アフターコロナの働き方、ちゃんと「社員の声」に耳を傾けて決めていますか?

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アフターコロナの働き方、ちゃんと「社員の声」に耳を傾けて決めていますか?

緊急事態宣言の解除で、各社の業務は徐々に通常モードへの移行ステージに入ってきたことでしょう。感染拡大への対応が落ち着いたことと引き換えに、いま各社では「コロナ後の働き方をどうするか」という新たな検討課題が現れています。

コロナ禍への適応は半ば強制的なもので、三密を避けできるだけテレワークへ移行することと決まっていました。しかし、今回はそうではありません。アフターコロナに自社がどのような働き方にするのかは、各社に任された「自由」なのです。(人材研究所代表・曽和利光)

声の大きい人の意見が最大多数とは限らない

これがなぜ大問題なのかというと、コロナ後の働き方をどのように定めても、全員が納得することはないと思われるからです。

人事制度設計のコンサルティングをしていると、自社の人事制度に不満を抱く人がいない会社はありません。「不公平だ」「合理的ではない」とおっしゃる人が一定います。

しかし、制度を客観的に分析すると「結構ちゃんと考えられている」「かなり合理的なものだ」と思えるケースが多いのです。何故こうなるのか、最初は不思議だったのですが、結局、不満を言っている人は「自分の好みにあっていない」と言っているだけ気づきました。人は好き嫌いでモノを言うものです。

そして、人の好き嫌いは、その人の性格に関係しています。例えば、社交欲求の高い人なら、社内で金曜日の夜にピザパーティをしたり、合宿研修を行ったりすることが好きですが、社交欲求の低い人は、そういうものにウンザリすることでしょう。

何か新しい施策を打つ際には、組織内で声の大きい人の意見が通ることがありますが、それが最大多数の意見とは限りません。サイレントマジョリティはどこにでもいます。組織の中での制度やルール(人事制度も働き方もすべて)は、社員が喜び、パフォーマンスを最大発揮してくれるための一種のサービスです。お客様は社員です。

テレワークが誰にとっても「心理的に合理的」とは限らない

テレワークやオンラインコミュニケーションの研究はコロナによって大きく進み、「合理的に考えるとこの仕事にはこれがいい」ということが見えてきました。

しかし、物理的に合理的なものが心理的に合理的かどうかはわかりません。人は健康に悪いとわかっていても、酒もタバコもやる非合理な存在です。物理的に合理的な働き方であっても、必ずしも社員の大勢が好む働き方かどうかはわかりません。

私の提案は、コロナ後の働き方については、いったん「積極的判断保留」をしてみてはどうかということです。自社の社員がどんな人たちであり、働き方に対してどんな好みを持っているのかを、このタイミングできちんと分析し把握する前に、コロナ後を決めてしまうのは危険ではないかと思うのです。

まずは社員がどんなパーソナリティの人で構成されているのかをきちんと把握すべきではないでしょうか。経営者や人事の方に「御社はどんな人が多い会社ですか」と聞くと、一応どんな方でも「こういう人が多い」と説明してくださいます。

しかし、実際に全社員を対象としてパーソナリティテストを実施したり、インタビュー調査を行ったりすると、少なからぬ確率で経営者や人事の人の認識とは異なる姿が見えてきます。人の認識にはやはり限界があります。経営者や人事といえども、認識の限界があり、自分の先入観などの心理的バイアスを超えにくいのです。

社員はリーダーの「合意形成の方法」も見ている

「ひとまず今のままで、徐々に様子をみながら決める」とは、ただ単に遅くしろということではありません。その間に、きちんと社員の意見を聞き、パーソナリティテストなどで性格を把握し、どういう働き方を「好む」のかを慎重に想定していくのです。

人事制度設計であれば、どの会社でもやっていることですが、杞憂かもしれないのですが、ことコロナ後の働き方については、どうもそこまでは丁寧にやらずにスピーディーにやろうとしているところが多いように思います。そうすれば、単に「世の中の雰囲気」や「物理的な合理性」だけで、社員の反感を買う施策を雑に導入してしまい、ムダに不信感を買ってしまうことを防ぐことができます。

最終的な結果は「完全に物理的に合理的な働き方」でも「社員が望む働き方」でも、究極どちらでも構いません。大切なのは、物理的合理性と心理的合理性の両方を踏まえて議論し、意思決定を行い、決めたことによって生じるハレーションへの対策を講じるというステップを踏んでいるかどうかです。

人事制度がそうであるように、社員も「全部自分の好きなようになる」とまでは思っていないはずです。しかし、それがちゃんとした議論も説明もなく、進められれば不満は大きくなります。結局「大事に際してうちのリーダーはちゃんとリーダーシップを発揮してくれているのか」を見ているのでしょう。コロナ後の対策は、経営者や人事など会社のリーダーにとっての一種のテストなのです。

ざっくりと「みんな違って、みんないい」では、私が陥った同じ過ちを皆さんも繰り返してしまうかもしれません。ぜひご注意ください。

【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『コミュ障のための面接戦略 』 (星海社新書)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。

■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/

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