貢献しているはずだ。それにマリコだけでなく、科学捜査研究所には文書鑑定や映像データなど様々なプロがいて、全員が協力して事件を解決しているところもドラマの描き方として完璧なのだ。ヒーローやヒロインは、1人だけではないのだ。
科学捜査研究所のセットで使われている操作機材はほぼ本物。科学機器メーカーから借りている電子顕微鏡やDNAを調べる機械など、何百万、何千万円のものが普通に並んでいたりする。そのリアリティも、ドラマに深みを与えている。
この、科学捜査の鑑定方法の進歩もシリーズを追っているとおもしろい。たとえば防犯カメラの人物の歩き方をデータ化し、容疑者の歩き方の特徴と照合する、歩容認証。これは実際の強盗事件でも、防犯カメラからマスクやヘルメットで顔を隠した実行犯を特定したことがあるシステムだ(特定できる可能性は驚異の96%)。
ほかにもESDAという科学捜査マシンは、眼に見えない筆圧を映し出す「静電検出装置」。筆圧痕を調べる紙に特殊フィルムを被せて放電すると、紙に残った筆跡痕の凹んだ部分に静電気が溜まる。それに特殊加工したインク粉末を振りかけると、粉末が静電気に吸い寄せられて凹部に入り込み、文字がくっきりと浮き上がるという仕組みだ。
こういう最先端の科学技術に触れられるおもしろさも同作の魅力だろう。映画でも、新たな科捜研”新兵器”が登場するので期待してほしい。
text Daisuke Watanuki
『科捜研の女 -劇場版-』
9月3日全国公開
出演:沢口靖子 内藤剛志 佐々木蔵之介 若村麻由美 風間トオル 金田明夫 斉藤 暁 西田健 佐津川愛美 渡部 秀 山本ひかる 石井一彰
渡辺いっけい 小野武彦 戸田菜穂 田中健 野村宏伸 山崎一 長田成哉 奥田恵梨華 崎本大海
脚本:櫻井武晴 音楽:川井憲次 監督:兼﨑涼介
(c)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会
『科捜研の女 -劇場版-』公式HP:https://www.kasouken-movie.com
「科捜研の女」番組公式HP:https://www.tv-asahi.co.jp/kasouken20/
「科捜研の女」番組公式Twitter:@kasouken_women 公式LINE:https://t.co/ktzo8W0wtv?amp=1
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
ウェブサイト: http://www.neol.jp/
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。