アンシュル・チョウハン(映画『コントラ』監督) – 時空を逆走するほどの想い。人間がもつ良い面と悪い面、どちらもきちんと描きたかった

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アンシュル・チョウハン(映画『コントラ』監督) – 時空を逆走するほどの想い。人間がもつ良い面と悪い面、どちらもきちんと描きたかった

戦争について語られる物語が自分自身の体験と結びつく

──映画、とても素晴らしかったです。最初の10分ですでに、登場人物たちの行き場のない気持ちが溢れていて、これは多くの人が抱えるテーマだと感じました。戦争体験を主軸のひとつに入れたのはなぜでしょうか。

アンシュル:ありがとうございます。そう言ってもらえるのは家族関係になんらかの葛藤があったのかな…と気になりますね(笑)。戦争をテーマにいれたことについてですが、そもそも歴史に興味があったんです。わたしは陸軍士官学校に行っていたのですが、戦争について語られる物語を聞くと、自分自身の体験と結びつくようなところがあるんです。それがいちばんの理由です。複数のテーマを重ねている作品ですが、戦争については実際にあった出来事をベースに作りました。

──ご自身の体験も関係しているのですね…。戦争でも、特に第二次世界大戦をとりあげられたのは、まわりに体験者がいらっしゃったからでしょうか。

アンシュル:資料がたくさん残っていて、現在を生きるわたしたちがいちばん自分と関連付けやすかったり、考えたりできるのが第二次世界大戦だと思いました。わたしの祖父が軍士だったこともあり、実際に自分と繋がっていることも理由です。今回、映画『コントラ』を撮るにあたり、記事や資料を読んでいくなかで、一番情報が残っている戦争でもあったので、詳しく調べることができました。

──今の社会は、自分の理解がおよばないものや人に出会ったときに、見ないふりをしたり、こわくて避けたり、遠くからスマホで撮影したりする人が多いように感じます。しかし、『コントラ』では”後ろ向きに歩く男”が現れても、車道に飛び出てそうになると「あぶないですよ」、転んだら「大丈夫ですか?」と声をかける人がいます。それは意図的だったのでしょうか。

アンシュル:遠くから見ないふりをしたり、スマホで撮影をしたりするのはとても現代的なことだと思うのですが、この映画では人間の悪い面だけを描きたくはなかったんです。少人数の人しかいない田舎が舞台だったので、得体の知れない”後ろ向きに歩く男”を見たときに、なにかあれば手を差し伸べるのは自然なことに思いました。それに、主人公のソラは冒険心がある女の子なので、”後ろ向きに歩く男”を家にいれたときも、質問攻めにします。これはなに? あなたはだれ? なぜ後ろ向きに歩くの? って、すごく彼を知りたいと思っているんです。自転車を倒したり、バナナを投げ捨てたりはしますが、彼女自身も悪い子ではないんです。

「いつかわたしも父とこういう風になりたい」という気持ちを込めている

──毎日の暮らしに苛ついて過ごしているソラにとって、”後ろ向きに歩く男”は、なぜ優しさや興味を向ける対象だったのでしょうか。

アンシュル:この映画では、10代のころに抱える混乱や、行き場のない激しい思いを表現したかったのですが、人間の持つ二面性も表現したいと思いました。これはわたしの体験ですが、10代のときに自分の両親と正面から話せなかったんです。ただ、それが必ずしも誰かが悪いわけではなくて、単純にコミュニケーションがうまくいっていなかったということ。でも、10代のわたしはどう解決したらいいのかわからない混乱の中にいました。あのときの葛藤を描きたかったんです。ソラ自身も、父親との関係がうまくいっていないことはわかっている。だけど、肉親ということもあって、母親と祖父を失った苛立ちをどうしても父へ向けてしまいます。もし、わたしが10代のころに、森の中で”後ろ向きに歩く男”のように不思議な人を発見をしたらついていくと思う。だから、ソラ自身もおもしろいことがあったら興味を向けるだろうと思ったんです。そういった意味で、父と”後ろ向きに歩く男”への対応の仕方が違ったのだと思います。

──他人である彼(”後ろ向きに歩く男”)が同じ食卓に存在することで、やっと、ソラと父親の会話がスムーズに進むシーンは印象的でした。

アンシュル:そうですね、まったくの第三者が入ることで話しやすくなる、ということは多くあると思います。それに、ソラ自身もほんとうは父と話したかったんです。でも、ずっと気持ちを抑えていた。だから、急にその思いを吐き出すように父親に話しはじめます。きっと彼女自身がずっと抱えていたものを解き放したかったんです。

ソラと父親.jpeg

──それでも、またちょっとしたことでソラが爆発して父親を怒鳴ってしまう危うい関係性は、とてもリアリティがありました。これはアンシュル監督のご自身の体験も影響しているのでしょうか。

アンシュル:実体験からこの映画を撮りはじめたので、自分自身を投影している部分も多くあると思います。わたし自身、軍隊の学校に9歳から18歳くらいまで家族と離れて軍隊の学校で勉強をしていたので、家族に会えるのは年に1回、それも数日間だけ。自分は家族といつも離れている、という思いは常にありました。

──9年間もご家族と離れて暮らされていたんですね。

アンシュル:軍隊の学校に子どもを入れることは胸を張って話せるような素晴らしいことだったので、家族としては誇らしかっただろうと思うのですが、わたしには葛藤がありました。それに、弟は入学の試験に落ちたので家族と一緒に住んでいて、当時のわたし自身は、「なぜ自分だけこんな経験をしなくてはいけないのか」と苦しみました。父も軍士だったので家の引っ越しをすることが多く、わたしが年に1回実家に帰ったときには家が全く変わっていることもありました。知らない街で誰も知らない人たちにかこまれて、誰ともつながることができず、常にひとりの状態で。映画で描いているソラと父が話すシーンは、「いつかわたしも父とこういう風になりたい」という気持ちを込めているんです。…ただ、こうなりたいと願いつつも、実際はまだ距離がありますね。

──ご自身の背景がベースになっているからこそ、会話が切実なんですね。ソラの行方がわからなくなったときに、自分のせいだとは少しも考えない父親の悪い面を出しつつも、彼なりに娘を思ったり、まわりに期待して裏切られてしまったり、仕事には熱心なシーンがあったりと、必死に生きようとしている姿も撮られています。登場人物みんなの悪い面と同時に孤独も描かれていますが、人の背景を想像してほしいという願いがあるのでしょうか。

アンシュル:この映画では人間性を大切にしているので、人間がもつ良い面と悪い面、どちらもきちんと描きたかったんです。全部のキャラクターに表と裏の顔がある。ソラに関しても、悪い子ではないけれどいい子でもない。それは、父親もそうなんです。娘と関わりたいのになぜうまく関われないのか、その理由がなんなのかわからない。彼自身もいつもソラを気にしてはいるのですが、ソラがなにを考えているのかあの食卓シーンまでは知ることができないんです。ソラと父親、互いの気持ちを解き明かすための重要な時間だったと思います。

ソラ.jpeg

次になにをしたらいいんだろう? という10代の葛藤

──血の繋がったイトコが家を買いあげようとし、「うちの工場で雇ってやるから」と声をかける場面がありました。地元で育ち働くことが幸福だと思う価値観への疑問の持たなさや、ティーンネイジャーへの想像力のなさは見ていて苦しかったです。なぜ、せまい人間関係の閉塞感を撮影しようと思われたのですか。

アンシュル:もともとは、田舎の問題をテーマにいれようと思って撮影をはじめたわけではありませんでした。でも、この場所で撮影をすると決まったときに、イトコなど、血が繋がった関係性で起こる問題はなんだろうと考え、お金や遺産のことだろうと自然にわきあがりました。役者さん自身には、普段喋るトーンと同じままで演技をしてくださいとお伝えしたので、より現実味を増したのかもしれないです。場所、喋るトーン、音楽、などたくさんの要素が重なったこともありますが、もし都会のバーでおしゃれなスーツを着た男性が同じセリフを言っても、おそらく現実味は生まれないと思うんです。この映画も、いくつかテイクを重ねながらいちばんリアリティが出るように考えました。

──父親の一人称が会話の相手によって、「お父さんはね、」とか「おじさんはね、」に変化するニュアンスもリアリティがすごかったです。日本語と英訳の細かい言葉の選び方は監督自身もこだわっていたのでしょうか。

アンシュル:わたしは英語で台本を書いているので、もともとの一人称はすべて「I(アイ)」になるのですが、実はヒンドゥー語でも「わたし」とか「おとうさん」という一人称があるんです。日本語にするときにそういったニュアンスは気をつけてはいますが、今回のセリフに関しては特別入り込んで指定をしてはいないです。ディレクションをするときに、「こういう言い方をしないで」や、「こういう風に言って」、などの細かいことは特に伝えておらず、役者さんにゆだねて、「本人になって話してください」と伝えているんです。ですからアドリブも多くて、最終的には役者さん頼みになっています。役者さんの力量ですね。

逆走する男.jpeg

──映画「コントラ」は、家族関係に問題を抱えている人にも必要な映画だと感じました。

アンシュル:わたしの中でも、家族問題は描きたいテーマです。この映画は、ソラと”後ろ向きに歩く男”の関係性もテーマのひとつではあるのですが、戦争や田舎などいろいろなストーリーを絡ませており、家族はやはり主軸になっています。

──父親と彼が心を通わせ始めたあたりからソラの顔が浮かなくなります。うまくいきはじめた家族関係に、なぜまた葛藤を持ってしまったのでしょうか。

アンシュル:このあたりのシーンになってくると、ソラにとって探していたものや興味のあったものがどんどん解決してしまい、「じゃあ、次にわたしはなにをしたらいいんだろう?」と気づきはじめます。10代のもつ、自分はどうしたらいいんだろう、この田舎で今後なにをしたらいいんだろう、といった不安もあり気持ちが下がっている状態なんです。

──今回のタイミングで上映を決められたのはどのような想いがありましたか。

アンシュル:コロナの状況が続いてはいるものの、ここで上映を決めたほうがいいと思いました。今はオンライン上映などもありますが、劇場で上映をすることを想定して撮影していたので、スクリーンの迫力や音響で体験をしてほしくて、どうしても劇場での上映を願っていました。今の状況でも映画を見ていただけることはとてもありがたいです。劇場の中でしか体験できない映像美や音楽を体験してほしいです。

──いよいよ上映がはじまります。これから見る方に向けてメッセージをお願いいたします。

アンシュル:『コントラ』はとても正直な気持ちで作りました。もしかしたら、今までの日本映画とは違った印象を受けるかもしれません。戦争をテーマのひとつに取り上げたこともあり、年代の高い方が見ることが多いかもしれないですが、この映画を通しておじいちゃんおばあちゃん世代がどんな想いをしてどんな体験をしたのかを、若い方にこそ知ってほしいと思います。ぜひ、感想をSNSなどで書いてもらえたら嬉しいです!


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