著者は元SND48! 崖っぷちアラサー女子がおじさんとの同居から人生を見つめ直す実録私小説
こちらをドキッとさせるような、センセーショナルなタイトルがつけられた本書『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』。なんともなまめかしい想像をしてしまいそうですが、そのつもりで読むと裏切られることになるかもしれません。タイトルにある「元アイドル」と「赤の他人のおっさん」との間に性的な関係は一切ナシ。本書は、人生に行き詰った崖っぷちアラサー女子が50代男性との同居を通して、自分を見つめ直し、人生を再生させていくという物語なのです。
28歳の春、職なし×彼氏なし×貯金もほとんどなしという”人生が詰んだ”状態になった元アイドルの主人公。心配した姉からルームシェアを薦められ、一般企業に勤める56歳のサラリーマン男性「ササポン」を紹介されます。こうして、ササポンが住む一軒家に引っ越した主人公は、恋人でも家族でもない”おっさん”とひとつ屋根の下で一緒に暮らすことに……。
ササポンは”自然体”という表現がぴったりな人物。会社から帰宅するとステテコに着替え、ソファでテレビを観るのが日常で、ときには主人公と一緒にドラマやニュースを観ることもあります。風呂は共同、互いの食生活や掃除、洗濯には口を出さず、冷蔵庫は自然と上下でスペースを分けて使うように……。主人公とは世代も性別も違うのに、なんとも気兼ねのいらない気楽な存在ではないでしょうか。はたから見れば奇妙な関係性ですが、主人公にとってこの同居生活は安定剤のような役目を果たし、次第に「この特殊な生活の中で自分が変われるかもしれない」という期待まで抱くようになっていきます。
実はこの小説、著者・大木亜希子さんの実録私小説である点も話題を呼んでいるところ。大木さんはアイドルグループ・SND48に所属していた過去を持つ正真正銘の元アイドルです。だからこそ、若さや美しさに価値を置いていた彼女が30歳を前に焦りを感じ、仕事にやっきになったり、結婚相手候補の男性たちとの「ノルマ飯」に精を出したり、その結果、ある日突然、駅のホームで足が動かなくなるほど精神を病んでしまう姿はとてもリアル。そんな彼女にとって、何かを要求することなく常に自分のそばにいてくれるササポンが必要不可欠な存在になるのは自然なことであり、本書を読んだ女性たちがSNS上で「ササポン量産化希望」との声をあげるのも、けっして不思議なことではないことと思います。
ササポンだけでなく、失恋に苦しむ主人公のライフサポートをしてくれる友人たち、親身になって励ます家族、カウンセリングを担当している精神科医の大熊など、主人公に寄り添ってくれる人たちとのやりとりにも、心がじんわりとあたたまる本書。私たちの生活にササポンのような存在が都合よく現れることはそうそうありませんが、恋愛や仕事、人生に行き詰まったときにどうやって立ち直っていけばよいか、そのヒントがいくつも詰まっている一冊といえそうです。
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