素朴な疑問! 犯人の“精神鑑定”ってどのように行われているの?

最近またクローズアップされているのが、2016年7月、神奈川県相模原市の知的障害者施設『津久井やまゆり園』で起こった45人殺傷事件の公判です。この入所者が45人が襲われて、そのうちの19人が死亡した事件

横浜地裁で開かれた殺人罪に問われている植松聖(さとし)被告の初公判が行われました。

彼はすべての殺傷行為を認めたのだが、弁護側は責任能力がなく、犯行当時は“大麻乱用による薬物性精神障害”が影響したことによる心神喪失、心神耗弱状態だったと主張しました。要するに無罪、心神耗弱なら減刑を求めたわけです。

心神喪失は、精神障害などで自分が行った行為の善悪が判断できない、自らの行動をコントロール不可の状態。心神耗弱は、判断とコントロールが不可能ではないが、著しい低下を示している状態になります。

かたや検察は、精神鑑定で“自己愛性パーソナリティ障害”と判断されたことで、刑事責任は問えると起訴しています。

被告が暴れて休廷する

しかし、罪状認否の直後に、被害者に対する発言を裁判から促された植松被告は、謝罪したまではよかったのですが、突如前屈みになり、口の中に両手を押し込もうとしました。これは、手の小指を噛み切ろうって詫びようとしたもので、複数の刑務官が制止し、それでも暴れるために、床に押さえ、本人は裁判の場を退場させられたのです。

こんな事態になった上、犯行当時の許しがたい行為は、やはり異常としか言えません。

では、被告に責任能力があるのかという判断をする精神鑑定というのは、どのように行われ、どのような判定が出るのか……。あなたは知っていますか?

今回は、この“精神鑑定”について、掘り下げて、解説していきたいと思います。

最も多い鑑定法は、起訴前鑑定

日本で行われる一番多い精神鑑定法は、取り調べ中に検察官が委嘱される“起訴前鑑定”です。この鑑定法は、1度だけの面談で結果が出る“簡易検定”、数ヵ月(2~3ヵ月半程度)を要する“本鑑定”があります。

この精神鑑定で「この容疑者には責任能力が問えない」と検察官に判断されれば、刑法39条により、不起訴になるということです。

その後、起訴されてから裁判所命令で行われるのが、“司法精神鑑定”。この際に、検察官側、弁護人側は、お互いの主張を立証しなければいかず、専門家に個別で意見書を求めます。それが“鑑定意見書”として、裁判所に提出されることに……。

その精神鑑定結果を検察側、弁護側が不服として再鑑定申請を申し出て、認められれば、数年に渡り、精神鑑定が繰り返されるんです。

いくつもの異なる鑑定が出た場合は、裁判官がどの鑑定結果を採用するかを決定この採用の結論は、裁判官の心証によって決まるという流れになります。

どんな状態だと有罪にならないのか?

ちなみに有罪になるのは、人格障害や神経症、パーソナリティ障害が鑑定で出ると、責任能力あり統合失調症では、責任能力がないという判断に……。精神鑑定結果に基づき、裁判所は「病気で異常があったから、無罪にしよう」となるわけです。

では、起訴後の精神鑑定の流れはどんなものなんでしょうか?

まずは、鑑定依頼と宣誓が行われ、このあと鑑定をスタート。

裁判記録を読み、その記録を通じ、被告の人物像を描きます。例えば、被告の犯罪歴や生活態度、通学していた学校の記録などを確認。

その後、面談。このときに、被告自身の心身状態や生い立ち、発達の状態などを聞くことに……。記録に記されている客観的な事実と、事件が起こしたときの状況や本人主張の精神的症状など被告自身の主観的な事実を聞いて、照らし合わせる作業に入ります。

ここからは、知能テストや単純計算などの精神作業検査、性格判断のための質問紙性格検査、絵を描かせたり絵を見せて深層心理をめくる投影法テストなど、いくつかの心理テストのバッテリーを組み、精神鑑定していくのです。

さらに、家族面接で本人の人物像や深層行動をあぶりだし、脳の異常による問題行動がないかを、瞳孔反射や病的反射・MRI検査・CTスキャンなどの神経学的検査を行うわけです。

残酷な手口での殺人や重大殺人には、脳の異常が見られることが多いために、このような検査を実施します。

このような鑑定は、刑事事件では重要で確実性の高いファクターになるといいます。

初公判から2日後に開かれた第2回の公判、現在までに10数回の公判が行われているこの事件。最近、鑑定を依頼された精神鑑定医は「犯行に大麻使用の影響はない」と判断しました。

京都アニメーションの容疑者も精神疾患があると報道されているが、果たしてこの精神鑑定で無罪になった場合、その後の処遇をどうするのか、1人のジャーナリストの端くれとしては気になって仕方がありません。

数年前の事件ですが、亡くなられた方々のことを風化させてはならないと考えております。

(C)写真AC

(執筆者: 丸野裕行)

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