戦前に開場された「多摩川スピードウェイ」の旧観客席が取り壊し危機に

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戦前に開場された「多摩川スピードウェイ」の旧観客席が取り壊し危機に

 かつて鈴鹿サーキット(三重)や富士スピードウェイ(静岡)よりも歴史が古いサーキットが東京近郊に存在していた。川崎市の多摩川河川敷を利用して戦前の昭和11(1936)年に開場した多摩川スピードウェイだ。アジアで初の常設サーキットで1周1・2キロのオーバルコース。路面は簡易舗装され、開場間もなく実施された第1回全日本自動車競争大会には、ホンダ創業者の本田宗一郎氏も自作のレーシングカー「浜松号」で自らステアリングを握って出場した。

多摩川スピードウェイの観客席の遺構(多摩川スピードウェイの会提供)

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 スピードウェイは戦後も存在し、オートバイのレースなども開催されたが、1950年代初頭に廃止となった。その後は敷地は自動車学校などに転用され、現在は野球場に改装されている。

 スピードウェイの遺構が今も残っている。河川敷の土手に広がるコンクリート製の階段状の構造物がそれだ。旧観客席で、長さは約350メートル。コース全体で約3万人を収容することができたという。

 その旧観客席が取り壊しの危機に直面している。スピードウェイの歴史意義を啓発して遺構の保全などを求めている市民グループ「多摩川スピードウェイの会」が公式Facebookに緊急声明を出して明らかにした。

 「【緊急声明】多摩川スピードウェイ観客席取り壊し危機と、保全に向けたご協力のお願い ショッキングなお知らせですが、本年10月頃に観客席の取り壊し工事を行う旨、国交省京浜河川事務所より7月2日に通達されました。このままでは、この秋に工事が開始され、観客席は永遠に失われてしまいます」と説明した。

 この一帯は2019年に冠水に見舞われた武蔵小杉地区が近くにあり、取り壊しは堤防強化の一環といい、「治水対策のための堤防強化は、流域の方々の安全性のためにも最優先されるべきものです。一方で、観客席の保全とを堤防強化の両立は可能なはずですが、そのような検討はなされておらず、一方的な取り壊しのみが通告された状態です。特に、工事着工3カ月前の通達により、実質的な時間切れで押し切ろうとする進め方は、文化財保護の観点で許容されるものではありません」と通告は寝耳に水だったという。

戦前に行われた自動車レースの一幕。奥に観客席が見える(多摩川スピードウェイの会提供)

 多摩川スピードウェイの会は2016年に開場80周年を記念するプレートを旧観客席に設置。除幕式には川崎市の福田紀彦市長も招かれ、「貴重な産業遺産を1人でも多くの市民に知ってほしい」と保存に賛同する姿勢を示したほか、新たな行政ビジョン「新・多摩川プラン」の中にも跡地保存の方策が盛り込まれたという。保存ありきから一転して取り壊しの危機に直面したというわけだ。

 戦前のサーキットの遺構が残っているのは世界的にも極めて珍しい。F1などを開催する鈴鹿サーキットは多摩川スピードウェイが消えて10年近く経った1962年の開場で、歴史は多摩川スピードウェイより25年近くも浅い。富士スピードウェイが完成したのも1966年。ちなみに戦前は競馬場や練兵場、飛行場でもレースが行われていたようだ。

 東京近郊には他にもサーキットがあった。1965年開場ながら足掛け3年で姿を消した船橋サーキット(千葉)だ。その後は船橋オートレース場に取って代わったが、オートレース場は2016年に廃止となり、現在は屋内型スケートリンク「三井不動産アイスパーク船橋」に。サーキットの痕跡はほとんどなくなってしまった。唯一、面影としてかろうじて残っているのは駐車場の敷地が不自然に湾曲している部分で、それが高速コーナー「360R」にあたる場所だ。

 多摩川スピードウェイの旧観客席は奇跡的に残っているが、地元住民の安全が第一。多摩川スピードウェイの会の小林大樹副会長も「工事に全面的に反対しているというわけではない。観客席の遺構を残しながら堤防を整備する工事もできれば」と言う。

 治水対策の堤防強化をしながら保存する道を探れないか。何の議論もなく取り壊されるのは何とも忍びない。日本の自動車産業の歴史を知る上でも後世に残す価値はあるとみる。

[文/中日スポーツ・鶴田真也]

トーチュウF1エクスプレス(http://f1express.cnc.ne.jp/)

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