築100年超の蔵付き古民家を鎌倉に移築再生、妥協無しで理想を追求したこだわりの家

鎌倉の静かな住宅街に、岡山の蔵付き古民家を移築再生した小泉さんの住まい。2019年2月に行われた完成披露のオープンハウスには、明治時代の蔵と平屋を組み合わせたその存在感ある建物を一目見ようと、一日で130名を超える見学者が訪れた。『渡辺篤史の建もの探訪』取材時に渡辺さんをも「感動しました」と唸らせた、妥協無しの本物ならではのこだわりがつまった小泉邸をご紹介しよう。
岡山の呉服屋だったお屋敷の明治時代の蔵と平屋が、鎌倉で蘇る
この移築古民家の施主である小泉成紘さんが、鎌倉・逗子・葉山のエリア限定で、趣のある日本家屋を探し始めたのは今から6~7年前。しかし多くの中古物件を見学したものの、立地と建物、どちらも気に入るものはなく、住まい探しは難航した。どちらも譲れない小泉さんが最終的に選択したのは、理想の土地を新規で購入し、そこに別の場所で空き家となった古民家を移築するという古民家移築再生だった。
選んだ土地は、鎌倉駅にも近くて山を背負った谷戸の趣も残る静かな住宅地。建物は日本民家再生協会(JMRA)を通じて出会った、かつて呉服屋だった岡山県のお屋敷の明治生まれの平屋と蔵。縁側にガラス戸が綺麗に並んだ古民家の写真に惹かれ現地を見学、実際に築100年を超す建物の本物ならではの風格や味わいに惹かれ、この建物を忠実に鎌倉で再現したいと思ったという。
離れの座敷として使用されていた平屋と、2階建ての土蔵。敷地の関係で西隣にあった母屋を除き、職人の手仕事で丁寧に解体されたあと移送し、そのまま鎌倉で蘇った(写真撮影/高木 真)
明治時代のお座敷は、時代と空間を越えて忠実に元の姿に蘇り、次世代へと引き継がれる
それでは、こだわりのつまった小泉邸を、写真を中心にご紹介していこう。平屋部分は明治時代に呉服屋の奥座敷として使われていた二間続きの和室と縁側からなる日本の伝統的木造建築の粋を集めたつくり。ここは忠実に元の姿に復元し、来客時やイベントなどに使うおもてなしスペースにすることに。「元々この建物に惹かれたので、建材や建具などの部材ひとつたりとも変えたくなくて。瓦など劣化していると判断されたものもありましたが、現代では手に入らないものは特注でつくってもらいました」というほどのこだわりよう。
その甲斐あって、元のオーナーが訪れた際「岡山の家にいるよう」と感嘆するほどに、忠実に復元・再生されて蘇っている。



和室には珍しい洋風の重厚な上げ下げ窓が印象的で、当時はかなり斬新なデザインだったと推測される。二間続きの和室は、来客時やイベントの際のおもてなしスペースに(写真撮影/高木 真)
生活の場となる2階建ての蔵は、世界各国のアンティークを取り入れ和洋折衷のレトロ空間に
忠実に元の姿に復元された平屋に対して、2階建ての蔵は普段の生活スペースとして、建物の構造は活かしつつゼロベースで自由にプランニング。土蔵だった建物の構造は活かしつつ、趣味の空間や仕掛けがふんだんに組み込まれている。インテリアは元々好きだった世界各国のアンティークを取り入れて、和洋折衷なレトロ感あふれる個性的な仕上がりに。「イメージに合うアンティークものを一つひとつ自分でそろえて行きました。何でもできるので、かえって形にするのが大変で手間も時間もかかりましたね」と小泉さん。





なんともレトロな雰囲気のお風呂。椹(さわら)の浴槽に大正時代のアンティークのステンドグラス、壁はなんと漆喰塗り。水栓金具はテイストが合うものを求めて、フランスの現代ものエルボ社に(写真撮影/高木 真)





勾配天井を活かした2階の大空間。築100年以上の木材がダイナミックに組み合わされた姿は眺めていて見飽きない。1階にある薪ストーブの配管が吹抜けになって、2階のこの大空間も温まる仕掛けだ(写真撮影/高木 真)

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
インテリアのポイントとなる照明器具や時計などはもちろん、スイッチプレートやドアノブなどの小さな設備機器に至るまで、全て歴史ある古民家のテイストに合うものをと、小泉さん自らアンティークショップやインターネットなどで一つひとつ集めた。「真鍮のスイッチプレートを家一軒分の数そろえるのも結構大変でした」。この細部まで手抜きなしのこだわりが、本物の重厚感を生む(写真撮影/高木 真)
緑豊かで静かな立地に、歴史が刻まれた古民家とそれにあう世界各国のインテリアを一つひとつ厳選して移築再生された小泉邸。その妥協無しの世界観は、実にお見事の一言。本物ならではの風格漂う古民家再生、実は古民家の部材などは基本無償だという。次回は、部材だけでなくその歴史ごと受け継ぐことができメリットの多い、「古民家移築」の仕組みや流れを中心に紹介しよう。
>関連記事:空き家になった岡山の元呉服店の奥座敷を鎌倉に。時代や空間を越えて繋がる古民家移築物語●取材協力
NPO法人 日本民家再生協会(JMRA)
O設計室
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