日本最大のドヤ街・西成で過ごした78日間… 人生は死ぬまでの暇つぶし?
日本最大のドヤ街・西成のことを知っている人は少なくないのではないだろうか。大阪旅行をした際にちょっと通りかかった、少し描写が刺激的な体験記のおまけで読んだなど、西成という土地柄だけは聞いたことがあるはずだ。
しかし実際に住んでみなければ、何もわかっていないのと一緒。今回は日本の魔窟とも言える場所に挑んだ國友公司氏の著書『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)から、西成の実態を覗いてみよう。
日本最大のドヤ街・大阪市西成区の「あいりん地区」は、日本のあちらこちらから「訳アリな人間」が集まってくる場所。その顔ぶれには前科者や元ヤクザ、現役の指名手配犯が混ざっていることもあるらしい。西成について知るには、そこに住んでいる人を知るのが一番。そこで今回は國友氏が出会った「訳アリな人間」をみていこう。
まずは西成を訪れた初期に知り合った沖縄出身の金城さん。語尾に「ごめんなさいよ」をつけるのが口癖のおじいさんだが、その手に小指はない。80歳近い金城さんはしっかりとけじめをつけ、200万円を受け取ってヤクザを引退したそうだ。
「兄ちゃんもこれだけは分かっとき。足を洗えば綺麗に生きられるんや。自分の力で成長せなあかんで。誰も教えてくれないんやで。ごめんなさいよ」(同書より)
ありふれたと言えばありふれた言葉だ。しかしヤクザとしての渡世を全うし、小指のない老人の言葉だと思うとなかなか重い。
また、中にはこんな嘘をつく人も。西成の土木作業員だが、自身を東京の証券会社で働く正社員だと語る30代後半のシバさん。彼が言うには、「有給休暇中で、経験として西成に来ている」そうだ。しかもその有給休暇はなんと40日間。ホワイトすぎるにも程がある。
しかもシバさんは、國友氏と同じ筑波大学の出身だと言っていたらしい。同書には、以下のようなやりとりが記されている。
「なんだ~、俺の後輩か。もっと早く言ってくれれば色々話できたのにね」
「シバさん、学部はどこだったんですか?」
「俺? 俺はあれだよ、教育学部だよ」
「うちの大学にそんな学科ないですよ。学部じゃなくて学群と呼びませんでしたか?」
「萌(國友氏のこと)の時はそうだったんだね、俺の時はあったさ」
また、西成では少なくなったとはいえ薬物が出回っているそうだ。元シャブの売人である青山さんこと「かっちゃん」によると、シャブの売人は男性より普通そうなおばあさんが多いとのこと。売買の仕方は、町中を「立ちんぼ」という売人が徘徊しており、その人から告げられた場所で他の人と待ち合わせして、そこで受け取ることが多いという。
國友氏が「手を出してしまいそう」とポツポツと言い出すと、かっちゃんは「シャブやったら終わってまうで」ときっぱりと言い放った。
最後に、同書を読んで一番気になった人物、それは國友氏が西成で働いた際に出会った「坂本さん」だ。かなり顔が広く、職場のクライアントにも重宝される人物だが、見た目が限りなく怪しい。真っ黒なスモークのかかったメガネを常にかけ、たまに除く眼球はぞっとするほどギョロリとしている。家の金を使い込んで2年前に西成に来たという坂本さんだが、一般人は知るはずもない情報や昔の西成に異様に詳しいそうだ。
実はこの坂本さん、同書のラスト付近で20年前から西成でさまざまな悪行を繰り返してきた「西成伝説の男」だと判明する。4年でヤクザを抜けて自称「西成愚連隊」となり、ヤクザ事務所など各地を強盗して回った過去もあるとのこと。
同書の文庫版あとがきは、そんな坂本さんと國友氏による以下の会話で締められている。
「人は何のために生きるのか?」
しかし、坂本さんに言わせてみれば、「西成でそんなこと考えてる奴、ひとりもおらん」という。そして、ポツリとこう言った。
「みんな死ぬまでの暇つぶししとるだけや」
暴論かもしれないが、確かにそう思えば少し肩の荷が下りる気がする。けっきょく私たちも西成の人々と同じように、死ぬまでの暇つぶしをしているだけ。ならばせめて、なるべく楽しく暇つぶしをしていたいものだ。
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