前作から大きくスケールアップ、映像的表現の迫力
希代のストーリーテラー、マイクル・クライトンの疫病SF『アンドロメダ病原体』の続篇。宇宙由来の菌株(ただし生物的存在ではなく自己展開する「因子」と呼ぶのがふさわしい機序を示す)が、ふたたび人類を脅かす。
「まっさらな状態での読書」などとナイーヴなことは言いたくないが、『アンドロメダ病原体』を未読のひとはご注意。あなたがストーリーを直線的に追って、作者が仕掛けたギミックを順番に受けとりたい読者ならば、前作から取りかかったほうがよい。
アンドロメダ菌株は二種類あるとか、メッセンジャー理論とか、ピードモントの生き残りとか、本書では当然の前提として出てくる。しかも、設定やテーマと不可分に絡みあっていて、サプライズ的な趣向まで用意されている。
逆に、『アンドロメダ病原体』を大いに楽しんだ読者なら、クライトンのアイデアを、ダニエル・H・ウィルソンが本書で盛大に発展させていることに喝采するはずだ。
この物語は、前作の厄災からちょうど五十年後に設定されている。異変が観測されたのは、ブラジル奥地の密林地帯、未接触部族が暮らす地域だ。この地政学的条件が事態の解明・対応を困難にする。あらゆる兆候から判断して、アンドロメダ因子がかかわっていることは間違いない。しかし、これまでの知見からは予想外のこともあった。現場に、巨大構造物(「特異体」と呼ばれる)が出現しているのだ。
致死性疫病の脅威に加え、異常なふるまいを見せる特異体の謎。これが物語を強力に牽引する。
五十年前の経験を踏まえ、アメリカは極秘で世界的監視体制を構築していた。そして、いまブラジルの異変を受け、ワイルドファイア計画V2が発動される。メンバーに選ばれたのは、出自も年齢も異なる各分野のスペシャリスト五人。うちひとりは国際宇宙ステーションにおり、そこの研究施設を用いて事態に対応する。残りの四人は、密林の現場へ赴く。
スピーディな展開とノンフィクション的体裁を凝らした叙述の妙は、前作『アンドロメダ病原体』に引けを取らないが、大きく異なるのは次の二点。
(1) こんかいの事態は、自然発生の疫病ではなく、人為的策動があること。
(2) 物語が進むにつれ、アイデア面でも情景的にも宇宙とつながっていくこと。
このうち、(1)はサスペンスあるいはテクノスリラーとしての面白さであり、(2)はSF的スケールの拡大である。しかも、それが別々ではなく、より大きな物語の両面を成しているのだ。
もうひとつの読みどころは、映像的な演出だ。そのまま映画にできる、というかこれはあきらかに狙っているでしょう。
(牧眞司)
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