介護の仕事の魅力って? 介護福祉士・モデルの上条百里奈さんに聞く

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介護の仕事の魅力って? 介護福祉士・モデルの上条百里奈さんに聞く
介護福祉士とは、身体や精神機能が衰え、日常生活を送るのに支障がある高齢者などに、食事や排泄、入浴、外出などの介護を行う専門家。

超高齢社会の日本で非常に必要とされている職業なんだけど、人手不足が深刻な問題になっている。

そんな介護福祉士と、モデルというまったく異なる2つの仕事で活躍しているのが上条百里奈さん。

中学のころから老人ホームでボランティアを始め、「介護はとってもやりがいのある仕事」と話す。

では、モデルになったのはなぜ? 介護の仕事にはどんな魅力がある?

上条さんに聞いてみた。

(プロフィール)

介護の仕事の魅力って? 介護福祉士・モデルの上条百里奈さんに聞く  上条百里奈(かみじょう・ゆりな)

1989年、長野県生まれ。中学のころから老人ホームなどでボランティア活動を始める。高校では総合学科で介護福祉を勉強し、ホームヘルパー2級を取得。

白梅学園短期大学福祉援助科(現・大学子ども学部家族・地域支援学科)に進学し、卒業と同時に介護福祉士の資格を取り、老人ホームに就職。

スカウトをきっかけにファッション誌などでモデルとしても活動するように。

現在も介護現場で働きながら介護福祉に関する講演会の講師、テレビの情報番組出演、ドラマ監修、白梅学園大学非常勤講師など幅広く活躍中。

2年前からは、東京大学未来ビジョン研究センターで、介護現場の労働環境などの調査研究にもかかわっている。

中学2年のときの職場体験授業がきっかけに

幼いころのあこがれの職業は、看護師だったという上条さん。

介護職志望に変わったのは、中学2年のときの職場体験授業がきっかけだった。 「希望した体験先は病院でしたが、人気があって埋まってしまったんです。

まだ参加枠が残っていたのが老人ホーム。施設に行ってみると、車いすや認知症のおじいちゃん、おばあちゃんが大勢いました。介護が必要な高齢者と会ったのは初めてだったので、衝撃的でしたね。

お風呂やオムツ交換など、いろいろなお手伝いをさせてもらったのですが、全然うまくできなかった…。

そんな私なのに、おじいちゃん、おばあちゃんたちは『ありがとうね』とやさしい言葉をかけてくれました。

施設で暮らす高齢者は身体も思うように動かないし、家族とも離れている状況なのに、人にやさしくできるなんてすごいなと。

これが大人ということなんだと、感激しました」

こんな発見もあった。 「その施設に常駐する看護師さんが、ある高齢者について、『転倒などを防止するためにも歩かせないように』と、スタッフに指導していたときのことです。

介護職の人は『歩きたいと言っているご本人の想いをかなえたい、かなえるにはどうしたらいいのか…』と、熱心に話していました。

その様子を見て、興味がわいてきたんです。

介護の仕事は、高齢者の食事やお風呂の介助をするだけかなと思っていたけど、命を大事にする仕事なんじゃないかって。

私がやりたいのは医療より介護かも、と気づいたんです」

介護福祉を学べる高校へ進学

その後、土日を使って、老人ホームにボランティアとして通うように。 「でも、私は決して行動的な中学生だったわけではありません。

内気で、勉強もできたわけじゃないし、これといった特技もなく、熱中できるものもない…そんな私に対して、お年寄りたちは『あなたは頑張っていてエライね!』といつも褒めてくれたんです。

老人ホームは居心地がよくて、お年寄りに会うのが楽しみでした」

高校は介護福祉が学べる学校へ進学。老人ホームや特別支援学校でのボランティアも行った。 「教室で習ったことは、即、実習授業とボランティア活動で実践していました。だから勉強が楽しくて!

介護福祉の科目の成績だけは学年でトップでした」

ホームヘルパー2級(※)の資格を取るための授業もあり、そのカリキュラムを修了し、資格を取得した。

(※)ホームヘルパー2級:介護職として働くための入門的な資格。 2013年に資格の制度が変わり、現在は「介護職員初任者研修修了者」という名称になっている。自治体や学校などが実施する養成研修を受講し、修了評価のための筆記試験に合格すれば、取得できる。

老人ホームに就職し、高齢者介護の課題に気づく

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高校卒業後は短大の介護福祉の学科へ進学。卒業と同時に国家資格の介護福祉士を取得し、老人ホームへ就職した。

やりたい仕事に就けて充実した毎日を過ごしていたが、ショックな出来事があった。 「寝たきりの奥様を旦那様が自宅で介護している老夫婦がいらっしゃいました。

ある日、旦那様が急きょ入院することになり、私が働く施設に奥様が緊急入所することになったのですが、奥様を車いすから抱きかかえてベッドに移動させようとしたら、褥瘡(じょくそう)がひどかったんです」

褥瘡(じょくそう)とは床ずれと呼ばれるもので、寝たきりにより起こるもので、身体の皮膚がただれてしまう症状。 「奥様は頭や肩、腰、かかとまで褥瘡が広がっていて、臀部(でんぶ)あたりは骨や筋肉までみえる状態だったんです。施設で対応できるレベルを超えていたので、急いで病院に搬送しました。

もっと早く、私たち介護の専門家を頼ってくれたり、誰かに相談してくれていたら、奥様の床ずれはあんなにひどくならなかったでしょう。

旦那様ひとりで抱え込んだりせず、訪問介護や、デイサービスなどの介護サービスを利用する方法もあったはずです。

しかし、旦那様にお話をうかがうと、『妻が認知症であることが恥ずかしくて…。介護を受けなければならない事実を世間に知られたくなかったから、誰にも言えなかった』とおっしゃいました。

この老夫婦のように、適切に助けを求められず、大切な家族が重症化してしまうということが、頻繁に起きていました。

なぜSOSを出せないのでしょう。

誰しもが年をとるし、介護を受けることがそんなに悪いことなのか? 高齢になって介護が必要になったり、認知症になっても、地域の人に気軽に相談できたり、介護サービスを当たり前に利用できる社会になってほしいと思うようになりました」

モデルになったのは、介護の仕事に役立つと思ったから

そんな上条さんに転機がやってきた。

技術と知識を向上させようと、東京で開かれた介護福祉の学会に初めて参加した。 「学会では大学や研究機関の先生方がさまざまな発表をしていて、高齢者のケアの方法など、勉強になることが多くありました」

学会の帰り道、「介護に関しての解決方法や対応策はこんなにたくさんあるのに、介護現場の助けを必要としている人たちに、どうしたら届けられるだろう?」と、考えながらまちを歩いていた上条さん。

そんなとき、「モデルになりませんか?」と、スカウトされた。

「びっくりしました。私がモデル!? 最初は悩みましたが、『テレビに出られるかな!』と、心が動きました。安直ですが、テレビに出れば、介護の情報や問題を広く世の中に発信できるかも、と思ったんです」

モデルの仕事を通して視野が広がった

22歳のとき、モデルというまったく異なる世界へ。歩き方、姿勢、笑顔の作り方など、基礎からレッスンを受け、熱心に取り組んだ。 「かわいい服を着れたり、ファッション雑誌に掲載されたり、ファッションショーで1万人を超える観客の前でランウェイを歩いたり、楽しかったです」

モデルの仕事が、介護の仕事に役立ったことは? 「介護の仕事は、医療など近い業界の人と接する機会はあっても、まったく違う業界の人と接点をもつことはなかなかないので、視野が狭くなりがちです。

一方、モデルはアパレルやスポーツ、航空会社、精密機器業界など、ありとあらゆる業界のPRに携わるので、その企業が何を強みにしているのか、社会に何を伝えたいのかなどを知ることができます。

そうしたモデルの仕事を通して、物事に対する見方が広がりました。

いろいろな人がいて、いろいろな価値観があることを知り、それが介護の仕事にも活きています。

高齢者一人ひとりの歩んできた人生、職業、家族構成、好みといった背景をきちんと理解し、対応していく力を上げるのに役立っているのではと思います」

25歳を過ぎ、モデル兼介護福祉士という経歴が注目され、介護福祉に関する講演会の講師、テレビドラマの介護シーンでの監修・指導、情報番組で介護に関するコメンテーターなど、活躍の場を広げていった。

2018年からは東京大学の研究機関で、介護職の働く環境についての調査研究にも携わっている。

介護職でつらいことや仕事のよろこびは?

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モデルやテレビ出演など華やかな業界で活躍するようになって、介護の仕事を辞めたいと思ったことは? 「一度もないです! モデルも多くの人の気持ちを明るくする、すてきな仕事です。でも、私はやっぱり介護の仕事が大好きなんです」

介護の仕事には大変なことってないの? 「もちろんありますよ。

夜勤や立ち仕事も多いので体力が必要だし、高齢者とのコミュニケーションに苦労することも…。

でも、一番つらいのは、施設で暮らしている高齢者がお亡くなりになることです。

私がまだ新人のころ、いつも通り、朝ご飯を食べていた高齢者が昼前に突然亡くなってしまい、そのときのことは今でも忘れられません。

初めての経験でショックが大きすぎたため、別の部屋の寝たきりのおばあちゃんのところへ行って、2時間近く、理由も言わずにずっと泣いていました。

今、考えても大変迷惑だったと思うのですが、そのおばあちゃんが信じられないくらいやさしくて…。

唯一動く左手で、『どうしたの? 誰にも言わないから話してごらん』と言って、私の頭をなで続けてくれました。

この時間がなかったら、私は悲しみを乗り越えることができず、介護職を辞めていたかもしれません」

介護の仕事のどんなところが魅力?

「介護は、単に食事の介助をしたり、オムツをとり替えるということではありません。

お一人おひとりの『こういうふうに生きたい』という意思を大切に、その人が心地よく過ごせるよう、生活をともに構築していくのが私たちの仕事です」

上条さんはある高齢者とのエピソードを話してくれた。 「毎月1回、ショートステイ(短期間、施設に入所すること)で2年ほど施設に通っていたおじいちゃんがいて、あるとき、こう言うんです。

『俺、そろそろ逝くからね。だからどうしても最後にあなたにお礼が言いたかった。

俺ね、介護を受けるようになって、自分ひとりで身の回りのことができなくなったのがつらくて、ずっと死にたいと思っていたんだよ。

でもね、あなたに出会えて、また生きたいと思えるようになったんだ。ありがとう』と。

そしてその3日後に亡くなりました。

悲しかったけれど、人生の最期にどうしてもお礼の言いたい相手になれるなんて、何物にも代えがたい感動でした。

それは、高齢者と一緒に笑ったり、おしゃべりをしたり、何気ない日常をともにしている介護職だからこそ、存在が価値になる介護職だからこそ、もらえた言葉だと思っています」

高校生の皆さんへ

介護の仕事の魅力って? 介護福祉士・モデルの上条百里奈さんに聞く  「映画や小説にはいろいろなストーリーがあって、結末がどうなるのかで、そのストーリーの良しあしが決まります。人の人生もそうだと思います。

高齢になって介護が必要になっても、人生を楽しめる日常を、ともに実現するのが、私たち介護職です。

中学2年生のときの職業体験で初めての介護現場で出会った100歳のおばあちゃんがこう話してくれました。

『これまでの私の人生は戦争もあったし、つらいこと、悲しいことがいっぱいあったの。

でも、100歳になると、全部いい思い出になって、これまでの楽しかったことはもっといい思い出になるのよ。だから今が一番幸せ。あなたも100歳まで生きなさい』と。

当時の私は思春期に入っていたせいか、生きづらさを感じていたときで、このおばあちゃんの言葉には勇気づけられました。

今も宝物にしている言葉です。

『どんなにつらいことがあっても、生きていてよかった』と思える高齢者がもっと増えるように、力を注いでいきたいです」

上条さんは「介護は、若者にも希望を与える仕事」ともいう。 「介護が必要になってもハッピーに生きている高齢者がいることは、若者たちに生きる希望を与えると思っているんです。

年を重ねることをネガティブにとらえるのではなく、幸せや希望を感じながら生きていける。

そんな社会になれば、ストレス社会で生きる若者たちもそれぞれの挫折や悩みを乗り越えながら自分の人生を頑張っていけるのではないでしょうか。

介護職は、若者に希望を与える社会を、下支えできる仕事…そう信じています」

介護の仕事には、「きつい」というイメージがあるけれど、社会に絶対に欠かせない仕事なんだ。

介護に興味がわいてきた人は、老人ホームなどでボランティアを体験することから始めてみるといいだろう!

介護福祉士として活躍するには

資格を取得していなくても介護の仕事をすることはできるが、国家資格の介護福祉士をもつことで、介護の専門知識と技術を身につけている証明に。

施設によっては給料に資格手当を加えたり、リーダーや主任など昇格の条件になっている。

◆介護福祉士の資格を取るには

・介護福祉士の国家試験に合格することが必要。

・国家試験の受験資格 養成施設(大学・短大・専門学校など)の介護福祉士養成課程で学んで卒業した者(※)。

このほか、3年以上の実務経験を積んで介護福祉士実務者研修を修了し、受験資格を得る方法もある。

※これまでは、養成施設卒業者は国家試験を受験せずに資格を取得できたが、法改正によって、2017年度から国家試験合格が必要になっている。 なお、養成施設を2027年3月までに卒業する人は、卒業後5年の間は国家試験を受験しなくても、介護福祉士になることができる。この間に国家試験に合格するか、卒業後5年間続けて介護業務に従事することで、5年経過後も介護福祉士の資格登録を継続することができる。

・国家試験の合格率 69.9%(2020年)

◆主な働く場所

特別養護老人ホーム、デイサービスセンター、身体障がい者施設、訪問介護サービス事業所など。

◆収入の目安

超高齢社会を迎え、国では介護職の人材を増やそうと賃金を上げるための施策に力を入れていて、平均収入は徐々に上がってきている。

厚生労働省が2018年に発表した資料をみると、介護福祉士(平均勤続年数8.4年)の平均月給(ボーナス込みの年収割)は、前年の調査結果に比べて9290円アップの31万3920円となっている。

ちなみに同じ調査で保有資格がない介護職(平均勤続年数5.2年)の場合、平均月給は26万1600円(前年より9110円アップ)。

※出典:厚生労働省「平成30年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」

◆仕事の将来性

介護業界は人材不足にあるため、景気に左右されることなく、求人数は常に多い状態。

求職者(仕事を探している人)1人に対して、何件の求人があるのかを示す「有効求人倍率」をみてみると、2020年6月の介護職全体の有効求人倍率は4.04倍になり、全職業の有効求人倍率(0.97倍)を大きく上回る結果になっている。

※出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和2年6月分)」

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