<“Urban”ワインを巡る⑥> 東京・御徒町/葡蔵人~BookRoad~「ジャケ買いしたいワイン」

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<“Urban”ワインを巡る⑥> 東京・御徒町/葡蔵人~BookRoad~「ジャケ買いしたいワイン」

ワインで農家と造り手とお客様をつなげたい


カフェやベーカリーのような、ぬくもりを感じるウッディーな外観。

東京都内で4番目に誕生したワイナリー『葡蔵人~BookRoad~』があるのは、台東区の御徒町。下町の風情が残る気取りのない庶民的な街です。御徒町から蔵前にかけては、地名の“カチ”と“クラ”から「カチクラ」と呼ばれ、ものづくりが盛んなことで知られてきました。この静かな街でワイナリーが産声を上げたのは、2017年のことです。


お話を伺ったのは、醸造責任者の須合美智子(すごう・みちこ)さん。

ワイナリーを運営しているのは、この地で複数の飲食店を手掛けている有限会社K’sプロジェクト。ワインメーカー(醸造家)の須合さんも元々は、お店のホールスタッフとして働いていたそう。
「料理やお酒をサービスしてきた会社ですが、いつしか自分たちの手で造ったお酒をサービスしたいという構想を持っていて、それをワイナリーという形で実現させました」。
ちなみに『葡蔵人~BookRoad~』とはユニークな名前ですが、どんな意味が込められているのでしょうか?
「“葡”はブドウで生産農家、“蔵”は蔵元すなわちワイナリー、“人”は消費者のこと。“蔵”である私たちがワインを介して、ブドウと人をつなぎたいという想いを表しているんです」。

 


地下鉄の仲御徒町駅から歩いて3分ほど。小さな工場や商店が並ぶ通りの一角にあります。

“食事と一緒に楽しめるワイン”を目指して修業


「修業先で初めて仕込んだのがアジロン。最初に自分のワインを造るときは、この品種と決めていました」。

さて、居酒屋などで接客してきた須合さんが、どうしてワインを造るようになったのか、たいへん興味深いところです。
「お客様が楽しまれている姿を見るのが好きなので、ホールで働くのは性に合っていたと思います。そんなとき、会社がワインを造ることを決め、希望者を募るということになって…。もし自分の醸したワインをお客様にサービスできたら喜んでくれるはずと考えたら、思わず手を挙げていたんですよ」。
「ワインに造詣が深かったのですか?」と尋ねると、
「好きで飲んではいましたが、品種とか醸造とかの知識はまったくありませんでした。ワイナリー巡りとかもしたことはありません。『ママって、そんなにワインのこと知っていたっけ?』と子どもたちも半ば呆れていました。でもワイン造りに挑戦すると、とてもワクワクできそうと思ったんです」とにっこり。
これまでワイン造りに携わってきた人々を数多く取材してきましたが、正直初めてのパターン。ただご自身が“ワインを知らないことを知っている”ということで、未知なるワイン造りに気負わず自然体で挑戦することができたのでしょう。
ワイナリーが開業する前年から約1年、山梨県の勝沼町でワイン造りを学んだ須合さん。修業先は『マルサン葡萄酒』さんでした。
「私たちの目標は年に2万本と決して多くはありません。この規模での醸造を親身になって教えていただけそうと考えて『マルサン葡萄酒』さんへ。つてなどは一切なく『今度ワインを造ることになったので、教えてください』といきなり押しかけたんですよ(苦笑)」。
最初は先方もびっくりされて、すぐには許しを得られなかったそう。でもワイン事業の起ち上げ話はもう確定していると聞いて、
「うちで面倒を見ないと困るんだろうと考えてくださったのだと思います。引き受けてくださった若尾社長にはどんなに感謝してもしきれません」


店頭には、いかにも女性醸造家らしいチャーミングな看板も。

ワンシーズン山梨へ通ってワイン造りのイロハを学んだ須合さん。
「思った以上に肉体労働で、毎日がヘトヘトでした。とくにブドウを運ぶコンテナを洗うのがたいへんで。でも師匠に『ピカピカのきれいなコンテナを持って行ったら、農家さんも健やかに育てたブドウを託さなければと励みになる』と教えられ、確かにと納得。気持ちを込めて入念に洗いましたね」。
山梨や信州、茨城の委託農家さんが栽培して届けてくれたブドウに敬意を表し、
「できる限りブドウの糖度に忠実なワイン造りを行っています。今年で3回目の仕込みになりましたが、毎回濾過では悩みますね。フィルターの使い方や、濾過前の浸漬時間をどれだけとるかなど、まだまだ試行錯誤が続いています」。
「目指すワインのスタイルは?」という質問には、間髪入れずに「食事と一緒に楽しめるワインです」の答えが。
「私たちは飲食店を営んできましたから、やはり料理に寄り添えるワインであることが大切なんです」。
そのコンセプトはワインのエチケット(ラベル)にも。詳しくはのちほどお伝えします。

ビルで醸すのは都市型ワイナリーならでは


スタッフが工場だったビルをリノベーション。正面はブドウを搬入しやすいように、大きく開かれています。

庶民的な街といっても、地価の高い東京都心。ワイナリーがビルディングなのは自然なことです。1階では、運び入れたブドウを除梗、粉砕、そして圧搾して醸造をして発酵させます。その後2階に移して濾過した後に瓶詰めの作業を行うそうです。ちなみに3階はテイスティングルームやプライベートダイニングなど多目的に利用するスペースになっています。


1階でブドウを処理、発酵までの作業をします。


2階にはタンクがずらり。本数に限りがあるので品種ごとに時期をずらしながら仕込むそう。今年は約1万8000本出荷の予定だとか。

案内していただきながら須合さんが、
「フロアが分かれているゆえの工夫があるんですよ」と指さししたのが、1階で仕込んだワインを2階にポンプで送り上げるための“穴”。
「土地が狭い都心のワイナリーゆえの工夫ですね(笑)」。

 


上が1階で下が2階。タンクをホースでつないでワインを上階に移動させます。

2階の棚に20リットルの小さなステンレスタンクが並んでいるのを発見しました。
「お客様の好みで造ることができる“オリジナルワイン”を商品化したんですよ。赤白合わせて12品種の中から複数選んでいただいてブレンド。このタンクで熟成させてボトリングしてお渡しします」。
24本相当で8万8000円。別途でラベルの相談にも乗ってくれるとか。人生の節目の記念日などに活用できそうです。

 


オンリーワンのワインを仕込んでみては。

アーティスティックなラベルが意図するのは?


取材日は1階でワインを販売。カラフルなボトルが並んでいました。

ここからはワインの試飲。『葡蔵人~BookRoad~』のワインは、すべて単一品種で醸されているのが特徴です。そして何といっても目をひくのがそのラベル。独特のタッチで描かれていますが、テーマはペアリングや味わい。
「出来上がったワインをスタッフでテイスティングし、合いそうな料理や味わいの特徴をディスカッションします。その内容をデザイナーに伝えるのですが、毎回どんな絵柄であがってくるのか私たちも楽しみなんですよ」。
では選んでいただいた赤系3本、白系3本を見ていきましょう。

『アジロン』×ハンバーガー


■アルコール度数/11度
2970円。

先述しましたが、須合さんが最初に仕込むならと決めていたアジロンです。修業先の勝沼町で育てられている黒ブドウ品種で、こちらももちろん勝沼産。
「いちごジャムのようなチャーミングな香りがふんだんに感じられますが、飲んでみるとドライなんですよ」。
確かに甘口と見せかけてしっかり辛口。このギャップがたまりません。ほどよい酸味と甘い香りが調和したワインには肉汁たっぷりのハンバーガーがおすすめだそうです。
名前とイラストの間につづられている「1503-20」という数字も気になります。
「アタマの“15”は会社が創業15年目、次の“03”はワイナリーが同じく3年目。最後の“20”は20番目にリリースされたことを意味しています」。
なるほど。まさにワインに歴史ありですね。

『富士の夢』×ざくろ


■アルコール度数/11度
3080円。

聞き慣れない名称ですが、山ブドウの行者の水とメルローを交配した日本固有の黒ブドウ品種のことです。漆黒のブドウを素手で作業してしまうと、
「手が真っ黒に染まってなかなか色が抜けないんですよ」と取り扱い注意!?のブドウだとか。
「山梨県で開発されたのですが、私たちは茨城県の委託農家のブドウを使用しています。土っぽさを感じる素朴で滋味あふれた味わいが特徴ですね」。
濃厚な赤紫色と甘酸っぱさが、“ざくろ”で表現されていました。

『ベリーAスパークリング』×チョコマカロン


■アルコール度数/11.5度
2860円。

長野県安曇野市のマスカットベリーA。でもスティルワインでなく、スパークリング。珍しい“赤”の泡です。
「最初はスティルのつもりだったんですが、ブドウを食べてみたら閃いてスパークリングにしてみようと。泡立ちがきめ細かく仕上がった辛口で、チョコレートとの相性が抜群です。デザイナーさんがちょっとひねって、チョコレート味のマカロンを描いてくれました」。
こちらはシャンパーニュ方式の瓶内二次発酵で造られていて、滓に由来する旨味も感じられます。吹きこぼれを防ぐために、よく冷やしてから開栓しましょう!

『ナイアガラ』×フルーツタルト


■アルコール度数/9度
2420円。

ここからは白ブドウ品種。やはり安曇野産のナイアガラです。
華やかでみずみずしいマスカットのような芳醇な香りが、グラスからこぼれんばかりに広がっています。飲んでみると酸のバランスが取れていて、思ったよりすっきりとした辛口という感想。
「花やフルーツのチャーミングな香りがたくさんあるので、フルーツタルトで。こうしたデザートも合いますが、辛口なので色とりどりの野菜を使ったサラダとの組み合わせも絶妙ですよ」。

『醸し甲州』×カリフォルニアロール


■アルコール度数/11.5度
2970円。

続いては甲州。王道の勝沼産です。
「甲州はスレンダーなイメージがあるので、骨格を持たせてみたらどうなるだろう? とチャレンジしてみました。赤ワインと同じスタイルで造るので、タンニンがジュースに移りオレンジワインになっています」。
バニラのような香りと優しいタンニンが特徴で、丸味を帯びたふくよかな味わい。ラベルに描かれているのはカリフォルニアロールでした。
「アボカドの濃厚さとサーモンの脂を包み込むようなマリアージュですね」。

『シードル』×りんご


■アルコール度数/7.5度
1870円。

最後はシードル。ラベルはそのものずばり、“りんご”です。
「初年度からシードルは造っています。最初はフジを使って、とてもドライなタイプができました。2年目からはシナノゴールドを採用。やはりドライなのですが旨味もあって食前でも食中でも楽しんでいただける味わいになっていると思います。私は風呂上りにグビグビ飲むのが好きです(笑)」。
確かにコクのあるシードル。もし料理に合わせるなら?
「鶏の唐揚げがおすすめです。気取らずに飲んでいただきたいですね」。


「ぜひワイナリーに遊びに来てください」

今回は、日本固有の原材料でしたが、ソーヴィニヨン・ブランやシャルドネといった世界で生産されているブドウのアイテムもあります。さて「ワクワクしたい」とこの道に飛び込んだ須合さんですが。現在の心境はいかがでしょうか?
「洗い物に力仕事ばかり…。当初の試飲を重ね続けるイメージと現実はかなり違ったんですが、出来上がったワインを含んだら、辛いことは忘れ“ワクワク”しちゃってますね」。
最高の笑顔をありがとうございました。
※価格などは取材時のもの(税込み)
連載6軒目のアーバンワイナリーのレポートはいかがでしたか?アクセスが便利なので、須合さんと直接お話をして、気になるブドウのワインや気に入ったラベルのワインをゲットしましょう! プレゼントにするならラベルの料理なども一緒に持参すると、喜ばれること間違いなしです。

葡蔵人~BookRoad~
東京都台東区台東3-40-2
TEL/03-5846-8660
営業時間/12:00~17:00(日・火・木)、12:00~18:00(土)
定休日/月・水・金
アクセス/ JR御徒町駅より徒歩7分、東京メトロ日比谷線仲御徒町駅より徒歩3分
※不在の場合もあるので、訪問する際は電話で事前確認を。
※ワイナリー見学、試飲などの情報は以下のサイトか電話で確認を。
葡蔵人~BookRoad~の詳細はこちら

<“Urban”ワインを巡る①>はこちら
<“Urban”ワインを巡る②>はこちら
<“Urban”ワインを巡る③>はこちら
<“Urban”ワインを巡る④>はこちら
<“Urban”ワインを巡る⑤>はこちら


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