「目に見えるものばかりを追いかけてる社会への皮肉」オカモトショウ & 中村壮志 『CULTICA』インタビュー
カモトショウによる初ソロアルバム『CULTICA』のリリースを記念し、本作のMV4本(“GLASS”はCD&Blu-rayに収録)とジャケットデザインを監修した、アーティスト/映像作家・中村壮志を招いて制作の過程を辿る対談を行った。2人の出会い、そこからどのように共鳴していったのか、互いの作品への絶対的な信頼の礎とは。
――お2人は最初、友達の蟹パーティで出会ったんですよね。
中村「そうです。藝大の共通の友達が、ショウくんとは同じ歳だし多分気が合いますよって僕を呼んでくれて。それが4、5年前かな。でも蟹、食べれないんだよね?」
ショウ「食べてみたりはするけど好きじゃなくて、蟹パーティーとか本当に食べるものがないんだけど行きました(笑)」
中村「同い年のミュージシャンということだけでなく、その苦手な蟹を食べる場に嫌な顔ひとつせずに参加する姿と、喋り方含めてとても印象が良かったんです。素敵な人だなと」
ショウ「俺も同じで、壮志くんが撮った映像をその場で観せてもらったんですけど、めちゃくちゃ良かったんですよ。特に海外のバンドのMVが好きで、いつかバンドのMV撮ってもらいたいという話をして」
中村「仕事としてファッション・フィルムは当時からたくさん撮ってたけど、MV はドイツに留学してた時の友達の曲とかだけで。それは室内プールで水着を着た大柄な女性がシャワーの水をかぶっているところがずっとループする中で曲が進むというものでした」
ショウ「その映像で壮志くんのセンスが見えたんです。ただ格好いいというんじゃなくて、ダサ格好いいのが好きだと言ってて、それが伝わるものだったし、俺も好きだわって。壮志くんはデザインもやれて、俺とJan(Urila Sas)が演奏した個展(『夢、もしくは本当の月に関する物語』)でも自分で物を作ったり、T シャツをプリントしたりしてて。だから今回せっかくソロで自分が主導権を握ってやるなら、ビデオもパッケージデザインも含めて同じ人にお願いしたいと思った時に真っ先に浮かんだんですよ。壮志くんがいかに引っ張りだこで忙しいかよく知ってたし、そんなに予算も潤沢でない中でお願いするのは失礼だと思ったけど、無茶を承知で話してみたら快諾してくれて。その時にPecoriとAAAMYYYと作り始めてた“CULT”“GHOST”“LOOP”“GLASS”を聴いてもらいました」
中村「ソロでどういうものを出してくるのか気になってる中で、元々こういうものが好きだとは知ってたけど、近しい世代でここまでのレベルに持っていけるミュージシャンはいないなと驚きました。バンドと違うショウくんを出してるのも面白かったし、ショウくんが決定権を持っていること含めていいなと。ただ最初に、僕がやるとグラフィック含めて MV もポップにはならない。OKAMOTO’Sのショウくんのファンからしたら違う要素になるけど、バンドでは出せない場所には行けるという説明はしました。そしたらむしろそっちの方がいいと言ってくれて、改めて やろうとなったんです」
ショウ「それが2020年の初めで、そこからコロナになって。逆に今のもうこの空いた時間を使って何かやれることがあるんじゃないかっていうので自粛中に“CULT”を撮ったのが始まり。あれは全部 iPhone で撮影していて、壮志くんにはリモートで監督してもらいました。壮志くんはシルバニアファミリーみたいな古い人形の家を手に入れて、そこに自分で作った人形を動かして iPhone で撮ってということをやってくれて」
中村「以前、シルバニアファミリーを使って自分の映像作品を作ったことがあったんです。ポートランドにいた時に、近くに『シャイニング』のあのロッジがあって。それでかわいいクマのトイをあの映画に登場する双子に見立てて、赤い血のかわりに現地のセカンドショップで見つけた真っ赤な種を落としてあのシーンを模型で作り撮影しました。その時は記憶というのを軸にした作品だったので、シルバニアファミリーは北米でもCalico Crittersという名前で売られていて、アメリカ人と日本人共に幼少期の思い出に残っている玩具ということで。
それで今回も、模型を使って撮影ということであればみんなそれぞれの家でも撮れるなと。しかも“CULT”だし、顔は切り貼りしよう、アナログなのが逆にいいって提案しました。ショウくんの4曲を聴いて、どういう方向に振っていくかは各曲考えたんですけど、これはそっちだなと。
メタルバンドのMV のような絶妙なアナログのニュアンスが欲しかった」
ショウ「俺とPecoriも元々フェイクドキュメンタリー感は欲しかったんだけど、それをどう成立させていくかは全くわからないから、壮志くんにアイデアをもらって。結果、俺と猫が出てきてパーッとなっちゃう支離滅裂な感じとかも全部“ずらした格好良さ”として成立したものになった。前からセンスを信頼してたけど、やっぱり人と作るのはこういう自分だけじゃ届かないものを目にできるから楽しいなと改めて思いました。
あとジャケットも1発目だったんですけど、これから曲を出していく中で統一感を持たせて一連のプロジェクトにするために“部屋”という提案をもらったんですよ」
中村「1個1個バラバラにして作るのもいいんだけど、時間の経過で観る人の熱量がフラットになっちゃう気がして。だったら統一して、『前もこういう構図じゃなかったっけ?』と匂わせになるくらいの方がいいんじゃないかなって。それで今回のジャケットを作り始めたんですけど、今回の全部のCG グラフィックを作ってくれたのが、まさに出会いのきっかけなった蟹パーティに呼んでくれた桂隼人くんなんです」
――すごい伏線の回収ですね(笑)。 “CULT”はソロ1曲目として、音楽もMVもインパクト充分でした。最初におっしゃっていたように、バンドとしてのショウさんを知らない層に届くというのがまさに体現されていたと思います。
中村「僕の周りでもすごく評判が良かったんです。こういう事、いくつかやるんだけど一緒にやろうよって材料にもなった(笑)。
それで撮影監督(福谷 崇)と照明技師(佐伯琢磨)が手を挙げてくれて、他3曲のMVをつくるチームができたのも大きかった」
――ショウさんのユーモアラスな部分が伝わるのも良かったです。バンドでは各自役割があるので、ソロだからこそ出せる側面があって。
ショウ「それはありますね。音楽的にはバンドでやりたいのにやれてないことってほぼないんです。ソロではせっかくだしというので打ち込みをガンガン使いましたけど、音楽的には素晴らしいメンバーに恵まれてやれてるんですよ。でも人が集まると小さな社会ができるから、人間性をどう出すというところでなんとなく担当はわかれていく。すごいファンだったら多分知ってくれているんだけど、遠くから見ると見えない部分みたいな部分があって、壮志くんと一緒にイメージとして形作って出していけたことで、ユーモア含めてそういう自分の人となりが伝わるものになった。だからファンのみんなも嬉しいと思ってくれる気がするし、俺のことを全然知らない人は面白そうだからバドの方も聴いてみようとなる気がします」
中村「そういう人物設定や世界観、コンセプトが大事ですよね。お金さえあれば、いいスタッフとカメラで綺麗や格好いい映像って簡単に撮れてしまう。実際に日本の最近のMVはただ格好いいというお決まりのものになっている気がします。消す僕自身、MVをやると沼にハマると思ってあえてMVをやってなかった。今回の一連はちゃんとそこと差別化できるものになってると思います」
――続く“LOOP”は全く違う作風でした。
ショウ「壮志くんは綺麗な映画とカオスの両極にいける人で、“LOOP”はまさにその綺麗な方向性のもの」
中村「とにかくすごくしっとりとした良い曲だったので、そういう方向性になりました。これが撮影監督と照明技師が入った一発目。その2人にもアイデアを出してもらってやりました」
――物語が見えるようなMVでしたね。
ショウ「『ニュー・シネマ・パラダイス』の最後のシーンが好きって話をしたよね」
中村「撮影場所が日暮里にある元映画館という場所だったこともあり、せっかくだったら古い映画を観ているという設定のもと、物語を想像させるようなものにしようと。なぜ悲しんでいるんだろう、なぜ最後は笑っていくんだろうとか、どんな映像の内容なのかを想起させるようにしっとりと見せていきました」
ショウ「バンドでやる時は意外と“LOOP”のような曲のビデオを撮ることが少ないんですよね。リード曲になるのは、やっぱりちょっと派手だったりヤンチャだったりというものが多い。でも映画音楽を思い起こせばわかるように、実際に映像と一番合うのはこういう感じの曲だったりするなと勉強になりました。こういう曲でビデオを作る方が、むしろ曲のイメージをアップさせるにはいいのかなと。それに評価されて後に長く残るものって、こんな風に訴えかけるものだなあって。壮志くんの映像への造詣の深さも出ていて好きです」
中村「音楽と同じで、映像も機材の性能が上がって、アウトプットの方法も増えて、若い作り手が一気に増えたんですけど、実は昔のMVや映画を追えている子はあまりいない気がします。ここ数年の格好いい映像を模倣するというのが恥ずかしながら今の流れで、今後も続くと思う。オマージュとも言えないような。
タランティーノは自分で『すべての映画から盗んでいる』と言うくらいほぼ全カット、設定や構図にオマージュを入れ込んでるけど、誰もコピーだなんて言わないのは、量も質も深さも知識があってそれを自分のものとして入れ込めてるから。そもそも映画自体がオマージュカルチャーであって、完成されたものをオマージュしながら自分の色にどんどん染めていってるのが映画監督。ただ同じものを同じようにやるんじゃなく、そこにコンセプトなどを入れてただのコピーとは一線を画してる。僕も構図や設定を、これまでの沢山の映画や映像からもってきていますが、そこに意味を持たせています。この一連の作品はそういうところに気づいてくれる人に向けて作りたいという気持ちもありました」
ショウ「この話はすごく難しくて。大滝詠一が『俺の参照元が全部わかる人がいたら言ってごらん、絶対に全部はわからないから』って自信満々に言うのも同じなんですよね。誰もまだ見たことがないものを作るのがオリジナルかと言ったら、ただの誰も見たことがないクオリティが蔑ろなものなる可能性があるし、かと言って物真似は結局オリジナルに勝てない。だからいろんな選択がある中から進んで行くんだけど、その方向に進むと決める時って、やっぱり自分の心が動いたり、憧れる力などが発生する時で、その向かった先で自分の作品や言葉、想いを形にしてくのがものづくりだと思うんです。自分が体験して凄いと思った元のものがあるのは当たり前なんだけど、そこへの想いが純粋であればあるほど自分のものになる、オリジナルになり得るというか。そこはつくる側としてすごく大事だと思うし、受け取る側にも見極めて欲しいなと思います。
“GHOSTS”は今話したことと近いことを歌っていて、みんな目に見えるものばかりを追いかけていて、例えば愛とかいろんな感情も含め、目に見えないけど実際にあるはずのものをどんどん置いてけぼりにしてる。そういう話をPecoriとしてから2人で書いた曲」
中村「元々聴いた中で一番ダサかっこいいというのがハマる曲だなと思っていて、僕の趣味全開でやれると思ったし、楽曲自体が皮肉だったから、MVも遊ぼうと」
ショウ「それで出てきたのがあのアイデア。ストーリー設定としては、ゴーストという、人の顔の写真にドクロをペイントするアーティストがいる。ある日、そのゴーストが描いた絵が美術館で盗まれる。それがニュースになって広まったことによってアーティストが有名になったというもの」
中村「物事の本質ではなく、ニュースに取り上げられたものや表面的なことが取り上げられることが多々ありますよね。そういった設定をいれつつ、物語に寄りすぎずに話をぶつ切りで組み立てたのがあのMVです」
ショウ「どれくらいストーリーを伝えるかという問題は3人でも話したんですけど、最終的にはこれで良かったと思う。このMVはかなりぶちかましました。壮志くんの伝手で特殊メイクのチームが来てくれて、Pecoriを老けさせて、俺にドクロのメイクをしてくれたり」
中村「走ってるところは『ウルトラマンQ』のケムール人やロブ・ソンビっぽさを意識しました」
――レイヤーになっていて、特殊メイクやライティングなどのヴィジュアルに惹かれる人もいれば、内容の深読みもできるものになっているんですね。
ショウ「はい。コンセプトがないと空洞だってわかるじゃないですか。だからちゃんと中身があるものを見せたいし、伝わるんじゃないかと信じて作りました」
中村「ショウくんはちゃんと深みがあるから面白い。好きなことをお互い言い合ったり、提案した時にすぐに話が通じるし、こっちもあるよと逆に提案もしてくれる。一方通行にならないんですよ。その人となりがすごく出てるアルバムなので、丸々4曲含めたビジュアルを一緒にディレクションできて楽しかったです」
ショウ「また作るときはぜひお願いします」
中村「こちらこそ、ぜひ!」
photography Rei (IG)
text & edit Ryoko Kuwahara (IG)
special thanks Smiles 〒151-0064 東京都渋谷区上原1丁目32−16 tel:03-3465-7496
オカモトショウ
『CULTICA』
4月28日発売
https://smej.lnk.to/Q5jbur
中村 壮志
アーティスト / 映像作家
1991年生まれ。熊本県出身。2016年東京藝術大学大学院修了。2019年まで同大学で非常勤講師を務める。古典的な映像技法を用いたり、既存の物語の拡張や再演など映画の伝統を継承しながらも、現代的に設計した詩的な映像が特徴でメゾンクリスチャンディオールやミキモトの映像を演出。親しみのある既製品を使用した映像インスタレーションや、映像作品内の立体を制作してフィクションと現実を横断しながら、映画と現代美術の中庸を展示空間で実験的に探っている。個展『真昼にみた夢 』 京都府立文化芸術会館 2021,個展『satellite』KYOTOGRAPHY KG+ haku 2020 ,個展『somnium』VACANT 2019。
http://sounakamura.com
オカモトショウ
1990年10月19日、アメリカ・ニューヨーク生まれ。中学在学時、同級生とともに現在のOKAMOTO’Sの原型となるバンドを結成。2010年、OKAMOTO’Sのヴォーカルとしてデビュー、結成10周年となった2019年には初めて日本武道館で単独ワンマンライブを成功させる。OKAMOTO’Sとして5月19日、2021年第5弾デジタルリリース「Band Music」を配信リリース。6月30日にKT Zepp Yokohamaにてワンマン公演「Young Japanese in Yokohama」を開催。2021年4月28日、初ソロアルバム『CULTICA』をリリース。
http://www.okamotos.net
https://www.instagram.com/okamotos_official/
https://twitter.com/OKAMOTOS_INFO
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ウェブサイト: http://www.neol.jp/
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