「社内コミュニケーション」を活性化するために、管理職がまずすべきこととは?【シゴト悩み相談室】
キャリアの構築過程においては体力的にもメンタル的にもタフな場面が多く、悩みや不安を一人で抱えてしまう人も多いようです。そんな若手ビジネスパーソンのお悩みを、人事歴20年、心理学にも明るい曽和利光さんが、温かくも厳しく受け止めます!今回は、社内コミュニケーション活性化の方法に悩む、35歳男性からのお悩みです。
曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。最新刊『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)も好評。
働き方改革と社内コミュニケーションの活性化…うまく両立する方法とは?
<相談内容>
CASE41:「社内コミュニケーションの活性化って何をするべき?」(35歳・Web開発会社勤務)
社員数140名程度のWeb開発会社で、人事を含めた管理部門のマネージャーを務めています。会社設立後10年が経ち、社員同士のコミュニケーションが希薄になってきたと感じています。Web開発の仕事はエンジニアやデザイナー、営業などさまざまな立場のメンバーが関わりますが、個人プレーが目立ちうまく連携が取れないケースも目にするようになりました。この状況を問題視した社長から、「社内コミュニケーションの活性化を図ってくれ」と指示されましたが、何から手を付けるべきか悩んでいます。
働き方改革の一環でリモートワークやフレックス制度などを導入したことにより、以前に比べて社員同士が顔を合わせる機会が減っています。このような状況下で、どのようにコミュニケーションの機会を増やせばいいのでしょう?
他社の真似をして、月1回ピザパーティーを行ったことがありますが、「納期が近いので出ません」「業務時間外に参加したくない」など不評でした。皆が集えるよう休憩室も作りましたが交流は生まれていないようです。フリーアドレスを導入しても、結局同じ部署の人が固まって座っています。
管理部門としては今後、さらなる働き方改革を進めなければならず、社内コミュニケーションとの両立に難しさを感じています。(管理部門マネージャー)
いいと言われている施策を、片っ端から試しているだけの印象
人間には認知限界があり、1人のマネージャーの目が行き届く部下の数は6人前後と言われています。相談者の勤務先に何人マネージャーがいるかはわかりませんが、140人という従業員数はそろそろ認知限界に近付いていると予想されます。社内のコミュニケーション課題が出始める規模感であり、相談者がピザパーティーや休憩室の設置などいち早く行動に移している点は評価できます。
ただ、いきなりソリューションから入っている点が気になります。ピザパーティーも休憩室の設置もフリーアドレスも、いずれも課題解決手法の一つですが、いずれも思ったような成果が上がっていないとのこと。策を打つ前に、ニーズを探る工程を踏んでいないのではないでしょうか?
相談内容を見る限り、世間で「いい」と言われている策を試しては失敗し、また試しては失敗し…と行き当たりばったりで行動しているように見えます。
Web開発会社ということは、おそらくエンジニアも多く所属していることと思います。彼らは営業部門に比べると、そこまで社交欲求が強くないはず。そんな人たちに対して「ピザパーティーやるから集まって!そして交流して!」というのは、いささか強引すぎる気がします。実際、多くのメンバーに逃げられているようですから、明らかに現場のニーズに合っていなかったのでしょう。
営業やエンジニアにとってのお客様は「Web開発を発注する企業」ですが、管理部門のマネージャーである相談者のお客様は「自社の従業員」であり、「人事施策や社内イベント、ファシリティー」がお客様に提供する商品やサービスであるはず。お客様のニーズもつかまぬまま商品やサービスを提案したところで、そう簡単に受け入れてもらえるはずはありません。
私がクライアント企業の人事コンサルティングを行うとき、まずその企業がどんな人たちで構成されているかを見に行きます。従業員はどんな性格で、どんな価値観を持っているのか、どんな能力があり、どんな思考で物事を考えているのか。これらを詳細に探ったうえで、「こういう傾向が強いのであれば、この施策が合うのではないか」と考え、具体策を導き出していく。相談者もこの順番で、打ち手を考えるべきでしょう。
例えば、フリーアドレスは一般的に社員同士の交流を生み、新しいアイディアが創造されやすくなると言われていますが、エンジニアを中心に「業務中は作業に集中したい。コミュニケーションは対面よりも、SlackやTeamsで取ったほうが仕事が進めやすい」という人は少なくありません。そういう人たちにとって、フルオープンな場所で仕事をしろというのはむしろ逆効果で、実はがっつりパーテーションで仕切ったほうがいいものが生み出されるかもしれません。
相談者は「コミュニケーションの活性化=人々が集ってワイワイガヤガヤ話している様子」を思い浮かべているかもしれませんが、それだけがコミュニケーションではありません。いろいろなコミュニケーション手法があり、それに対する好き嫌いもあります。自社の従業員は、どんなタイプの人が多いのか。まずはそれをしっかりつかみに行きましょう。
どんな施策が必要かは自分で考えるべき
「従業員を知り、ニーズをつかむべき」とアドバイスすると、安易に従業員アンケートを取る人が多いのですが、アンケート内容には注意すべきです。
よくやってしまいがちなのが、「リモートワークには賛成ですか?」「フルフレックスは取り入れたほうがいいと思いますか?」など、人事施策の是非を直接ぶつけてしまうケース。これで従業員のニーズが図れるはずはありません。
人事担当者よりも、人事施策を考えている人はいません。そして、人は誰しも「自分のニーズ」を明確には把握していません。にもかかわらず、「フルフレックスを取り入れたほうがいいか」などと聞かれても、「…いいんじゃない?(よくわからないけど)」と返すしかないでしょう。こんなアンケートで「従業員の8割が好意的な回答だったから、この施策は効果が期待できるはず」と判断し実行しても、思うような効果は得られません。
もしアンケートを取るならば、検討している人事施策をすべて提示し、一つひとつのメリット・デメリットを詳細に説明したうえで是非を問うべきですが、手間がかかりすぎるのであまり現実的ではないでしょう。
一人ひとりにインタビューが叶えばそれがベストですが、140人という従業員数を考えると、性格検査やパーソナリティテストなどを導入して組織の傾向を探る方法がいいと思います。そこで洗い出された従業員の傾向から、どんな施策だったら効果的なのか考え、フィジビリティテストなどを行って検証しつつ実行しましょう。なお、どんな施策が向いているのかは、会社によって違うので他者を真似しないこと。従業員という「お客様」を思い浮かべながら、喜んでいただけるような企画をじっくり考えましょう。
「連携が取れていない=会社にとって良くない状態」とは言い切れない
ところで、そもそも「個人プレーが目立ちうまく連携が取れていない状態」は、相談者の勤務先にとって本当にマイナスなのでしょうか?
従業員一人ひとりが個人プレーで力を発揮し、連携ではなく「競争」することで実績を上げている企業はたくさんあります。例えば、ある急成長中の不動産会社では、経営者が社員に「群れずに競い合え、周りはみんなライバルだ」と伝え続けることで奮起させ、売り上げを急速に伸ばしています。
Web開発会社においても、営業が聞き取ってきたクライアントの要望に対し、「そんなかっこ悪いもの作れない!」とデザイナーが噛みついたり、エンジニアが「そんな仕様は現実的でない」と意見したりして、議論したり、ときには喧嘩しながらいいものを作り出す…というケースは少なくないようです。相談者の勤務先がもしこのタイプだったら、現状のままのほうがいいという判断になります。
従って、連携が取れていないこと自体を問題視するのではなく、「連携が取れていないことが原因で、クレームになったり失注になったりしたケースがあったのかどうか」を調べることが重要。クレームや失注が発生していたら別ですが、もしかしたら、むしろ個人プレーが増えてからのほうが売り上げ・利益が上がっている可能性もあります。その場合は「売り上げ・利益が上がっている現状を考えれば、足元でのコミュニケーション活性化策はそれほど必要ないのでは?」という結論もあり得ます。もちろん、業績とともに、社員のメンタルなコンディションにも配慮する必要はあるので、バランスを見て判断してください。
管理部門に所属する人の多くは、「従業員満足度を上げたい。皆が気持ちよく働けるオフィスを作りたい」と考えていることと思います。だからこそ、「連携が取れていない」状態はマイナスで、「和気あいあい」がプラスと考えがちですが、残念ながらいろいろな研究結果を見ても、従業員満足度と会社のパフォーマンスには必ずしも相関性はありません。
相談者は管理部門のマネージャーなのですから、従業員のことを考えながらも、そちらに寄りすぎず、組織全体を俯瞰しフラットな目線で判断することが求められます。まずは従業員を理解し、組織の傾向をつかみ、今の勤務先にとって何が重要なのかを考える。このフローと視点が重要であると心得ましょう。
アドバイスまとめ
まずは従業員を知り、組織の傾向をつかむのが大前提。
その上で、お客様である従業員の心に刺さる施策を検討しよう
EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:刑部友康
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