『ホットスポット』ペット・ショップ・ボーイズ(Album Review)

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『ホットスポット』ペット・ショップ・ボーイズ(Album Review)

 1985年に全米/全英両チャートで1位を記録した「West End Girls」のリリースから、今年で35周年目を迎えるペット・ショップ・ボーイズ。長いキャリアを築くと、ブームに則ったスタイル、新たな挑戦、時には迷走が伺えるものだが、ここまでブレずに自身等のサウンドを追求したアーティストは珍しい。14作目となる最新作『ホットスポット』と、その「West End Girls」含むデビュー・アルバム『プリーズ』を聴き比べてみても、時代の移り変わりが“良い意味で”感じられない。

 プロデューサーは、マドンナの『コンフェッションズ・オン・ア・ダンスフロア』(2005年)で爆発的に知名度を高めた、DJ/ソングライターのスチュアート・プライス。2013年の12thアルバム『エレクトリック』~2016年リリースの前作『スーパー』に続く、スチュアートによるプロデュース3部作の最終章で、レコーディングは、デヴィット・ボウイやイギー・ポップといったスーパースターの作品でもお馴染みのハンザ・スタジオで行われたそう。

 オープニング・トラック「Will O’the wisp」からして期待大。その『コンフェッションズ・オン・ア・ダンスフロア』から大ヒットした「Hung Up」を彷彿させるニュー・ディスコ風のダンス・トラックで、ニール&クリスとスチュアート・プライスのセンスが見事掛け合わさった傑作といえよう。終盤のリフレインから次曲「You are the one」への温度差を利用した流れもすばらしい。ペット・ショップ・ボーイズといえば、フロアライクなアップ・チューンが代表曲のほとんどを占めるが、「You are the one」のような哀愁系メロウも質が良く、各アルバム毎にちりばめられている。ザ・チェインスモーカーズやレイニーといった、同系の新人アーティスト等にも影響を与えたのでは?

 スロウジャムから、再びダンスへ。3曲目の「Happy people」は、彼らがブレイクした80年代中期のエレクトロ・ハウスを焼き直したようなナンバーで、前述の「West End Girls」にも似せたラップを絡めるフレーズもみられる。4曲目には、1stシングル「Dreamland」を配置。同曲は、同郷の英ロンドンのエレクトロ・ポップ・バンド=イヤーズ&イヤーズをゲストに招いたシンセ唸らすディスコ・ポップで、ニールとオリー・アレクサンダーのパートが交互に行き交うボーカル・ワークも聴きどころ。歌謡曲風の旋律も、彼等の手にかかればお洒落ハウスに……。制作過程について、ペット・ショップ・ボーイズはイヤーズ&イヤーズを「独創的で才能あるバンド」と、オリーは「リスペクトする2人との共演は夢だった」と称えている。

 次曲「Hoping for a miracle」でクールダウン。ダンス系のミュージシャンも当然、スロウ~バラード系の楽曲をリリースするが、ペット・ショップ・ボーイズほど“っぽさ”がわかりやすいアーティストはいない、気がする。独特のリズム刻み、半音階下げていくコード進行、他アーティストでは表現できない浮遊感。これが、彼等が手掛けるミディアム・チューンの魅力といえる。それはアップにもいえることで、6曲目の「I don’t wanna」が醸した懐メロっぽいダサ・カッコ良いトラックも、彼等ならではのお仕事。かつて「近未来っぽい」と言われたサウンドを、近未来にまんま、表現した。そんな印象を受ける。

 アルバムの核となるのが、リリース直前に発表した3rdシングル「Monkey business」。リップス・インクの「Funkytown」(1980年)をレシピ写ししたようなディスコ・ファンクに、聞き心地の良いメロディーを乗せる。懐かしくも新しいサウンドメイクを果たした、傑作ダンサーだ。同系がお好みのファレルやダフト・パンク等にも刺激になっただろう。曲のイメージを決して損なうことのない、セクシャルを超越したミュージック・ビデオも面白い。同ビデオを担当したのは、ジャミロクワイやサム・スミス等の作品も手掛けた、ヴォーン・アーネルというディレクターによるもの。

 2曲のダンス・トラックを経て、再びスロウへ。次曲「Only the dark」も、前述の「You are the one」や「Hoping for a miracle」に匹敵するアーバン・メロウで、サウンドの基盤はエレクトロニカながらも、ソフトタッチなボーカルや、触れたら壊れそうな旋律が、内なる情熱を感じさせる。2か月前にリリースした2ndシングル「Burning the Heather」も、彼等のシングル曲としては珍しいアコースティック・メロウ。ミュージシャンとして40年近くキャリアをもつ、彼等だからこそ説得力のある“迷い”を綴った歌詞も曲にハマった。ギターを担当したのは、英ロンドン出身のロック・バンド、スウェードのギタリスト=バーナード・バトラー。同曲を経て、ラストはメンデルスゾーンの「結婚行進曲」をサンプリングしたハウス・トラック「Wedding in Berlin」で締め括る。

 ペット・ショップ・ボーイズは、5月からキャリア初となるグレイテスト・ヒッツ・ツアー【Dreamland:The Greatest Hits Live】を開催する予定。本作のオリジナル・ツアーでないことが残念ではあるが、グレイテスト・ヒッツと謳ったツアーはこれが最後になるとのことで、ファンの間でも大きな話題になっている。現時点では英ロンドンとマンチェスターなどでパフォーマンスすることが発表されているが、昨年に続き、日本での来日公演も期待できるかもしれない。

Text: 本家 一成

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