「珍しさ」より「質」を重視した、選りすぐりの十篇。
過去十年に発表された日本SFの傑作選。『2』は「新鋭篇」で、採られているのは次の10篇。
小川哲「バック・イン・ザ・デイズ」◎
宮内悠介「スペース金融道」◎
三方行成「流れよわが涙、と孔明は言った」
酉島伝法「環刑錮」◎
高山羽根子「うどん キツネつきの」◎
柴田勝家「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」◎
藤井太洋「従卒トム」◎
野﨑まど「第五の地平」◎
倉田タカシ「トーキョーを食べて育った」◎
小田雅久仁「11階」
伴名さんが「編者あとがき」で収録作選定の基準について、〔今回は明確に「珍しさ」より「質」に寄った〕と明言するとおり、〈SFマガジン〉もしくは大森望篇オリジナル・アンソロジー《NOVA》初出の作品、さもなくばすでに短篇集もしくは年刊傑作選に収録されている作品がほとんどである。◎をつけた作品については、過去に本欄でも書評している。
本欄未紹介の二篇は、三方行成「流れよわが涙、と孔明は言った」と小田雅久仁「11階」。
「流れよわが涙〜」は同題名の短篇集に収録されているが、刊行時に取りあげそびれてしまった(注目作が多かった時期のため)。「泣いて馬謖を斬る」の故事を字義通りに受けとって、いかなる手段を用いても斬首できない特異体の処遇を描く。斬首の試みがさまざまなバリエーションでエスカレートしていくさまを、冷笑感覚のナンセンス劇にしあげた一篇。
「11階」は〈SFマガジン〉2013年6月号初出で、これまで単行本に未収録だった。ただし発表年の「SFマガジン読者賞」で国内部門一位になっているので、すでに評価を獲得している作品ではある。10階までしかないマンションに家族と暮らす日菜子が、不可解な発作を起こしたときに11階を幻視する。この導入はいかにも”奇妙な味”だが、日菜子の事情を知りながら恋人になった良徳(彼が語り手)の視点で、11階にまつわる彼女の記憶、過去に起きた悲惨な事件、そして日菜子と良徳が結婚して別なマンションに居を構えてからの人生が綴られ、物語に情緒的な膨らみが備わっていく。芯にあるのは戦慄なのに、静穏な読後感に至るところが独特だ。
さて、この『2』全体を通読してあらためて思うのは、この十年で日本SFに多くの才能があらわれたという事実だ。しかも、ジャンルの枠組みにおさまらない活躍をし、ジャンルを超えた評価を得ている者も少なくない。本書収録のなかで言えば、日本ファンタジーノベル大賞出身でもとより主流文学寄りの立ち位置だった小田雅久仁は別格としても、創元SF短編賞出身の宮内悠介、高山羽根子、酉島伝法、ハヤカワSFコンテスト出身の小川哲、電子書籍のセルフパブリッシングで実力を証明してデビューを果たした藤井太洋は、すでに広い文芸の領域での注目作家となっている。また、野﨑まどの作品アニメ化および脚本担当でのヒットも周知のとおり。
こうした俊英たち、そしてそれに続く才能たちが2020年代のSFを牽引していくのは間違いないが、この勢いをひとつの運動体と捉えたとき、その理論的指導者—-ニューウェーヴにおけるジュディス・メリルやブライアン・W・オールディス、サイバーパンクにおけるブルース・スターリングのような—-は、ほかならぬ伴名練だろう。創作者の才覚、評論家の視座、編集者のバランスを併せもった希有な人材である。そして、前回の書評でも指摘したとおり、圧倒的な「読者力」を備えている。
その「読者力」がうかがえるのが、この『2』の「編者あとがき」だ。
正直、気持ち的にはあと二冊分、[『2010年代SF傑作選』の]枠が欲しい。ゼロ年代は東京創元社の『ゼロ年代日本SFベスト集成』二冊と早川書房の『ゼロ年代SF傑作選』一冊が収録作家を被らせることなく並び立ったので、二〇一〇年代の傑作選ももう一冊か、二冊、東京創元社か河出書房新社か竹書房あたりから別の編者で出てくれることを願う次第である。
自分がつくった本の「あとがき」で別な版元を名指しするのは、さすがにアンソロジストとして破格だろう。稚気というか意気というか……そう、これは侠気である。
いいぞいいぞ!
(牧眞司)
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