グレイシー一族に恨まれ、倍返しされた格闘家の波乱万丈すぎる戦い~失神、骨折、網膜剥離~

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グレイシー一族に恨まれ、倍返しされた格闘家の波乱万丈すぎる戦い~失神、骨折、網膜剥離~

 1990〜2000年代の格闘技界において、グレイシー一族と言えば泣く子も黙る最強格闘一家。さらにヴァンダレイ・シウバ、ミルコ・クロコップ、ピーター・アーツと言えば、知らぬ人はいないほど、格闘技界を震撼させたファイターだ。

そんなラスボス級ファイターたちと死闘を繰り広げてきたのが、元総合格闘家の大山峻護さん。柔道選手として全日本実業団個人選手権優勝という実績を持つ武道家だが、総合格闘技イベント「PRIDE」の試合に衝撃を受け、26歳にして総合格闘家へ転身した魂の格闘家だ。

現在は格闘技とフィットネスを融合させた「ファイトネス」の普及に努めるなど、新たな人生を意欲的に過ごしている大山さん。名だたる選手に立ち向かい、何度負け続けても這い上がってきた不屈の日本男児に、何度でも立ち上がり挑み続ける所以を聞いた。

ミルコ・クロコップ戦 (C)関根孝

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朝倉海vs扇久保の一戦を「グレイシー一族と死闘を続けた男」が語る https://cocokara-next.com/athlete_celeb/rizin23-shungooyama-review/

グレイシー一族に辛勝も世間から大バッシング、「勝っても喜んでもらえない辛さ」

――2001年にPRIDE初参戦した際の対戦相手が、当時格闘技界の寵児で、大山さん憧れの存在でもあった桜庭和志を破ったヴァンダレイ・シウバ。どんな気持ちでしたか?
大山:あの時はアメリカの総合格闘技イベントでプロデビュー2試合をして、それでシウバ戦でした。今までに経験のない強さだったので、逆に怖くなかったんですよ。「やってやるよ」って気持ちでした。若さというか、経験のない人の強みでしょうね。経験を積んできた選手の方が、知っているからこそ怖いんですよ。だからあの時は試合中も強気でしたね。右のフックがシウバに当たって、相手の膝がガクンって落ちたのを覚えています。若さ故の勇気が当ててくれたと思います。

――シウバ相手にパンチが決まった時は最高の気分でした?
大山:それで逆に慌てちゃったんですよね。経験のなさが出てしまいました。経験がない故の強みと経験がない故の弱さが出て慌ててしまって、結局逆転されて負けました。

――その2ヶ月後に行われたPRIDEの2試合目はヴァリッジ・イズマイウと対戦
大山:彼は事前インタビューの時に「大山と殴り合う」と言っていたので、「よし上等だ!殴り合ってやる」と思って一生懸命に殴り合いの練習をしました。だけど、ゴングがなった瞬間にタックルされて…。そのままずっと寝技でパウンドされて負けました。そういう駆け引きができないのが、経験のなさですよね。真に受けちゃう。それがきっかけで右目の網膜剥離になってしまいました。

――網膜剥離で約1年の長期離脱。復帰戦はグレイシー一族のヘンゾ・グレイシーでした
大山:復帰戦だったので、とにかく勝つことが周りの人への恩返しだと思って戦略的に戦いました。最初から判定狙いで。そうしたら、そんな消極的な試合はおもしろくないので、判定で勝ったのに大バッシングを浴びました。ファンからもマスコミからも、関係者まで。プロの洗礼を浴びましたね。やっぱり、ファンを熱くすることもプロの仕事でもあるので。ファンが見たいのはこういう戦いじゃない、みんな生き様を見たがっているんだなって教えてもらいました。そこからは「勝っても負けても真っ向勝負」が僕のテーマになりました。

――負けるよりも辛い経験だった
大山:勝ったのに喜んでもらえないことが辛かったですね。元々僕は格闘技から感動をもらって、それでファンからファイターになったのに、感動や勇気を与えられないということがすごくショックでした。あの時は本当に落ち込んだし、いろんな人から誹謗中傷を浴びて、心療内科にも通っていました。体が震えてくるようになって、鬱の薬とか睡眠薬とかを飲んでいましたね。

――そんな状態なのに、3ヶ月後にはグレイシー一族からの刺客で、ヘンゾの弟であるハイアン・グレイシーと戦うことに
大山:「一族を背負う」という凄まじさを感じました。人生で初めて一対一族だったので、怖かったですね。ファンの目にも応えないといけないし、グレイシーにも勝たないといけないという二重のプレッシャーがあって、あの試合が一番怖かった。入場の煽り映像もグレイシー寄りだったんですよ。「大山を倒せ」「大山を潰せ」って。あの時は初めて会場のファンすらも敵のような気がして、すごく心細いままリングに上がったのを覚えています。

――残念ながら試合は一本負け、さらには右腕骨折という凄惨な結果でした
大山:試合で腕を折られて、勝敗が決まった後も蹴られましたね。中指を立てられながら罵声を浴びせられて、唾を吐かれて、一通りされましたね。腕を折られながらバキバキバキって音が聞こえましたけど、ギブアップするつもりはなかったので、「この後は左手で戦わなければ」と考えていたことを覚えています。

――屈辱的な負け方のようにも思えますが、当時はどんな気持ちだったのでしょうか?
大山:負けたんだから仕方ないという思いがありましたね。怒りはなかったです。負けた自分が悪いんだって。

人生最大の下克上、夢描いた大晦日の舞台でピーター・アーツ戦が実現

ダン・ヘンダーソン戦 (C)関根孝

――右腕の状態が不完全なまま、約9ヶ月後にはダン・ヘンダーソンとの復帰戦
大山:その頃ちょうど、PRIDEが消滅するかも?という時期で、みんなで素晴らしい試合をして大会を盛り上げようという空気に包まれた試合でした。だから殴り合いの気持ちでいったんですけど、ファーストコンタクトで意識が完全に飛んでしまって。でも無意識に体が動いて殴り合いをしていて、殴り合いをしている時に意識が戻りました。結果的には右フックで負けてしまいましたけどね。その試合後に今度は左目の網膜剥離をやってしまって、それで両目共にやっちゃいました。

――1年以上のリハビリからの復帰戦があのミルコ・クロコップ。毎回のモンスター級ファイターとの戦いで、心は折れないのでしょうか?
大山:「次こそはきっと自分の力を発揮して勝てる」という思いでリハビリ中もやっていました。ミルコとの対戦が決まったのが3週間くらい前で、本気で勝てると思っていましたから。でも、開始1分くらいでKO負けしました。それが最後のPRIDEの試合になりましたね。

――その後、K-1・HERO’Sに活躍の場を移し、2005年の大晦日に行われた「K-1 PREMIUM 2005Dynamite!!」ではミスターK-1ことピーター・アーツとのビッグマッチが行われました
大山:その年の初めの方に「大晦日の大舞台でピーター・アーツと戦って秒殺する」という根拠のない目標を立てたんです。そこから7ヶ月くらい、当時スーパースターだったピーター・アーツを倒すことだけを目標にずっと練習を重ねてきました。でも、当時の僕は実績もないので、当然大晦日のラインナップに名前が上がらなかったです。それでも僕は大晦日のリングに立てると信じて、試合の予定もないのにトレーニングを続けていました。そしたらまさか、ピーター・アーツの対戦相手が怪我で欠場になり、急遽僕に白羽の矢が立ちました。試合の9日前ですからね。年末、試合の予定もないのにそんな直前まで準備をしている人なんて僕以外いなかったんでしょう。対戦できると聞いた時は「よし、やってやるぞ」って思いましたよ。結果、1ラウンド30秒タップアウトでピーター・アーツ相手に一本勝ちをすることができました。ずっと思い描いていた姿を実現できて、本当に興奮しましたね。信じる事ってすごいパワーだなって実感しました。

「一発逆転」を目指し、何度でも立ち上がる原動力は「妄想力」

――格闘技の歴史に名を残すようなモンスター級のファイターと戦い続けてきたなかで、怖いとかそういう感情はなかったのでしょうか?
大山:そういった百戦錬磨の選手たちと対戦できることにワクワクしていました。「これ、勝ったらどうなるんだろう」って。しかも現役中は僕も勘違いしているから、相手がそこまでモンスターのような選手だとは思っていなかったんですよ。引退して振り返ってみると、すごい選手と戦っていたんだなという思いが湧いてきましたけど、当時は全然。絶対に勝てると思っていたので、負けた時は本気で落ち込みました。今考えると無茶苦茶なラインアップだったと思うんですけど、現役時代は「こんなにチャンスをもらっているのに勝てないなんて…」って自己嫌悪はありましたね。

――試合中に意識を飛ばしたり、腕を折られたり、失明の危機になったりして、それでも立ち上がることができたのは何故でしょうか?
大山:負けるとやっぱり心は折れちゃうんですけど、また繋いで立ち上がっていましたね。その治療薬は「妄想」するということ。頭の中で勘違いを起こさせるんですよ。「こうなったらどれだけ嬉しいのかな」「周りが喜んでくれるのかな」「会場がどれだけ盛り上がるのかな」とか。勝った時の映像を頭の中で描けるんですよね。その描いた夢のために頑張れるし、それが希望になっていました。格闘技の素晴らしいところって、一発逆転、下克上があるところなんですよ。「次の試合で勝てたら俺の人生ひっくり返るんじゃないか」という思いがあったので、「次こそは」「この試合勝ったらどうなるんだろう?」っていう妄想力で続けてこられました。

――妄想力、メンタルが強すぎます…。恐怖を感じたことは?
大山:対戦が決まると最初は「勝ったらどうしよう」ってワクワクするんですけど、試合当日になると急にリアルになって、ものすごく怖くなるんですよ。僕の場合、試合前日まで軽量をパスした安堵感とかもあっては高揚感があるんですが、当日の朝は喋れないくらいにものすごい恐怖が襲ってくる。極端な言い方ですが、会場着くまでは死刑台に向かって行くような恐ろしさで、このまま着かなければいいのに、と思っていました。

――負けてしまうのではないかというプレッシャー?
大山:負けたらどうしようという恐怖とか、生命体としての恐怖とか、いろんなことが急にリアルになるんです。僕だけでなく、選手みんなその恐怖を乗り越えて会場に来て、勇気を奮い立たしてリングに上がっています。試合に勝利してリング上でスポットライトを浴びている選手がいて、その反対側では負けて号泣している選手がいる。だけど、あのリングに立つだけでもものすごいことで、誇るべきことだと思います。

――たくさんの恐怖や試練を乗り越えて戦い続けてきた大山さんも40歳で引退を決意
大山:僕の場合、格闘家人生で想像以上に体や脳のダメージが溜まっていたんですよね。最後の方はちょっとかすったパンチで意識が飛ぶようになっていました。それで引退を決意しました。引退試合は桜木裕司選手と対戦して、「勝っても負けても真っ向勝負」という僕のテーマを果たせた試合になりました。最後も負けてしまいましたけど、あの試合で未練が断ち切れたと思っています。

――引退後は「ファイトネス」を中心に一般の方の心と体の健康維持サポートを行なっていますが、格闘技を通して学んだことはどんなことでしょうか?
大山:ファイトネスはおかげさまで100社以上とやらせてもらってきましたが、現役時代に培った未来を妄想する力や行動力というものは第2の人生で必ず役に立つと感じました。僕はたくさん負けてきましたけど、今思えば全ての事が財産になっています。格闘家としてはチャンスをものにして成功できた方ではないですが、チャンスが来ることを信じて努力し、怖がらずに挑戦してきたこと、信じる力は僕の強みだと思っています。世の中、過去の実績を見て目標を決めがちですよね、「今までこのくらいやってきたから、このくらいが現実的だろう」って。でも、僕はまず「ここに行きたい!これがやりたい!」って目標を決めます。そしてそこに行くために努力します。やりたいことだから、実現した時のことを考えると楽しくてワクワクするんですよ。そういった格闘技で培った妄想する力、信じる力、そして行動する力が今も僕を突き動かしています。

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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大山峻護(おおやま・しゅんご)

5歳で柔道を始め、全日本学生体重別選手権準優勝、世界学生選手権出場、全日本実業団個人選手権優勝という実績を持つ。2001年、プロの総合格闘家としてデビュー。同年、PRIDEに、2004年にはK-1・HIERO‘Sにも参戦。2012年ロードFC初代ミドル級王座獲得。現在は、企業や学校を訪問し、トレーニング指導や講演活動を行なっている。著書に「科学的に証明された心が強くなる ストレッチ」(アスコム)。10月中旬にビジネスマンのメンタルタフネスを高めていくための本「ビジネスエリートがやっているファイトネス~体と心を一気に整える方法~」(あさ出版)を出版予定。
大山峻護さんInstagram
https://www.instagram.com/shungooyama/
オンライン家庭教師 with アスリート
http://virus-busters.spo-sta.com/
「科学的に証明された 心が強くなる ストレッチ」
ファイトネス
http://shungooyama.spo-sta.com/


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