待望の映像化!こだわりの繊細さに「風の動きが見える」劇場アニメ『海辺のエトランゼ』村田太志・松岡禎丞インタビュー 2人が心洗われたことは?

BL(ボーイズラブ)に特化したアニメレーベル「BLUE LYNX」より公開された、沖縄の離島を舞台に小説家の卵と少年の初々しい恋愛を描く、紀伊カンナ先生原作の劇場アニメ『海辺のエトランゼ』(2020年9月11日より全国公開中)のメインキャストを務める、村田太志さんと松岡禎丞さんのインタビューをお届け。

小説家の卵の橋本駿と、海辺に物憂げに佇む少年・知花実央の初々しくも、もどかしい関係を描き、「心が、洗われるようなボーイズラブ。」と人気を博している『海辺のエトランゼ』。劇場アニメ化にあたって、作者・紀伊カンナ先生本人が監修、キャラクターデザインを担当しました。

制作は2Dおよび3Dアニメーションを主軸とした映像制作を行っている老舗スタジオのスタジオ雲雀。そして監督は、『ダンガンロンパ The Animation』の演出を担当し、『宝石の国』1 巻発売記念フルアニメーションPVなどで瑞々しい演出力を見せた大橋明代さんが務めています。

ふたりのドラマと美しい沖縄の自然を、光、色彩、音、すべてにこだわり丹念に描いた本作について、ドラマCDから引き続き演じている、駿役の村田太志さんと実央役の松岡禎丞さんにお話を伺いました。

食事のシーンも大事なファクター

――まず、劇場版の脚本を読んだ時の感想を教えてください。

村田:だいぶシーンを厳選されたなというか、どこをどう表現すればエトランゼの良さが伝わるかをスタッフさんが選りすぐった痕跡みたいなものが垣間見えて、身震いとともに責任を持ってやらなければいけないなと思いました(笑)。

松岡:ここから始まって、ここが到達点で、ここで終わるのか、という流れがすごく上手く落とし込まれている印象がありました。だからこそ、とても繊細なものを求められることになるだろうな、という少しの怖さと同時に、今まで積み上げてきたものを全部出しきれる現場でもあるのかなと思いました。

――特報からとてもキレイな映像美に驚かされました。ビジュアル面での見どころはどこでしょうか?

松岡:冒頭でひとつ挙げるとしたら、夜の海の描写がなかなか怖いです(笑)。実央の想いも相まって。そして風のなびきから、風の動きが見えそうな感じがするんです。

村田:とても印象的ですよね。ベンチがポツンとあって、実央がすくっと立って、奥には黒い海があって。そこからのタイトル。あとは、沖縄の本島の描写もあって、シーンは割とシリアスだと思うんですけど、実在する建物を再現されているので、そこも見どころのひとつだと思います。実際に行ってみようかな、と思うくらいの再現度だと思います。

――聖地巡礼にいいですね。また、ごはんがとても美味しそうだなと思いました。意外と飯テロではないですけど、ごはんシーンも魅力的な見どころなのではないかな、と。

村田:そうですね。食事のシーンにもスポットが当たります。実央の幼少期のシーンでもすごく美味しそうに食べていたりと、大事なファクターなんじゃないかなと思います。原作からすでに紀伊先生が美味しそうに描いてくださっているので、ビジュアル面の見どころとして、猫といい勝負なのではないかと勝手に思っています(笑)。

アフレコは針の穴に糸を通すくらいの繊細さだった

――ドラマCDは、続編の『春風のエトランゼ』まで収録されていますが、今回また改めて2人の物語を最初から演じられて、ドラマCDで演じたときとの変化はありますか?

村田:原作の厳選したシーンやセリフを選んであるので、途中のモノローグだったりがなかったりするのと、画もできあがっているので、できるだけ作り上げられた世界観に寄り添うような形でやらせていただきました。ドラマCDの方は画がないので、聞き手にわかりやすく届きやすいように、そのとき原作を見て思ったことを表現しようと思ったんです。でも今回は画があるので、ドラマCDの音声よりはナチュラルに、そして若干駿はちょっとツンツンしがちだったり、飄々とした部分は薄まった印象になっているかもしれません。それは、意識して一から作り直しました。

松岡:ドラマCDだと自分たちの間尺でお芝居できるというのもあるんですけど、アニメーションの方だとカットごとに間尺が存在するので、そういった面でも、自然にやっていたところの自然の度合いを別のベクトルにしなくてはいけないので、これまで演じていたことをベースにしつつも、一からまた新しい作品に携わるような感覚がありました。作品全体の流れがとても優しい流れになっていくので、自分の中で、このシーンは感情を出してもいいのかな、やりたいなと思うところでも、2人の関係値や今回の画を考えると、すごく自然な流れとして見せなければいけない、というのもあり、とにかく1つ1つの感情を大事にやらせていただきました。

――監督からのディレクションで印象に残っていることは?

村田:駿はちょっとうだつが上がらなくてハッキリしなかったり女々しいところが多々ある、それでも憎めないキャラクターなんですけど、そういった部分で少し気の強い女性から「そういうところがダメなんじゃないの?」みたいなことを言われたときに、その反撃の強さの度合い的なところで、若干監督と僕のイメージが異なって。男女の違いという部分でも捉え方やイメージの差があったかもしれませんが、監督の明確なイメージに近づけるときに何度かリテイクを重ねたことが印象に残っています。あ、そういう考えもあるんだな、と。

――具体的にはどんなイメージだったのでしょうか?

村田:たぶんですけど、男からすると下手なプライドもあって、あまり反撃しすぎるとちょっと女々しくなっちゃうので抑えそうなところを、もうちょっと情けなさを出してという意味でイメージされていて。その辺りの想像が勉強になったなと思いました。

――松岡さんはいかがでしたか?

松岡:今回は繊細なものを常に求められました。よく知った音響監督さんでもあったのですが、「繊細さの加減」という今まで僕があまり受けたことがないディレクションでした。部分的に変えるのではなく、「じゃあ、何カット~何十カットまで、ちょっと長いんですがお付き合いしていただけないでしょうか」と言われ、「やりましょう!」という感じです(笑)。とても難しかったですよね?

村田:そうですね。それで結果的に松岡さんはテストが使われるという。得てしてそういうものですよね、一発目が良かったり(笑)。

松岡:ええ。繰り返して生まれるものもありますが、同じようなニュアンスでやろうとすると、今度は“やろうとしてしまう”ので、それはやっぱり違うんですよね、構えてしまうので。だからテストのときが一番自然に掛け合えていたシーンもあったんです。自分でもテストのときに「あっ、信じられないくらい自然に(セリフが)出た」と思った箇所があって。テストで出てしまったけど、本番はどうなるの?と思いまして(笑)。

――それだけ難しかったということですね。

松岡:難しかったですね。朝から晩までそんなことをずっとやっていました。

村田:すごく集中した時間が続きましたよね。ここまで試していただけるんだ、というくらい、針の穴に糸を通すくらいの繊細な作業をこの作品のためにスタッフの方も本気で向き合ってくださって、僕らもそれに応えようとやらせていただきました。

松岡:だから、一言で言ってしまうと、大変でしたね。

村田:ふふふ、うん(笑)。

松岡:大変でした。疲れました。

村田:それくらい、魂を込めました。

実央は“押してダメなら押してみろ”

――演じるキャラクターの魅力はどんなところでしょうか?

村田:これは駿の良いところでも悪いところでもあるんですけど、男としてハッキリしなかったり、女々しいところがあったり、女々しいがゆえにちょっと実央を小言で傷つけてしまったり。少し頼りない部分があるかもしれないんですけど、逆にそういうところが人間臭くて愛おしいというか。そこを補ってあげたいな、という気持ちにもさせてくれるキャラクターだと思います。基本的には悪いやつではないですし、実央と付き合っていく上で、お互いの気持ち、心を大事にしたいという思いはあれど、いかんせん余裕がなくて傷つけたり遠ざけてしまったりする。でも、男からしたら「あるな」と思える、一般的に男性が持っているであろう女々しい部分や、足りない部分もいいなと思わせてくれるキャラクターです。

松岡:実央は、ものすごく感情をストレートに出せる子で、それがすごく魅力的なんですよね。普通だったら躊躇することであったとしても、それが相手の嫌なことにあたらないという核心が自分の中で持てれば、ガンガン行けるので。見ていてすごく気持ちのいい子だなと思います。また駿との対比が性格の違いでもあるので、“押してダメなら押してみろ”というような。

村田:あはは、名言が出ましたね(笑)。

松岡:自分の感情を大事にしていて、躊躇なく駿に対して行ける。それに駿はなぜか引いたりして、でも挫けないところが良いんですけれど、何回も駿に傷つけられてかわいそうだなと感じるところもありました。

――気に入ったセリフや力を入れたセリフはありますか?

村田:観る人にとってはなんでもないセリフかもわからないですが、同居人の絵理という女の子と話しているときに、「なんで同性が好きってだけでこんなに上手くいかないんだろうな」と誰に言うでもなく、なんとなく出した言葉が深いなというか。その問題がずっと根底にあるんだなと思うと、やっぱり守ってあげたくなっちゃう、駿をなんとかしたいなと思う気持ちにさせてくれるという意味では、心に残っています。

松岡:僕は、実央の「は?なにいってんの?」と言うシーンが、なかなかだなと思いました。それは実央キレるよ、と。

村田:あそこはリアルでしたね。

松岡:勝手知ったる中でも言ってはいけないことって存在するよ?と。なんでそんなこと言えるの?というシーンが、心に来ましたね。こんなに実央頑張ってきたのに、と。

――ドラマCDから引き続き演じられてきていますが、お互いが相手役で良かったと感じる部分は?

松岡:それは最初からですね。デビュー当時の頃から、太志さんと仕事の現場が一緒になることが多かったので、そうなると大体の演技の方向性だったりがわかってくるんです。いろいろな役を演じられているのを実際に見ているし、頭の中で想像もしやすかったり。実際現場で掛け合うと違うものにはなるのですが、脳内で想像の掛け合いができるので、そういった面でもありがたかったですね。

村田:僕も本当に一緒で。でも、作品で一緒になる回数は多かったんですけど、メインどころで絡むというのはそこまで多くなくて。しかも駿のようなキャラクターも数えるほどしかなかったのと、久しぶりに2人でメインでがっつり絡むとなった「エトランゼ」のドラマCDのときは、ちょっと緊張しましたね(笑)。もちろん心強さは100%だったんですけど、僕は割と緊張しがちなので、密かに水面下で緊張していました。

――その緊張を松岡さんは感じましたか?

松岡:僕はそんなにわからなかったです。ものすごく自然に始まったので。だから、僕のほうが緊張しているのかなと思いました。

村田:意外といくら経験を重ねてきても、メインとかで「あ、この人とがっつり絡むのか!」となったときに、どんな相手でもちょっと身構えちゃうかもしれません。

松岡:あるあるですよね。

――『海辺のエトランゼ』は「心が洗われるようなボーイズラブ。」というキャッチコピーがありますが、最近心洗われたことを教えてください。

松岡:重炭酸の入浴剤を変えたんです。それが、「え、これ本当の炭酸!!」というくらいシュワシュワになって洗われました。すごく良かったです。

村田:日々スマホでニュースを見ている中でほっこりしたお子さんや猫のエピソードだったりを見て、心洗われています。物理的なものでいうと、最近お家サウナにハマっていて。傘タイプのものを湯船に浸かりながら被って蒸気をためて、さらにポンチョのような羽織るタイプのものでフードも被ってひたすらに汗を流して、デトックスをしています(笑)。

――では、この物語に込めた思いや受け取ってほしいメッセージは何でしょうか?

村田:やっぱり特別な大恋愛じゃなくても、人が人を大事に思う。当たり前のことでなかなかできないことかもしれないんですけど、シンプルにそういうことが大事なんじゃないかなって。それを伝える上で、沖縄の風景や猫だったり、駿や実央を取り巻く人達が彩ってくれる中で、そういった人が人を思うということを気づかせてくれる。ぜひ何か心に我慢できないイライラや、モヤモヤを抱えている方がいらっしゃったら、間違いなく払拭してくれます。ぜひ観ていただきたいです。

松岡:ストレートに言ってしまえば、「好きって言っちゃいなよ」と。そんな、実央の真っ直ぐな生き様だったりが、すごく背中を押してくれる作品でもあると思います。あとは本当にこの世界に行ってみたい!と思わせてくれる作品でもあるんですよね。海とかもすごくキレイですし、映像の中で如実に風の動きがわかるくらい丁寧に作っていることが伝わってくるので、観終わった後に、静かに「良かった」と噛み締めてもらえる作品になっていると思います。

――ありがとうございました!

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『海辺のエトランゼ』 9月11日(金)より全国公開中
心が、洗われるようなボーイズラブ。
【CAST】
橋本駿:村田太志 知花実央:松岡禎丞 桜子:嶋村 侑
絵理 : 伊藤かな恵 鈴 : 仲谷明香 おばちゃん : 佐藤はな
【STAFF】
原作 紀伊カンナ 「海辺のエトランゼ」(祥伝社 on BLUE comics)
監督・脚本・コンテ 大橋明代
キャラクターデザイン・監修 紀伊カンナ
総作画監督 渡辺真由美
エフェクト作画監督 橋本敬史
美術監督 空閑由美子(STUDIO じゃっく)
色彩設計 柳澤久美子
撮影監督 美濃部朋子
編集 坂本雅紀(森田編集室)
音楽 窪田ミナ
音楽制作 松竹音楽出版
音響監督 藤田亜紀子
音響効果 森川永子
録音調整 林淑恭
音響制作 HALF H・P STUDIO
アニメーション制作 スタジオ雲雀
配給 松竹 ODS 事業室
主題歌 「ゾッコン」MONO NO AWARE(SPACE SHOWER MUSIC)
製作 海辺のエトランゼ製作委員会
配給:松竹ODS事業室

【公式サイト】etranger-anime.com[リンク]
(C)紀伊カンナ/祥伝社・海辺のエトランゼ製作委員会
(C)紀伊カンナ/祥伝社 on BLUE comics

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