巨大医療グループ「徳洲会」を一代で築き上げた稀代の医療革命者の決定版評伝

巨大医療グループ「徳洲会」を一代で築き上げた稀代の医療革命者の決定版評伝

 日本の封建的な医療組織を飛び出し、一代で巨大な病院グループ「徳洲会」を築いた豪傑・徳田虎雄を皆さんはご存じでしょうか? ある人は医師として、ある人は事業家として、またある人は政治家として彼の名前を耳にしたことがあるかもしれません。

 高度成長期の真っただ中、徳洲会はわずか十数年という短い期間で日本一、世界屈指の民間病院グループに成長しました。何度も危機を乗り越えながら、現在も大きな勢力を維持しています。なぜそのようなことが可能であるのか。徳田虎雄の軌跡と、彼のもとに集まった人物たちの群像を通して描かれたノンフィクションが山岡淳一郎著『ゴッドドクター 徳田虎雄』です。本書は2017年に出版された単行本『神になりたかった男 徳田虎雄:医療革命の軌跡を追う』を文庫化したものですが、山岡さんによる加筆・改稿により、さらに深掘りされた読みごたえある内容になっています。

 奄美群島の徳之島出身の徳田は、大阪大学医学部を卒業後、1966年に医師としてのスタートを切ります。1973年に大阪府松原市に「徳田病院」(現:松原徳洲会病院)を開院。1975年に医療法人徳洲会を設立し、「年中無休・24時間オープン」「患者さまからの贈り物は一切受け取らない」などの理念を掲げました。高度経済成長期のこの時代、大都市圏でも夜間の救急患者を受け入れる病院は極めて少なかったそうで、24時間診察は医療界の常識を覆す画期的なことだったといいます。しかし、これをよく思わないのが患者を奪われると怖れを抱いた「医師会」。徳田はこれに真っ向から立ち向かい、一種の「国盗り」の様相で医療過疎地に病院を建てまくっていったのです。

 徳田の庶民目線の医療変革活動は社会運動と一体化し、彼の理念に賛同した多くの人材が彼のもとに集まりました。本書は徳田の一代記でありながら、周囲の人々の群像劇としての要素も含まれています。まず印象的な人物として挙げられるのは、徳田と同じ徳之島出身で徳洲会ナンバー2と言われた医師・盛岡正博。暴力団・山口組の酒宴の場にどう見ても堅気の盛岡が入っていくという本書の始まり方は、ドラマのような鮮烈なインパクトを読者に与えます。ほかにも、非医師の集まりである側近たち「徳洲会の七人衆」に、封建的な医療組織から飛び出してきた医師たち。徳洲会の躍進にはこうした人々の献身も欠かせなかったことがわかります。

 その後、政界へと進出した徳田は、激しい買収合戦や外資との金融争いなどを繰り広げますが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病を患うことに……。全身不随になりながらも病床から指示を出し、トップに君臨し続けようとする姿は圧巻です。「ゴッドドクター」というタイトルは、神の腕前を持つ医師という意味ではなく、”神になりたかった男”という意味であることに気づかされます。

 本書の最後にある解説で、大阪大学医学部教授の仲野 徹さんは「理念や能力、強引さ、金力のようなものだけで多くの人を引きつけ、一丸となって大仕事を成すことなどできはしまい。カリスマのような魅力がなければ不可能だ」と書いています。

 その計り知れないカリスマ性が余すところなく記されている本書。皆さんも徳田虎雄という人間の生きざまを感じ取ってみてください。

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