『宇宙でいちばんあかるい屋根』藤井道人監督インタビュー「周りの人のことをもっと理解して肯定してあげられるような世の中になってほしい」
前作『新聞記者』では、センセーショナルなテーマで世間から注目を浴び、第 43 回日本アカデミー賞最優秀 作品賞を受賞したことも記憶に新しい藤井道人監督。2019年には『新聞記者』に加え、俳優・山田孝之が全面プロデュースし、本作で主演を務める清原果耶も出演した『デイアンドナイト』を公開。そして今回、ひと夏の少女の物語を描いた『宇宙でいちばんあかるい屋根』が9月4日より公開中となります。
小説すばるで新人賞を受賞するなど、多くの読者を魅了する作家・野中ともその大人気小 説「宇宙でいちばんあかるい屋根」(光文社文庫刊)待望の映画化。主人公、14 歳の少女・大石つばめと謎の老婆・星ばあとの心の触れ合いをみずみずしく描きます。
藤井道人監督に作品について色々とお話を伺いました。
――本作大変楽しく拝見させていただきました!前作の『新聞記者』とは全然違うタイプの作品ですよね。
藤井監督:それは多くの方に言われるだろうな、と思いました(笑)。この映画は、実は4年前くらいに頂いた企画なんです。その時いくつか映画化用の原作を提案されていたのですが、その中で、いちばん難しそうな原作だったのでこれを選びました。
――難しそうだった、というのはどういう所に感じましたか?
藤井監督:当時、僕は29歳でヒロインは14歳の女の子なので、表現するには距離があって難しいんじゃないかと思って。その後に『青の帰り道』『デイアンドナイト』という映画を撮って、20代の時に思っていた「社会に対する負の感情」は全部出し切った気がしたんです。僕自身が結婚して子供が産まれたことも影響して、優しい作品に触れる必要があると思ったんですよね。『デイアンドナイト』等と本作の間に『新聞記者』がイレギュラーで入ってしまったんですけど、30代に入ったらこういう優しい映画を撮りたいと思っていたんです。
――距離があって難しいと感じていた14歳の女の子の描写を、どの様に組み立てていきましたか?
藤井監督:プロットを書いている時に、つばめをすべて知ろうとすると失敗するだろうなって気付いたんです。それで、(つばめの同級生の)笹川マコトの目線で脚本を書くことにしました。中学の時にクラスで全然喋らなかったけど、ちょっと可愛いなと思ってたけれど、自分とは接点がなかった窓際にいたあの女の子はどんな子だったんだろう……。みたいな好奇心から始めるとすごくつばめを描きやすくなって、つばめっていう女の子に興味が出てきたんです。 自分の昔の写真をいっぱい見直して、記憶の海を泳ぎながら書きました。「俺、オレンジの服をよく着てたな」とか思い出したりして(笑)。笹川マコトがオレンジの服を着ているのはそのせいなんです。
――主人公つばめを演じた清原果耶さん、とてもステキでした。可愛くて綺麗で悩ましげで。
藤井監督:清原さんが15歳の頃からオーディションで見ているのですが、年下で若い俳優さんでありながら、俳優部として自分の映画に欠かせない“同志”のようなものだと思っています。『デイアンドナイト』にも出ていただいていますが、その時にはあえて彼女には演技について何も言わなかったんです。周りの役者にはいろいろ言ってたんですけどね。そうすることで、彼女が悩むことが役にプラスになったと思います。でも、今回は逆で、星ばあがいない時は僕がずっと彼女のそばにいました。だから、彼女のいろんな表情を見せてもらったし、彼女と一緒に成長できた気がしますね。桃井さんとの関係も良かったです。清原さんは共演者の演技に反応するタイプなので、相手の言葉に気持ちがこもっていると良い表情をしてくれるんです。共演の吉岡秀隆さんが「お芝居がうまい人はたくさんいるけど、清原さんはオーラや空気が違う」と言ってくれたのも嬉しかったです。
――映画の主題歌もCoccoさんが提供された楽曲を清原さん自身が歌っていて、素敵でした。
藤井監督:実は……俺は大反対だったんです、最初は(笑)。「主題歌、清原さんでどうかな?」ってプロデューサー部に言われた時に、『デイアンドナイト』の主題歌も清原さんが歌っている経緯があったので、俺が歌わせたがりの監督みたいだなと思って(笑)。あと、『デイアンドナイト』の時は役柄として歌っているので良かったのですが、今回はプロダクトマネジメントみたいに思えて。主演に背負わせ過ぎだろうみたいな気持ちがあって。
Coccoさんに書き下ろしていただいたのだから、「Coccoさんに歌っていただけばいいじゃないですか」って、最初はそういうモードだったんです。ただ、守りたかったのは清原さんの感情だから「清原さんが歌いたいって言えばいいです」って。清原さんは「映画のためになるなら」と言ってくださったので、お願いさせてもらいました。
――最初は大反対でいらしたとは!(笑)
藤井監督:どうすればこの映画にとっていいフュージョンなるかを考えた時に、Coccoさんのライブに行ったんです。そこで、「Coccoはいつも逃げてばっかでこうやってフラッと戻って来て歌を歌ってごめんなさい。でも、今、聴いてくれてた皆が結婚して大人になって、Cocco久しぶりに聴こうって戻って来てくれるだけで自分はそういう存在でいられる。“おかえり”って皆が言ってくれるだけで幸せです」っておっしゃっていて。それを聞いた時に、この映画で自分が伝えたいメッセージに近かったんですよね。「昔は色んなことがあって、今は大人になってしまって、守んなきゃいけないものとか色んなものがある中でも幸せでいて欲しい」、そういうものをCoccoさんから清原さんにバトンを渡すイメージなら想像出来ますって言って、いい曲が完成したと思っています。
MVも僕が撮ったのですが、19歳になって美大に通っているつばめが、自分の生まれた町に戻って来る4分間のショートフィルムになっています。映画を観る前だとフワッとして何だかよく分からない部分もあるかもしれないけど、純粋にMVとしても楽しめるようになっているし、映画が観終わったらもっと余韻が出るような作品になっているので、是非ご覧ください。
『今とあの頃の僕ら』
https://www.youtube.com/watch?v=UHgsxKnhSKs [リンク]
――星ばあも桃井かおりさんが演じられたことによってより個性的で、チャーミングなキャラクターになっていたと思います。今回ご一緒されていかがでしたか?
藤井監督:桃井かおりさんと作品をご一緒するという事は、レジェンドと仕事をするという事でとても光栄でした。吉岡秀隆さんもそうなのですが。桃井さんは撮影前日にロスからいらっしゃったんです。「かおりが来たから大丈夫よ!」ぐらいの感じで(笑)。すごい方ですから、めっちゃ怖くて言うこと聞いてくれなかったらどうしよう……、と思ったりもしたんですけど、桃井さんがやられたお芝居に対して「桃井さん、それは違って僕はこういう表現をしたいんです」って言うと、「あ、そっち?」って感じで僕の意見に合わせて演じてくれました。一番映画作りを自由に楽しんでいる方だなという印象を受けました。
桃井さんは監督もやられているので、自分の中で見えているヴィジョンがあると思います。例えば、大事なことを言う時は相手の目を見れない。「だから演技でも相手の目を見たくないんだ」とか。そういった事を聞いて、すごく納得したし、そういう桃井さんの説得力はとても勉強になりました。
――つばめと星ばあの関係が、年齢がすごく離れているのに友人の様でもあり、不思議な関係でとても素敵ですよね。監督は二人の関係のどんな所に惹かれましたか?
藤井監督:今ってみんな相手に忖度しすぎていると思うんです。言いたいことを言わないで、すごく言葉を選んでますよね。ネットではみんなあれこれ言えるのに、直接、本人に言えなくなっているのはなんでだろう?と考えた時に、人間関係のあり方が希薄になってきているんじゃないかと思ったんです。でも、この二人にはそれがない。そこを描きたいと思いました。ダメな所があったら「お前のそういうところがダメなんだよ」ってちゃんと言われたいし、言いたいじゃないですか。それは家族でも良いし、恋人でも良い。そういう関係が結べる相手が一人でもいるといいな、と思います。
――特に今、鬱々とした気分になっている方も多いと思うので。二人の人間らしいやりとりを見て、元気づけられたりほっとする人もいるのかなと感じました。
藤井監督:そうですね。大変な時期ではありますけれど、何かを攻撃しても人生は前に進まない。攻撃するエネルギーを、自分が大事に思う人のための費やした方がいいと思うんですよね。自分の周りの人のことをもっと理解して肯定してあげられるような世の中になってほしいという願いを、この映画に込めたつもりです。
――今日は素敵なお話をどうもありがとうございました!
<編集後記>多忙な藤井監督ですが、お仕事の合間を縫って映画鑑賞を行なっているそう。最近ご覧になって面白かったのは『WAVES/ウェイブス』とのこと。「海に行くのが好きなので、美しい映像も楽しませていただきましたし、音楽の使い方や感情の紡ぎ方が素晴らしかったです。監督は31歳なんですよね。くそー!って嫉妬しました(笑)」と藤井監督。そうおっしゃる藤井監督ご自身がこれからの映画界を担う存在ですが、同世代の映画監督とはよくお話をするそうで「内田英治監督や森ガキ侑大、ちょっと年下ですけど二宮健監督などと映画についてよく話しています」とのこと。その集まりでの会話を文字起こしするだけで本が出来そうですよね。
【ストーリー】
お隣の大学生・亨(伊藤健太郎)に恋する 14 歳の少女・つばめ(清原果耶)。優しく支えてくれる父 (吉岡秀隆) と、明るく包み込んでくれ る育ての母(坂井真紀)。もうすぐ 2 人の間に赤ちゃんが生まれるのだ。幸せそうな両親の姿はつばめの心をチクチクと刺していた。しかも、学校は 元カレの笹川(醍醐虎汰朗)との悪い噂でもちきりで、なんだか居心地が悪い。つばめは書道教室の屋上でひとり過ごす時間が好きだった。ところが ある夜、唯一の憩いの場に闖入者が―。空を見上げたつばめの目に飛び込んできたのは、星空を舞う老婆の姿!?派手な装いの老婆・星ばあ (桃井かおり)はキックボードを乗り回しながら、「年くったらなんだってできるようになるんだ―」とはしゃいでいる。最初は自由気ままな星ばあが苦手だったのに、つばめはいつしか悩みを打ち明けるようになっていた。
(C)2020「宇宙でいちばんあかるい屋根」製作委員会
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