誰も知らない「カメ投資」!絶滅危惧種カメを繁殖させた男に話を聞いてみた
どうもライターの丸野裕行です。
株、FX、不動産、ヴィンテージROLEXなどなど、世の中には様々な投資ビジネスがありますが、今回テーマにするのは聞いたことも見たこともない「カメ投資」のお話。
なんでも、一匹数十万円もする「超稀少種のカメ」の難しい繁殖を成功させて、それを動物取扱業の資格を持つショップに売り渡して(※)利益を上げていたようです。
※個人が取扱業のお店に販売するにも「家庭動物管理士の資格」が必要です。資格をまず取得してからにしましょう。
このテーマの取材にご協力いただいたのは、様々な趣味を極めてサイドビジネスとして成功させている、家庭動物管理士で、医療機器コンサルタント・薬事ジャーナリストという肩書きを持つ神戸製薬代表の吉田ナリアキラさん。シリーズ連載になっている《オトナの時計投資》でアンティークロレックスにも精通されている方です。
そのカメがどれくらいの金額で売買されていたのかなどを、当時掲載されたカメ専門誌と照らし合わせながら振り返ります。
ダイアモンドバックテラピンに魅せられて
丸野(以下、丸)「カメという生物に興味を持たれたキッカケは?」
吉田さん「子供の頃、『大怪獣ガメラ』という映画が大好きでいつも観ていたのと、あとは甲羅の魅力にとりつかれたことですね。僕は戦国武将が好きなので、アンキロザウルスやトリケラトプスのような鎧に囲まれた動物が好きなんですよね。あとは、甲羅のカタチとか模様とか、中国では長寿を表す縁起物とされているところが好きですね。ダイアモンドバックテラピンなんか見た目がガメラっぽいわけですよ」
丸「なるほどね。まずダイアモンドバックテラピン(汽水ガメ)について教えていただけますか?」
吉田さん「私が留学していたアメリカに生息する亀で、複数種類があって、《オルナータ(ニシキ)》《コンセントリック(カロリナの中の特定種)》《テキサス》《マングローブ》《ノーザン(キタ)》など生息する地域によって名前が違ったり、模様が違ったりします。《ノーザン(キタ)》はアメリカ合衆国(コネチカット州南部、デラウェア州東部、ニュージャージー州東部、ニューヨーク州東部、ノースカロライナ州北東部、バージニア州東部、マサチューセッツ州東部、ロードアイランド州)です」
・《カロリナキスイガメ(コンセットリックが含まれる)》はアメリカ合衆国(サウスカロライナ州東部、ジョージア州東部、ノースカロライナ州南東部など。
・《テキサスキスイガメ)》アメリカ合衆国(テキサス州南東部)固有種。ライトフェイズというニシキキスイガメ(オルナータ)に近いものもいる。
・《ミシシッピキスイガメ》アメリカ合衆国(アラバマ州南部、ミシシッピ州南部、フロリダ州ウォルトン郡以北、ルイジアナ州南部)
・《マングローブキスイガメ》アメリカ合衆国(フロリダ・キーズ諸島)固有亜種
・《ヒガシフロリダキスイガメ》アメリカ合衆国(フロリダ州東部のボルーシャ郡以南)固有亜種模式産地はマイアミビーチ(フロリダ州)亜種小名tequestaは16世紀まで模式産地に居住していた先住民Tequesta(Tekesta)族に由来する。
闇ブローカーの存在もある
吉田さん「僕は甲羅にクッキリと渦巻模様が密集している《コンセントリックダイアモンドバッグテラピン》の繁殖に成功した第一人者として、爬虫類専門誌に取り上げられたことがあります」
丸「それはどれほど稀少種なんでしょうか?」
吉田さん「アメリカの有名なカメのブリーダー・ジェームズリーが自然界で発見して、有名になったものです。一時期マニアも興味を抱いて、普通に輸入されていたカメだったんですが、2013年に、アメリカ合衆国が輸出制限をし、日本ではブリーダーに頼るしかなくなったわけですね」
丸「輸入禁止になったときはどのくらいで売買されていたんですか?」
吉田さん「サイテス(稀少生物の保護を目的とした国際条約=ワシントン条約の付属書)Ⅱ類(国同士の取り引き制限=付属書付取引のみ)に入った当時の値段でオルナータのベビーで40万円くらいですかね。でも、そんな中でも他のカメに紛れさせて希少種を密輸しているブローカーがいますからね。魚類のアジアアロワナなんかはもっと厳しくて証書類がないと輸入できませんが、カメの世界というのはまだそこまで厳しくありません」
スッポンモドキは乱獲で稀少種に……
吉田さん「アニメ『けいおん』で話題になり大ブレークした、現在飼育しているスッポンモドキなんかは、鳥羽水族館でしか繁殖を成功させられなかったんです。一般家庭で繁殖ができるカメではないと思います。アメリカでは繁殖に成功させているブリーダーもいるようですが、飼育スペースが違いますからね。元々スッポンモドキは、サイテスから除外されていて、どんどん輸出乱獲されてきたわけなんですね。ニューギニアやオーストラリアでは食用として原住民が食べるのでどんどん減っていった。それに産卵した卵を回収し、孵化してまたこれを密輸する悪いやつらがいて非常に深刻な問題に発展したわけです。現在日本に付属書付きで正規で輸入されているものは、卵を孵化させたベビーたちです」
<写真:スッポンモドキ>
丸「マニアが欲しがるカメというわけですね」
吉田さん「はい。それはマズいというわけで、保護が必要とされる種《サイテスⅡ》に掲載されました。それからは稀少種の一途を辿っています。それまではホームセンターに売られていたりしていたんですが……本来はⅠ類に入るべきだと、カメ博士の安川雄一郎氏はおっしゃっていましたよ」
丸「ほほう、ホームセンターで」
<写真:スッポンモドキ>
吉田さん「しかし、甲長が80センチ程度にまで育ってしまうので、日本のスタンダードな水槽30センチ~60センチくらいではまず飼育できなくなる。最低120×奥行45cmくらいの水槽が必要になるんですね。飼われてるけど、自由に動けずストレスになり、モドキたちは大きくならず死んでいってしまうわけです」
丸「一般家庭では無理ですね」
スッポンモドキは最高値で300万円
吉田さん「今、入ってきているスッポンもどきはおそらく、稀少種を密輸する闇ブローカーが現地で増やしてから、密輸しています。カメというのは、大きなタンク水槽で
複数輸入されるので意外に別種のカメと混ぜてしまえば、税関の目をごまかせるようです」
丸「今現在スッポンモドキの値段は?」
吉田さん「スッポンモドキはどんどん値が釣りあがってきて、1999年から『けいおん』がブレイクする2007年くらいまでは、3,000円から5,000円。ブレイク後は、1万円から3万円位に跳ね上がりました。今ではノーマルで15万円から20万円くらいです。《白化》とか《プラチナ》と呼ばれる真っ白なアルビノリューシスティック(以下省略して、リューシ)というスッポンモドキは200万円。黄みがかったアルビノが300万円程度です」
丸「繁殖についてお聞きしたいんですが……」
吉田さん「これだけ遺伝子がいろいろ混ざってしまったら『メンデルの法則(親子が似るという遺伝現象を説明できる遺伝の法則)』もあてにならないんですが、基本的に白い子と普通の子を掛け合わせると、普通の子が出てくるんですよ。それでもヘテロ(アルビノ遺伝子を持っている子供)なので、《戻し(子供と白い親をまた掛け合わせる)》というテクニックを使うと、アルビノが4分の2とか4分の1になるんですね。そのときにパラドックスといって、まったく違うカメが生まれてきたりするんです。カメは気の長い話で卵を産むまでに7年。次の世代が育つまでにまた数年、合計20年弱かかる繁殖になるんですよ。だからアルビノは稀少なんです」
丸「かなり長丁場ですね。そんなことを昔からされてたんですね」
『メンデルの法則』通りにはいかない繁殖
吉田さん「僕は《アルティメットパラドックス》といって、まったくミドリガメには見えないリューシのものとアルビノを掛け合わせて、《スノー》という目が真っ赤な種類のものまで孵化させました。アルビノの中でもプラスマイナスという因子があって、プラス因子は目が黄みがかっていてその奥が赤い、マイナス因子は目が赤くて白いんです。それで『メンデルの法則』通りいかないのが面白い」
丸「遺伝だからこうなるとはいえないわけなんですね」
吉田さん「ヘテロ同士を掛け合わせると、4分の1、4分の2の確率でアルビノが生まれてくる、ヘテロとアルビノを掛け合わせると、4分の2、4分の3の確率でアルビノが生まれてくるとか、マニュアルなんてないから非常に見極めが難しいんです。オリンピックで中国が好景気になったときには、中国人が日本のアルビノや稀少種をどんどん買い漁って、国内の稀少種の価値がまた上がりました」
丸「ミドリガメの姿をしたヘテロが生まれた場合はどうするんですか?」
吉田さん「それが問題なんです。カメのブリーダーは、アルビノが生まれてこなかった場合のヘテロの処分の仕方がよくない。姿がミドリガメだからって、川に捨てたりする輩もいるんですよね。雑種だってすごい血統を持つヘテロなんだから、ちゃんと育ててあげて“武器”にするべきなんです。大きくしてから、またアルビノ種と掛け合わせればいいと思います」
丸「それって素人にできるんですか?」
吉田さん「根気よくやればできないこともないですね(笑)」
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(執筆者: 丸野裕行)
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