保守系誌”左翼ライター”と激怒され掲載拒否 第15回京都朝鮮第一初級学校襲撃事件裁判傍聴記

保守系誌”左翼ライター”と激怒され掲載拒否 第15回京都朝鮮第一初級学校襲撃事件裁判傍聴記

第15回京都朝鮮第一初級学校襲撃事件裁判が11月14日、京都地方裁判所の101号法廷で行われた。

この裁判は、2009年12月に発生した事件の民事裁判で、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」の会員らは京都朝鮮第一初級学校に訪れ、「スパイの子ども」「朝鮮学校を日本からたたきだせ!」などと叫ぶなど、差別的な罵声による街宣行為を行ったことに対するもの。

私は、この裁判の傍聴にしばらく通っている。ライターと云う仕事柄、時間は比較的自由に作れるし、なによりも関西で起った事件でもあるから、しっかりとこの目で見ておきたかった。

そんな中、ある保守系の雑誌から傍聴記をかかないかと依頼を受けた。たまたま差別についての連載もガジェット通信でスタートした直後だったし、在特会を支持する層とも重なる読者がいる誌面で、この裁判について書けることは、とても大切だと思った。

しかし、原稿を書き上げ、入稿した直後に、掲載が見送りとなった。理由はその出版社のトップがチャンネル桜に私が出演した回を見ており、「左翼ライターに原稿料は払えない」と激怒したことから。「左翼」のつもりはないし、右でも左でも、片方だけの翼では飛べないから嫌だなとは思っている。

話は戻って、11月14日は在特会会長の自称桜井誠こと高田誠氏と西村斉氏の証人尋問だった。前回の第14回口頭弁論は9月26日に行われ、在特会副会長である八木康洋氏と西村修平氏が出廷した。今回も被告側に八木氏の姿が見えた。

まず、高田氏が宣誓を行った。事前には「そこに書かれているとおりです」と曖昧にするのではないかと思われた住所を、アパート名と部屋番号まで読み上げられた。主尋問では、部屋の広さ、家賃など、在特会の要件についての質問が次々に飛ぶ。

高田氏は在特会を結成した理由について、「在日年金訴訟をテレビで知った。年金を1円も払っていないのに年金を寄越せと訴える在日に、普通の日本人は怒って当然」と答えた。

高田氏はその後、「(自分たちを)ゴロツキ扱いしている」「差別とわめきたてる」と述べ、まるで自分たちこそが被害者であると云うような発言を繰り返した。その一方で、「後悔する日が来る」「身を持って分からせる」などと挑発的な言葉も続いた。

さらに、尋問が1時間を過ぎたあたりで、「虚弱体質なので早く終わらせて欲しい、1時間の約束だったはず」と述べ、傍聴席の失笑をかった。

続いて西村氏の証人尋問に移った。事件の発端は地域住民のメールからと話しだしたが、メールを出した人物が本当に地域住民だったのかの確認もしないまま、現地調査と称して現場に訪れた。

その日、市役所に電話をして不法占拠であるかの確認をしようと試みたが、担当者は不在だったという。同日に確認もせぬまま、街宣行為を行うための準備へと進んでいたことを明らかにされた。

弁護団は、細かく質問を積み重ねる。それによって、行動の矛盾を突くためだ。自身が動画の中で大げさに発言したり、嘘をついていたりしたことを次々と挙げられると、西村氏は「弁護団は(この裁判を)真面目にやっていない、ちゃんとやってくださいよ」と云いだした。

同様の発言を繰り返した途端、裁判長の顔色が変わり、「裁判所に対して(真面目にやれ)いっているんですか?」と一喝。「弁護団はちゃんとしている」とたたみかけるように話した。それを受けて口ごもる西村氏の姿は、まるで駄々をこねる子どものようだった。高田氏は反抗期の少年に見えた。2人とも40代である。
また、西村氏へは在日無年金問題についての質問も飛んだ。弁護団から「お金を払わずに年金を寄越せと云うのが無年金問題なのか。お金を払って入ろうとしたら断られたというのが無年金訴訟だ」として、そのことを分かっているのかと指摘されたが、西村氏も高田氏と同様、デマを鵜呑みにしているようだった。

裁判後の支援者集会で弁護団から、今回の裁判での2人の言動について「フェアな場所では空虚に映る。小さな庭でしか成立しないのではないか」という発言がこぼれた。

本当なら成立しないはずの空虚なものと、「小さな庭」という言葉が心に引っかかっている。ネットの中にあった「小さな庭」、それはすなわち在特会という団体だ。そこで育てたものは、いったいなんだったんだろうか。

この裁判の傍聴や支援などもそうだが、友人や知人から、朝鮮学校についていろんな意見を貰う。拉致問題、総連、北朝鮮、それらがあるから朝鮮学校が攻撃されても仕方ないとわざわざ言う人もいる。

私は、目の前で泣いている人がいたら嫌だ、ただそれだけの気持ちしかない。そして同世代で子どもを持つ女性たちが、裁判の傍聴に欠かさず来ることの意味を問いかける。同世代の普通の女性で小学生の母親が、裁判所に来ることが日常になることは、おかしなことではないか。

その人たちは裁判のたびに、悔しさを噛み締めて泣いている。そんな姿を見るのは辛く、癒すためにはどうすればいいのかといつも考える。自分たちにできることは、差別者の愚かな行為が再発しないよう差別の芽を摘み取り、許さないことではないだろうか。

最後に、忘れてはいけないのは、京都朝鮮第一初級学校が公園を利用していたのは、グラウンドがなかったからだ。なぜ、なかったのか。日本国内のある学校だけ、きちんとした教育設備がないこと、それは本来なら恥ずべきことではないのだろうか。見て見ぬふりをしてきた時間を、これ以上増やしてはいけないと思う。

私にできることは、ただ傍聴すること。傍聴することは、排外主義を許さないことであり、この国で、同じ社会で暮らす子どもたちを守ることにつながると思う。

次回、第16回は1月16日、同じく京都地方裁判所にて行われる。

(李信恵)

※この記事はガジェ通ウェブライターの「李信恵」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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