フラワー長井線のZoomツアー企画、なぜ生まれた? 沿線の観光素材活用 アフターコロナを見据えた戦略

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フラワー長井線のZoomツアー企画、なぜ生まれた? 沿線の観光素材活用 アフターコロナを見据えた戦略
荒砥車両基地と山形鉄道の気動車 白鷹町イメージの紅花ラッピング

山形鉄道と山形の一般社団法人が共同開催

2020年9月19日(土)、フラワー長井線のオンラインツアーが開催されます。

これは長井市・南陽市・飯豊町・白鷹町の4市町と連携した観光地域づくり法人「(一社)やまがたアルカディア観光局」と山形鉄道株式会社の共同企画。やまがたアルカディア観光局のWebサイトで9月13日(日)までに申し込むと、ご自宅に沿線の美味しい地酒や沿線の美味いもの、山形鉄道のグッズなどが届き、参加者はそうした特産物を楽しみながらZoomで現地に「行った気になる」という新時代のバーチャルツアーです。

(一社)やまがたアルカディア観光局申込受付ページより

類似の企画としては東武鉄道の「SL大樹」Zoomオンライン配信やJR四国の「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」第一便運行時の訓練運転動画同時配信などがありますが、観光局とローカル鉄道がオンラインツアーに挑戦するのは珍しいのでは? ということで、ツアー内容や企画の意図まで取材してきました。

フラワー長井線ってどんな路線?

長井駅は取り壊され、2021年4月にリニューアル開業予定 現在はプレハブで営業中

オンラインツアーの舞台となるのは山形鉄道フラワー長井線。JR東日本の「長井線」を引き継いだ山形県南部のローカル線です。

羽前成田駅ホームから よく晴れた日などは優れた景観が楽しめる

赤湯駅~荒砥駅間の30.5kmをつなぎ、駅舎は赤湯・荒砥含めて17駅。本社は長井駅に置かれており、車両基地は終点の荒砥駅に併設。旅客用の車両を6両、保守用車を1両有しており、日中時間帯は1両、朝晩のラッシュ時などは2両連結して走ります。地域の生活の足、通勤・通学のための路線ですが、起点の赤湯駅は温泉街でも知られており、山形新幹線の停車駅でもありますから、観光目的で訪れたことのある方も多いのではないでしょうか。

山形新幹線の停車駅であり、赤湯温泉街も近い

「フラワー長井線」の「フラワー」は沿線に多い花の名所が由来。同社の車両のうち4両には、それぞれ沿線自治体を代表する花のラッピングが行われています。日本有数のあやめ公園を持つ長井市は「あやめ」、桜の名所・烏帽子山公園のある南陽市は「さくら」、日本一の紅花生産量を誇る白鷹町の「紅花」、日本最大級のダリヤ園を有する川西町が「ダリヤ」――外観はとてもカラフルでバリエーションに富んでいます。残る2両は食堂車としても使える「シンボル車両」と「鉄道むすめ」のラッピング車両。ちなみにシンボル車両は食堂車として運行するときだけ机を設置するそうですが、この作業がなかなか大変なんだとか。

食堂車としても使われるシンボル車両 中には一つだけ「特別な吊り革」がある

路線名称にもなっている長井市は、最上川の豊かな流れとともに成長してきた街です。かつては舟運で栄えていました。現在も街中には水路が流れており、時期があえば珍しい「梅花藻(ばいかも)」を見ることができます。食文化に目を向けるとお酒と馬肉とラーメンが有名。特に馬肉は引き締まった赤身肉が絶品で、ラーメンもそこら辺のスナックで提供される〆の一杯でさえ美味しいという話でした。酒飲みにはいいところのようです。

長井の水路には水が綺麗で水温が低くないと繁殖しない「梅花藻」の花が咲く馬肉チャーシューを乗せた冷やしチャーシュー麺は絶品

Zoomツアーの見所は?

普段は入れない車両基地内にも潜入できるのが本ツアーの特長

今回は(一社)やまがたアルカディア観光局の芳賀さんと山形鉄道の清野さんにご案内いただき、Zoomツアーを先取り体験させていただきました。

ざっくりと全体の流れを説明すると、Zoomツアーはフラワー長井線の終点である「荒砥駅」から開始。普段は見ることのできない車両基地を見学したのち、最上川橋梁(通称「荒砥鉄橋」)をわたり、国鉄時代の木造駅舎である「羽前成田駅」を見学。長井で先述の「水路」を散策したのち、山形鉄道本社のある「長井駅」へ向かうという流れです。

レア度としては荒砥駅の車両基地が一番ですが、鉄的に一番気になるのは最上川橋梁ではないでしょうか。(JR東日本の左沢線にもありますが)歴史的・構造的にも貴重な近大土木遺産であり、撮り鉄さんにとっては鉄橋を渡る気動車はいい被写体です。鉄橋そのもの、最上川、先へと続く路線何を見ても美しいので、ここは画面を注視しておいていただきたいところ。

前面展望で最上川橋梁を一枚 撮り鉄ならここを通過する瞬間を撮りたいところ

ツアー中に訪れる「羽前成田駅」には国鉄時代の遺産が残っています。現在は無人駅ですが、地元の「おらだの会」などが協力して綺麗な状態で使えるように整備されています。なお、フラワー長井線では「西大塚駅」も(ほぼ)建造当時の状態で残っており、駅舎内では同線建設の経緯などを記した資料がバインダーにまとめられています。

羽前成田駅舎大正レトロな無人駅駅舎内国鉄時代の料金表が残っている

旅の終わりは「長井駅」――「東北の駅百選」にも選定された歴史ある駅舎でしたが、長井市の新庁舎と長井駅の新駅舎が建設されることになり解体されました。2019年5月にお別れイベントが開催され、8月に旧長井駅が取り壊され着工。2020年9月現在も工事が進められています。2020年現在、長井駅と山形鉄道本社は工事現場隣のプレハブの建物で営業中です。

建設中の長井市庁舎と新駅舎

新しい駅舎は市役所と一体化し、共有の待合スペースが設置される予定です。2021年4月1日にリニューアル開業、3日には開業イベントを実施し、GWには2021年東北DCと絡めてちょっとしたイベントも予定されているそうです。ツアーでは山形鉄道の中井社長が登場し、方言ガイドの清野さんとともに質問を受ける時間帯も設けるとのことでしたので、このあたりのことを突っ込んで質問してみると、貴重なお話が伺えるかもしれません。

「いつか旅先の選択肢として食い込めれば」

セットには沿線の特産品を詰め込んだ (一社)やまがたアルカディア観光局 芳賀啓さん

「Go To トラベル事業」の影響もあり地方の観光産業は傾向としては回復に向かいつつありますが、コロナ禍における厳しい戦いは今なお続行中です。たとえば銚子電鉄、天竜浜名湖鉄道、えちごトキめき鉄道は線路の石を売り出し、由利高原鉄道では補助金を活用して75%OFFの列車貸切サービスを実施するなど、各社それぞれの事情に合わせて鉄路を維持するための取組に力を注いでいます。

フラワー長井線も新型コロナウイルスの影響で通学定期券の払い戻しなどを実施しており、団体旅行の利用者も回復していません。コロナも収束したとは言い切れない状況では、昨年度の団体利用者数(約15,000人)には届きそうもない。そんな状況を打破する策の一つとして生まれたのが今回のZoomツアーです。

「旅行ができるようになった頃に、一つの旅先の選択肢として食い込めれば」と芳賀さんは語ります。東京~赤湯間は新幹線でおよそ2時間20分。片道の旅費は1万円ほど。1泊2日の旅行ならちょうどいいくらいの距離感かもしれませんが、旅行雑誌で頻繁に特集が組まれるような有名観光地と比べると知名度は低く、どんな観光スポットがあるかも知らない状態でふらっと訪れるにはつらい立地です。

その点、価格を抑えたZoomツアーなら比較的手が出しやすく、美味しいものも現地チョイスで自宅まで運んでもらえる。旅行の「体験版」としてはうってつけですし、旅行できるようになった頃に「そういえばオンラインで見に行ったっけな……」と「再訪」する気にもなるでしょう。鉄道ファン的には山形鉄道のグッズを購入することで「コロナで落ち込んだ鉄道業界を支援する」という名目もつくのがありがたいところ。

フラワー長井線にはまだ「もっちぃ駅長」や熊野大社で有名な宮内駅、パラグライダーも楽しめる十分一山など魅力のある観光素材が揃っています。Zoomツアーのタイトルに「第一回」とある通り、芳賀さんらは今回の試みを成功させて次回へとつなげ、フラワー長井線と沿線の観光地としての魅力をアピール、アフターコロナの時代に向けて着々と種をまいていきます。

宮内駅の「もっちぃ駅長」 他の動物駅長とも関わりが深く、SNSでも人気だ東北の縁結びスポットである「熊野大社」 夏季限定で本殿周辺に風鈴が飾られる十分一山に登れば山形の盆地らしさも分かる イザベラ・バードはこの景色を見たのだろうか

文/写真:一橋正浩


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