「現場に行かないと何が起こっているのかわからないのが戦争」7年間アフリカを撮り続けた写真家・亀山亮氏にきく(前編)
「兵士たちは夫を生きたまま切り裂き、切り取った肉を私に料理しろと強要しました。目の前で家族全員をフツ系民兵に殺され、私は拷問されました」
――アディラ・ブミディア(36歳)
コンゴ民主共和国南キヴ州2008年
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2003年から2010年までの7年間、アフリカの危険地帯をカメラとともに巡り、自らの左目を失明しながらも撮影を続けた写真家・亀山亮さん。
彼の7年間の集大成が、写真集「AFRICA WAR JOURNAL」(リトルモア刊)にまとめられ、9月25日に発売された。
この写真集の中からさらに厳選した作品が、オープンしたばかりのドキュメンタリー写真ギャラリー「Reminders Photography Stronghold」で、現在展示が行われている(11/30まで)。
Reminders Project & Reminders Photograpy Stronghold [リンク]
日本の商業写真界の中では最も成功しづらいテーマのひとつ、アフリカを撮り続ける亀山さんにお話を伺った。
(ききて:中島麻美)
7年間の取材を120点の作品に凝縮
今回の写真集「AFRICA WAR JOURNAL」は、2003年から2010年まで、リベリア、コンゴ民主共和国、シエラレオネ、スーダン、アンゴラなどアフリカ各国を回って撮影した作品の中から120点をセレクトして掲載しました。
制作費は自費で、編集やデザインも自分が信頼する人にお願いして完成した手作りの写真集です。
発売前にリトルモアが出版コードを貸してくれ、書店にも本をおいてもらえるようになったのですが、自分あてに直接読者の方から注文が来ることもあります。
9月25日の発売以来、八丈島の自宅からクロネコヤマトで自分の本を発送しまくったので、送料をできるだけ安くあげられるように、発送技術も工夫しました。
写真集がようやく収まる超ギリギリサイズの梱包を自作したりしました。
自分のお金で作る写真集なので、後悔しないようにと、どうせ作るなら重い写真集にしようと思ったのですが、編集を担当してくれた浅原裕久さんのアドヴァイスで少し軽めの紙を使ったのが今となっては良かったと思っています。重いと送料に響きますから。
(右側が亀山氏、左側が浅原氏)
今回の展覧会は、Reminders Photography Stronghold(東京都墨田区東向島 http://reminders-project.org [リンク])のこけら落としで、僕自身も、個展は5,6年ぶりのことです。
オーナーの後藤勝さんとは、ずっと以前から親しくしていて、一緒に写真雑誌を作ったこともあります。後藤さんはずっとタイに住んでいたんですが、東京でこのギャラリーを始めるにあたって、一回目の展覧会を開かせてもらうことになりました。
普段、撮影に持っていくカメラは3台ぐらいです。
取材中、危ない目に遭ってカメラをとられたり、自分の体以外のすべてを車ごととられたりなんてこともあるので、撮ったものすべてを無駄にしてしまうこともあります。
それでも、アフリカを撮り続けた7年間で現像したフィルムは背丈ぐらいの棚一本分ほどあります。
2005年ごろからは普段撮影していた35ミリのフォーマットに加え、6×6のスクエアフォーマットで撮影するようになりました。
画角を変えたきっかけは、35ミリのファインダーを覗いてもなんだかデジャヴ感があって、わくわくしなくなったから。
失明
2000年のパレスチナで左目を失明しました。
イスラエルが占領しているパレスチナ自治区ラマラの前線で撮影中のことでした。第二次住民蜂起が起きてすぐに、現地に行きました。
イスラエル兵に抵抗するパレスチナの子供たちと、ガス弾の軌跡を同じフレームに入れたくなり立ち上がって撮影していたら、イスラエル兵が撃ち込んだゴム弾を被弾しました。一瞬気を失って次の瞬間は痛みにのたうちまわっていました。
その日はとてもよく晴れていて、催涙弾の白い煙が青い空を切るように飛んでいった光景をすごく覚えています。
失明するまでは左目が利き目で、ファインダーも左目で覗いていたんですが、まぶたの縫合手術を終えて、鏡で自分の腫れ上がった顔を見たら、もう左目では二度とものを見ることはないだろうと悟りました。
右目しか見えない状態に慣れるまでは、道をまっすぐ歩けなかったり、遠近感をとらえることに苦労して、コンビニに行ってもお釣りをもらうときにうまく受け取れなかったりしました。
利き目が左から右になり、視野角も狭くなりましたが、それによって自分の写真がどう変わったかっていうのは、自分ではあまりわからないですね。
それよりも紛争地で負傷して、保険金が下りたことが大きかったかもしれない。
それまでは、肉体労働や新薬の治験のアルバイトをして、お金を貯めてようやく年に一回取材に行くぐらいだったけど、保険金で好きなときに行けるようになったので、写真を撮る訓練になったと思います。
写真って、肉体の訓練というか肉体労働みたいなところがあって、コンスタントに撮らないと感覚が鈍ってしまう。
撮ること自体に慣れないと撮れないから。
ポジティブに考えれば、失明はしたけど保険金のおかげで、今までよりももっとたくさん現地に入って撮ることができた。
場数を踏むことができたので、うまくなったと思う。
撮影に対しても、ものすごく貪欲になったと思います。
自分は撮るしかないという気持ちがより強くなったと思います。
アフリカを目指したきっかけ
沢田教一の撮ったベトナムとか、ユージン・スミスの撮った水俣とか、中学ぐらいの時によく見ていました。
自分も、戦場や闘争の現場を撮影する人間になるんだ、とその頃からぼんやり思っていました。
戦争にはずっと興味がありました。現場に行かないと何が起こっているのかわからないのが戦争だと思うから。
戦争の現場で自分がどういう風に反応できるのかも、自分で試してみたいという気持ちもありました。
高校時代にはじめてカメラを手にして、三里塚闘争を続ける農家の方や新左翼の人たちに密着し、いつしか撮影を許されるようになって、彼らを撮影してきたんですが、そこで新左翼の嫌なところも見ました。
全てに白黒をつけてしまうところとか、セクトの考え方を絶対視してほとんど宗教と変わらないようなことになっているなと思ったり。
それからは日本よりも外国、しかも写真の需要が日本にはあるのかないのかわからないアフリカにすごく興味を持つようになった。
はじめて出かけたアフリカはコンゴでした。
そこではマラリアに罹ったり、何度も逮捕されたり、カメラもお金も奪われたりで、ボロボロになって帰ってきたけど、日本でしばらく呆然としているうちに、自分がやりたいのはアフリカの戦争を撮ることだということが逆に強く意識できるようになった。
アフリカでは、被害者と加害者を同列に撮りたかった。
たとえばコンゴでは内戦の原因は鉱山の権利の取り合いなのですが、白黒はっきり付けられるような完全な加害者/被害者ではなく、どこかで立場が逆転してみたりと、敵味方の存在が地続きにあるのが、僕が見たアフリカのイメージです。
コンゴの精神病院でも撮影しました。アフリカには精神病という概念があまりないのですが。精神病院には、戦争の縮図を凝縮したような背景を持った人たちに会えます。
戦地になってしまった自分のふるさとで、暴行を受け、精神が不安定になってしまった女性が入院していたり。
民族争いに巻き込まれ、誰にも知られることもない彼女の境遇を知り、彼女はほんとうの意味での戦争の被害者だと思った。
(後編に続きます)
【お知らせ】
11月17日、 Reminders Photograpy Strongholdで、「ポートレイト」というテーマで、2011年木村伊兵衛賞を受賞した写真家田附勝さんのトークイベントが行われます。
詳細はこちらよりご覧ください。
亀山 亮 (かめやま りょう) 写真家
1976年千葉県生まれ。1996年よりサパティスタ民族解放軍(先住民の権利獲得運動)など中南米の紛争地の撮影を始める。
現在はアフリカの紛争地を集中的に撮影。
パレスチナの写真で03年さがみはら写真新人賞、コニカフォトプレミオ特別賞。
著書に『Palestine:Intifada』『Re:WAR』『Documentary写真』『アフリカ 忘れ去られた戦争』などがある。
ききて:
中島麻美(なかしまあさみ) 編集者・記者・作家
1977年生まれ埼玉県育ち。出版社の編集者であり記者。2011年4月10日、福島第一原発正門前に立ってから福島県の取材を続けており、自分自身が見てきた福島県について執筆中。写真とあわせて出版予定。ガジェット通信では「レシピ+お話」という形式の連載やインタビュー記事を執筆。2011年、日本ねじ工業協会「ねじエッセイ・小論文コンテスト」で、B部門最優秀賞を受賞。NHK「視点・論点」に「ねじ」というテーマで出演する。http://goo.gl/K8m5Y
著書に「ガムテープでつくるバッグの本」があり「ガムテバッグの人」としてもメディアに登場している。
Twitter https://twitter.com/aknmssm
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お米料理が好きな中島麻美です。 チャーハン、まぜごはん、どんぶり、たきこみごはんにお世話になっています。 酒のつまみは唐揚げが好きです。定食はとんかつが好きです。 出版社でOLしています。仕事柄会食が多いです。 2口ガスコンロ、2畳足らずの狭いキッチンからお届けします(・∀・)
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