迷いながら前に進もうとする葛藤を高畑充希が演じた『浜の朝日の嘘つきどもと』タナダユキ監督インタビュー

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迷いながら前に進もうとする葛藤を高畑充希が演じた『浜の朝日の嘘つきどもと』タナダユキ監督インタビュー

福島県南相馬に実在する映画館「朝日座」を舞台にした映画『浜の朝日の嘘つきどもと』が公開されます。映画館再建に奔走する主人公を高畑充希、主人公と年齢や立場を超えた友情を結ぶ高校教師を大久保佳代子が演じています。脚本も担当したタナダユキ監督に作品への思いやキャストについてお話をうかがいました。

<作品概要>
映画館「朝日座」を舞台に、東京の映画配給会社に勤めていた福島県出身26歳の茂木莉子(本名:浜野あさひ)が恩師との約束である「朝日座の再建」のため、小さな“嘘”をついてでも映画館を守ろうと奮闘する。
メガホンをとったのは『百万円と苦虫女』『ロマンスドール』などを手掛けてきたタナダユキ監督。
主演はタナダ監督と初タッグを組む高畑充希で、朝日座の再建に奔走する主人公・茂木莉子(もぎりこ)を演じる。そして朝日座の支配人・森田保造役には今最もチケットが取れないと言われる落語家の柳家喬太郎。莉子の高校時代の恩師・田中茉莉子役にはバラエティ番組だけではなく女優としても多くの作品に出演している大久保佳代子。甲本雅裕、佐野弘樹、神尾佑、光石研、吉行和子らが脇を支える。
本作は福島中央テレビ開局50周年記念作品として2020年10月30日に放送された同名のドラマの前日譚とも言える作品。ドラマは映画と同じくタナダユキが監督と脚本を担当し、竹原ピストルと高畑充希がW主演を務める。ドラマはU-NEXT、huluなどで視聴できる。

<あらすじ>
100年に及ぶ歴史を持つ福島・南相馬の映画館「朝日座」。ある日、茂木莉子と名乗る女性(高畑充希)が支配人の森田保造(柳家喬太郎)の前に現れる。莉子は「経営が傾いた朝日座を立て直す」という高校時代の恩師・田中茉莉子(大久保佳代子)との約束を果たすために東京からやってきた。すでに閉館が決まり打つ手がないと諦めていた森田だが、見ず知らずの莉子の熱意に少しずつ心を動かされていく。果たして「朝日座」の運命やいかに……。

映画製作にかける福島県のローカル局の強い思いに乗った

―-本作はタナダ監督が脚本を書いてメガホンをとり、2020年10月に福島中央テレビで放送されたオリジナルドラマの前日譚にあたるストーリーです。監督は2016年にも同じ福島中央テレビで「タチアオイの咲く頃に~会津の結婚~」というドラマを制作されています。ローカル局でドラマを作り、それが映画になって全国で公開されるのは珍しいと思いますが、監督がこうした地方発のドラマや映画にかかわることになった経緯や思いをお聞かせください。
福島県とのご縁で言うと『百万円と苦虫女』という作品の時に福島県の農家で撮影させていただいたことがあるのですが、「タチアオイの咲く頃に〜会津の結婚〜」はそれとは関係なく、不思議なご縁でお話をいただいた感じでした。今回のドラマと映画は5年前の「タチアオイ〜」があったのでお話が来ましたが、福島中央テレビさんは開局50周年にあたり、自分たちでまたドラマを作りたい、そして今回は映画も作りたいという強い思いをお持ちで、私はその思いに乗っからせていただく感じでした。

©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

――最初から映画とテレビの両方を作ることが決まっていたのですね。
今回は映画も作ると最初から話はありました。ただ、映画はいろいろな人たちが関わってくるし、宣伝のやり方一つを取ってもドラマとは全く違うんです。映画を作ることの困難さを知っているだけに、本当にできるのかなという気持ちは正直、ありました。しかし映画製作に対する情熱が福島中央テレビさんのなかで揺らぐことがなかったので、それに支えられました。

映画を見るだけでなく体験できる場としての映画館を舞台に

――舞台となった「朝日座」は1923年に創業した、福島県南相馬に実在する歴史のある映画館で、様々な災禍も免れ、戦後の映画全盛時代を迎えたのちは、地域に根付いた映画館として多くの人々に愛されてきた場所だそうですね。映画館を主軸にした物語にしたのはなぜでしょうか。
福島中央テレビさんから「福島県が舞台であれば、震災について触れずとも自由に撮っていい」と言っていただきました。そんなときに、新聞に古い映画館の記事が載っていて、映画館は映画を見に行くというだけでない、体験をする場だなと改めて思ったのです。全然知らない人どうしが集まって、同じものを見て、笑ったり、泣いたりする。「隣の人がポップコーンを食べていたな」とか、後になって空気感まで思い出すのは映画館でしか経験できません。そこで、映画館を舞台に話を作ることを提案しました。
ところが、お借りする映画館がなかなか決まらない。あちこち探して、ようやく南相馬にある「朝日座」に辿り着きました。まるで導かれるように南相馬にたどり着いたような感じがして、ここで撮るなら、まったく震災に触れないというのもおかしいのではと思い、映画館を舞台にしつつ、そこで生きる人たちのお話にしました。

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©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

――物語は当初考えていたものとはかなり変わったのでしょうか。
変わったと思います。企画したのはコロナ禍になる前でしたが、コロナで世の中がどうなるかわからないという状況になり、しかも福島県は台風の被害に遭い、大変な状況でした。
しかし、私も福島中央テレビさんも“震災も乗り越え、こんなにがんばっているんです”という話にはしたくない。その辺の加減は打ち合わせを重ねて、脚本も変わっていきました。

――脚本を書くのに時間を掛けたのですね。
ドラマ版はすぐに書けたのですが、映画版をどうするかで苦しみました。映画版の脚本を書いているときに自粛期間に入り、“この脚本を書いても撮れるかどうかわからない”という状況の中で進めなければならなかったのは、なかなか苦しかったです。

念願の高畑充希をキャスティング

――経営が傾いている「朝日座」を立て直すべく東京からやってきた主人公を演じているのは高畑充希さんです。くじけそうになりながらも奮闘していく主人公に高畑さんはぴったりでしたが、高畑さんをキャスティングした決め手はどんなところだったのでしょうか。
高畑さんとは以前からお仕事をしたいと思っていました。高畑さんはどんな役を演じていても、それがどんなに突飛な設定だったとしても、「こんな人いるかもしれない」と思わせる説得力があって、そして、物語自体を、地に足のついたものにする力があるなと感じていたんです。だから、今回の莉子という役もきっと、これまで演じた役ともまた違い、瑞々しく演じてくれると思い、お願いしました。

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©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

――高畑さんと初めて会ったとき、いかがでしたか。
クランクインする前に顔合わせを1度したのですが、この作品について話すわけでもなく、雑談して終わった感じです(笑)。しかし、少し話しただけでも、高畑さんは本当に頭の回転の速い、クレバーな人だと感じたので、「この人に莉子ちゃんを任せておけば安心」と、こちらは何の不安もありませんでした。

――監督から特に演出はされなかったのでしょうか。
仕事なので演出はしますが(笑)、手取り足取りこと細かくは言いません。お芝居はロボットではなく人間が作るものなので、私は書いた脚本を俳優部に託し、それを彼らがどう受け止め、どう表現するのかを楽しみにしているんです。監督がジャッジをすることは必要ですが、何かあれば現場で修正していきます。

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©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

――高畑さんが演じるのに苦労していたシーンはありましたか。
本人からは特に相談されたシーンなどはなく、莉子がひとりの人間として迷いながら前に進もうとする感じを的確に表現してくれました。ただ、演じるにあたって楽な役はないですし、どんな役でも大変ですから、簡単に演じられたわけではないと思います。高畑さんはこれまでもきっと、役を演じてそれでどんな苦労をしたとしても、それを周りに見せない人だと思います。ご本人の性格が穏やかで、それが反映したのでしょう、現場も穏やかでした。

――では「なるほど!」と思ったシーンはありましたか。
どのシーンも説得力があってそう思っていましたが、特に何かあげろと言われると、高校生時代ですかね。本来持っている明るさを失っているときに茉莉子先生と出会い、少しずつ自分を取り戻してゆく。それによって大人になったときには、いろんな人に臆することなく話せる子になっている。これは自分の中で“すとん”と納得できるもので、理想的でした。

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©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

朝日座の支配人はどうしても喬太郎師匠に演じてほしかった

――茉莉子先生にはモデルになった先生がいるのでしょうか。
そのままモデルにしている先生はいませんが、生徒のことを一個人として認めてくれる先生は折に触れて、小学校や中学、高校でも出会っています。そういう先生たちの好きな要素の集大成と、自分の理想を掛け合わせたのが茉莉子先生です。年齢や立場を超えた友情っていいなと思って2人の話を書きました。ただ、あそこまで男にだらしない先生には会ったことがありませんけどね(笑)。

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©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

――その茉莉子先生を演じているのは大久保佳代子さんです。家にも学校にも居場所のないあさひを自宅に迎えてくれる、大らかで魅力的な女性をかわいらしく体現していました。大久保さんをキャスティングした決め手はどんなところだったのでしょうか。
大久保さんはこれまでもドラマや映画に出られていますし、バラエティの場では芸人さんとして瞬発力を問われる場面を経験されてきています。高畑さんの主演が決まった段階で、これまでにいろんな俳優さんとお仕事をされてきている高畑さんが誰とお芝居をしたら、これまでにない反応が生まれるだろうと考えたとき、大久保さんは面白いのではないかと思い、お願いしました。
これまで演じられた役と比べて、セリフが多かったと完成披露イベントでおっしゃっていましたが、現場ではその苦労をまったく見せなかったです。セリフはもちろん入れてきてくださいましたし、ちょっとした修正もすぐに応じてくれました。

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©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

――「朝日座」の支配人・森田保造役は落語家の柳家喬太郎さんですね。
私は喬太郎師匠の落語のファンでもあるんですが、2018年にNHKドラマ10「昭和元禄落語心中」で喬太郎師匠が落語監修をしてくださったんです。その時も俳優としても少しだけ出ていただいて、ご自身もお芝居がお好きというのは知っていました。そんなこともあって、この役はどうしても喬太郎師匠にやっていただきたかったので、お忙しい師匠に、しつこいくらいお願いしました(笑)。

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©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

コロナ禍のなかで映画の灯を消さないように頑張っている

――コロナ禍での撮影で苦労されたことも多かったのではありませんか。
毎日、検温をして、ことあるごとに換気をして消毒をする。当時はコロナ自体も今ほどは解明されておらず、みんな手探りでしたが必死にやっていましたね。それに加えて大変だったのは、感染予防の観点から絶対必要ですが、夏の暑い中、マスクをしなくてはいけないこと。今年は2年目の夏なので夏のマスクも慣れましたが、去年の撮影時は、真夏のマスクは日本中が初めてのこと。熱中症にも、いつも以上に気をつけました。

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©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

――コロナ以降の話という設定ですが、登場人物の人たちはマスクをしていません。登場人物にマスクをさせるかどうか、迷いませんでしたか。
当時はものすごく悩みました。私だけでなく、その頃に撮影をしていた作り手たちはみんな悩んでいたと思います。今もマスクが外せない状況ですが、撮影していた頃は、オンエア時期や公開時期に世の中がどうなっているか分かりませんでした。しかし、登場人物がマスクをしてしまうと、当たり前ですが顔が隠れてしまいます。エンターテインメントとして成立させなければいけない映画やドラマと、そして現実社会とのはざまで、作り手はどう腹を括るのか。舞台でも漫画でも小説でもその葛藤は起きたはずです。そしてどう腹を括ろうと、あとは、観てくださる方の想像力に委ねるほかない部分もあります。現実の自分はマスクをしているけれど、スクリーンでお金を出してマスク姿の俳優を見たいかどうか。現実と、そしてエンタメという架空世界を、お客様は混同することはないと信じる以外ないですし、まずお客様を信頼していないと何も作れません。私は自分が一観客、一読者の時は、エンタメはやはりエンタメであって欲しいと思います。

――これから作品をご覧になる方にひとことお願いします。
世の中の状況が変わり、暗い作品を今見るのはしんどいなと私自身が思い、だからこそこの作品は、どんなに大変なことを根底に抱えていても、もがきながらでも笑おうとする人たちを描きたいと思いました。映画は、人が作った文化だと思いますが、その文化を守れるのはやはり、人しかいないのだと思います。どう守って行くのか、難しい状況である以上、簡単なことは言えませんが、映画館も、その他のお仕事の方達と同じように、今必死で、頑張っています。観てくださる方にも、観に行けない方にも、そのことが伝わるといいなと思っています。
(取材・文:ほりきみき)

<プロフィール>

タナダユキ

迷いながら前に進もうとする葛藤を高畑充希が演じた『浜の朝日の嘘つきどもと』タナダユキ監督インタビュー

©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

福岡県出身。
2001年『モル』で監督デビュー。2004年劇映画『月とチェリー』が英国映画協会の「21世紀の称賛に値する日本映画10本」に選出。2008年には脚本・監督を務めた『百万円と苦虫女』で日本映画監督協会新人賞と、ウディネファーイースト映画祭で観客賞を受賞、その後も『俺たちに明日はないッス』(08)、『ふがいない僕は空を見た』(12)、『四十九日のレシピ』(13、中国金鶏百花映画祭国際映画部門監督賞)、『ロマンス』(15、ASIAN POP-UPCINEMA 観客賞)、『お父さんと伊藤さん』(16)、『ロマンスドール』(20)など、数々の話題作を世に送り出してきた。
また、テレビドラマでは「蒼井優×4 つの嘘 カムフラージュ」(08/WOWOW)、「週刊真木よう子」(08/テレビ東京)、配信ドラマ「東京女子図鑑」(16/Amazonプライム・ビデオ、ATP 賞テレビグランプリ特別賞)、「タチアオイの咲く頃に〜会津の結婚〜」(16/福島中央テレビ、日本民間放送連盟賞番組部門テレビドラマ優秀賞)、「昭和元禄落語心中」(18/NHK 総合)、「夫のちんぽが入らない」 (19/Netflix)、「レンタルなんもしない人」(20/テレビ東京)など様々なジャンルの作品を手掛けている。本作に先駆けて福島中央テレビで制作・放送されたドラマ「浜の朝日の嘘つきどもと」は、優れた放送番組に贈られる第58回ギャラクシー賞(放送批評懇談会主催)2020 年度テレビ部門で選奨を受賞した。

『浜の朝日の嘘つきどもと』

脚本・監督:タナダユキ
出演:高畑充希/柳家喬太郎 大久保佳代子/甲本雅裕 佐野弘樹 神尾 佑 竹原ピストル/光石 研/吉行和子
主題歌:Hakubi「栞」(unBORDE)
制作プロダクション:ホリプロ
配給:ポニーキャニオン
©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会
9月10日(金)全国公開 8月27日(金)より福島県先行公開中

映画『浜の朝日の嘘つきどもと』公式サイト


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