元刑事・佐々木成三さんは『21ブリッジ』をこう観た!「刑事の葛藤や判断の難しさがよく描かれている」
チャドウィック・ボーズマン最後の劇場公開主演&プロデュース作品 『21ブリッジ』が、4月9日(金)より全国公開となります。 8人の警官を殺した強盗犯を追跡するため、アンドレ刑事(チャドウィック・ボーズマン)はNYマンハッタン島に架かる21の橋を全て封鎖 する。だが、追跡を進めるうち、表向きの事件とはまったく別の陰謀があることを悟る。果たしてその真実とは――!?このシンプルにして大胆なアイデアを核に、たった一夜の出来事がスリリングかつダイナミックに展開するクライム・アクションが誕生します。
本作を多数のメディアで活躍する、元刑事の佐々木成三さんが鑑賞。元刑事の視点から『21ブリッジ』の魅力をお話しいただきました。
――映画をご覧になった率直な感想を教えてください。
佐々木:面白かったです。色々な刑事の葛藤だったり、それぞれのストーリーで判断をどうするのかという難しさだったり。アクションも凄くて、展開がどんどん早くなっていくなかで息ができる時間がないというか、休む時間がないというか、本当に面白い映画でした。王道なストーリーかなと最初は思ったんですけど、点と点を拾っていくと線になって、だからあの時ああだったのか、と感じられました。アンドレ刑事を演じるチャドウィック・ボーズマンの演技も素晴らしかったです。全ての真相を掴んだシーンの表情がとてもインパクトがありました。
――好きなシーンや、印象的なセリフはありますか?
佐々木:J・K・シモンズ演じるマッケナ署長がどれだけ署員を大切にしているのかが分かる言葉にかなり共感しました。殺された警察官のなかで4人が妻がいて1人が婚約者がいる、彼らの子どもの3人の名付け親であったことなど。あれは署長が署員にかなり愛情を持って接していたんだなと最初は思いました。そうでないと、こういう情報は入ってこないですから。 そしてアンドレ刑事は今まで凶悪犯を射殺してきましたが、今回はその凶悪犯を射殺せずに生きて確保するという目的をしっかり持っていた。今までもきっと感情的になって射殺していたわけではなくて、これは射殺しなければいけないという判断を、感情的じゃなく客観的に判断をして、ちゃんと決断をしてきていたんだなと今回の事件を見てわかりますよね。
――元刑事の佐々木さんから見て、チャドウィックさんの刑事ぶりはいかがだったでしょうか?
佐々木:かっこよかったです。実は刑事もこういう映画だったり、刑事ドラマを見て刑事に憧れるんですよね。僕は警察官になった年に『セブン』を見て、刑事ってすごいなって思いました。捜査一課になって『マイアミ・バイス』を見て薬物を取り締まる刑事ってかっこいいなって思いました。警察官っていうのは正義を貫き通すなかで、感情的になってはダメなんだっていうのを色んな映画で学ばせていただきました。「踊る大捜査線」を見て刑事は青島刑事の着てる上着を買うんですよ。僕も実際「アンフェア」を見てトレンチコートを買いました。やっぱりすごい影響を受けます。銃の構え方もはじめは基本動作っていわれて正面に向けるんですけど、映画で学んだ構え方をして教官に怒られることが多くあるんです。
――日本の刑事ドラマとアメリカの刑事ドラマに違いを感じる部分はありますか?
佐々木:一番は銃社会とそうでない場合での、犯罪者との対峙のしかたですね。どうしても日本は拳銃の使用基準判断にかなり高いハードルを設けているので、現場で拳銃を抜くという使用判断が少し遅れる場面があるんです。アメリカの警察官はそれ自体が自分の命を守るということですし、銃が簡単に手に入る場所なのでいつでも銃を向けられる感覚で現場に行くんですよね。この映画の事件現場のシーンでも、それがうまく描かれていて、不審者がいると必ず銃を抜きながら現場に入って行きます。日本ではありえないかなと思います。実際、日本は拳銃を抜いた地点で使用したとなるので、報告書を書かなきゃいけないんですよ。人に向けた地点で、射撃の準備に入った。そうなってくると、拳銃を向けたこと自体が正当性があるのかないのか判断をしなきゃいけないんです。危機意識というのが、アメリカの警察の方がワンランク、ツーランクくらい上なのかなと思います。
今回の映画では、防犯カメラ映像を流したり、車を特定したり、犯罪者が浮上したら写真を載せるという司令室があるんですが、日本もあるんですよ。捜査支援分析センターというところで、何か発生したら車の追跡捜査をしたりするんですけど、残念ながら防犯カメラが一元化されているわけではありません。サーバーに警察が外部からアクセスして映像を取ることはできないので、何をやってるかというとアナログなんです。足を運んでそこのお店に行って防犯カメラ映像を借りてモニターを見るという。もともと防犯カメラ自体が警察の捜査のためにあるわけではないので、個人情報の保護だったりありますし。もしここで何か事件が起きたら、警察官が駅周辺を全部回ってカメラがどこに付いているんだろう、といった人海戦術になります。まとめた映像を見る係もいないとダメなんで。本当に情報収集ですね。初動があったときに車がわかるのかどうか、犯罪者の特徴がわかるのかどうか、目撃者の証言よりもカメラの映像で欲しいんです。そういった情報をいち早くキャッチできるかどうかが、事件早期解決に繋がるか繋がらないかという本当に重要なところです。
目撃者のなかで「黒っぽい服装をしていました」とあっても、実際カメラを見ると緑の服装だったということがあるんです。夜間で全く見えなかったというのもあるのですが、確度の高い情報がないと、警察官は目で追うことが難しくなるんです。身長も170cmくらいでしたかね、とあったのが実際は150cmだったり。客観的な情報でキャッチアップして司令していくっていうのが初動捜査では大切なところになります。
――本作の様に組織の中で陰謀がうずまいている……という事は実際にもあるのでしょうか?
佐々木:刑事ドラマや映画で警察の組織がかなり悪いんじゃないのかっていうのがありますが、僕はそういうのを感じたことはないですね。今は情報公開があったり、内部告発もあるので、腐食されている組織はどんどん外に出てしまいます。日本の治安が良いというのは日本の警察力がかなり長けているというところがあるので、そこは崩れて欲しくないというのは、警察を辞めてからも思いますね。だから僕は今後も警察を裏から支えるような仕事をしていきたいと思います。
――佐々木さんがお好きな刑事ドラマ、映画を教えてください!
佐々木:僕に限らずですが、刑事が一番影響を受けたのは「踊る大捜査線」だと思います。ちょっとコミカルになってますけど、結構リアリティのある作品ですし、あれを見て捜査一課というポジションがかなり上の地位だと思っている方が増えてきたというか、捜査一課になりたいという刑事も増えてきました。
僕は『セブン』は一番影響受けた映画ですね。『セブン』を見て刑事に憧れたというか、悪い奴をやっつけたいなと思いました。色んな凶悪犯罪のなかで、どういう視点で犯罪者を見つめて捜査していくのかということ、事件で刑事は感情的にならず、いかに冷静かつ客観的に捜査することの難しさというのを、当時僕は二十歳くらいだったんですけど感じました。
――今日は貴重なお話をたくさんありがとうございました!
【動画】2分でわかる『21ブリッジ』映像
https://www.youtube.com/watch?v=ZapqRRvplvc
■佐々木成三さん
https://www.blooming-net.com/blooming-agency/sasaki-narumi/ [リンク]
https://twitter.com/narumi_keiji [リンク]
■『21ブリッジ』
監督:ブライアン・カーク 「ゲーム・オブ・スローンズ」、『マイ・ボーイ・ジャック』(07)
製作:ジョー・ルッソ&アンソニー・ルッソ 『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)
出演:チャドウィック・ボーズマン、シエナ・ミラー、テイラー・キッチュ、J・K・シモンズほか
配給:ショウゲート
原題:21 Bridges
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2019/中国・アメリカ/99分
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