「リノベ・オブ・ザ・イヤー2019」に見るリノベーション最新事情。“断熱性能”など4つのキーワード
「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」の授賞式が2019年12月12日に開催され、1年を代表するリノベーション作品が決定しました。7回目となる今回も、住宅から地域再生までさまざまなジャンルの作品が注目され、リノベーションの大きな可能性や魅力、社会的意義を感じさせてくれました。受賞作品から最新傾向を探ってみましょう。
【注目point1】性能向上リノベーションの時代が到来
今回の「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2019」では、エントリー279作品からグランプリ1、部門別最優秀賞4、特別賞13、計18作品が選ばれました。顕著な傾向として一番に挙げられるのは「性能向上リノベ」。住宅性能を高めるリノベーションに大きな注目が集まりました。
グランプリをはじめ、部門別最優秀賞、特別賞(性能向上リノベーション賞)を含めると性能向上リノベは5作品が受賞しています。選考委員によると、一次審査を通過した60ノミネート作品を対象とする最終審査会では、性能向上リノベが全部門で最優秀賞を争ったほどの充実ぶりだったそうです。
2019年は、地球温暖化、プラスチックゴミ問題といった環境保護・エコ意識の高まりが世界的に顕著となった年でした。また、日本では気候変動によるとみられる災害が多発し、住まいの安全について改めて考えさせられる年でもありました。耐震性や断熱性という住宅性能を向上させることは、暮らしの快適性を高め、化石燃料の使用を削減するだけでなく、地震や猛暑等から命を守る重要なことだと認識させられます。
そうした潮流はリノベーション業界でも形となって現れています。選考委員からは、「日本のリノベーションに性能向上の時代が到来した」「性能向上リノベは以前からあったが、質と量が飛躍的に向上した」との評もあり、転換の年となったことを感じました。なかでも、注目されたプロジェクト2つを紹介します。
総合グランプリ
『鹿児島断熱賃貸~エコリノベ実証実験プロジェクト』株式会社大城長年空き家だった約35平米・2DKの賃貸の集合住宅を、断熱性能が高い広いワンルームに改修(株式会社大城)
もともとは無断熱で夏暑く、冬はタイル張りの浴室とトイレが冷蔵庫の中のように冷え切ってしまうほど寒いという悪条件の賃貸住宅でした。増え続ける空き家問題を解決する糸口となるよう、「賃貸だから性能が劣っても仕方がない」と思われがちだった温熱環境の悪さを改善し、快適な住空間を提供することで長く住み続けてもらいたいという意図のもと計画されたプロジェクトです。
断熱改修によってHEAT20・G2グレード(冬の体感温度が概ね13℃を下回らない)という高い断熱性能を達成。400万円という低予算でも省エネ性能がここまで高められるという見本になっています。
鹿児島大学の協力で改修前後の室温と電気使用量を計測し、そのデータを専門知識がなくても分かるように入居者募集時に表示するなど、不動産市場での物件情報提供のあり方も提示。入居者がすぐ見つかったとのことで、「エコリノベ」が空室対策の有効な手段となっていることも分かります。
住宅エネルギー性能を不動産広告に表示する義務があるEUのように、日本でも今後、光熱費や性能を可視化する制度が期待されますが、それを先取りした先進的な取り組みだという点も評価されました。
地元のガス会社が物件オーナーでありながら、事業と相反する省エネを実現させている点も、年々高まっている省エネ志向の社会世相を反映していると思われます。
無差別級部門・最優秀賞
『古くなった建物に、新築以上の価値を。~戸建性能向上リノベ実証PJ』YKK AP株式会社全国各地に立ついずれも築36~100年という、5軒の木造2階建てを高性能リノベーション(YKK AP株式会社)
この作品も、空き家問題、居住性能の低いストック住宅問題を解決すべく立ち上げられた性能向上プロジェクトです。断熱性(HEAT20 G2グレード)、耐震性(震度6に耐え得る耐震等級3相当)を同時に実現。
窓・建材メーカーのYKK APが、全国5カ所で各地の企業とコラボ。完成した家の見学会をリノベーション企業向けに開催してノウハウを共有し、性能向上リノベの活性化に取り組むといった、全国規模の企業だからできる先駆的な試みだと感じます。
【注目point2】「再販リノベ物件」の可能性の広がり
「再販物件」とは、不動産会社やリノベーション会社が中古物件を購入し、リノベーションを施した上で販売する物件のこと。一般的には、売却しやすくするため万人受けするデザインや間取りが求められがちですが、近年、再販物件はどんどん多様化しています。
なかには、万人受けはしないものの、「こんな暮らしがしたい」という人への訴求力のあるもの、また、性能やコストに工夫のあるものなど、「中古住宅を綺麗に改修して快適な家に変えて売る」という再販物件の概念を大きく逸脱する秀作に注目しました。
1000万円未満部門・最優秀賞
『my dot.-東京の中心で風呂に住む-』株式会社リビタ浴室をバルコニー側に、ガラス張りの洗面室をリビング兼寝室に面して配置した大胆な間取り(株式会社リビタ)
2DK・約47平米のマンションを、リラックス=バスタイムととらえ、部屋全体をお風呂空間に見立てるというコンセプトで設計。コンパクトな住戸では珍しい1616サイズの広めのユニットバスをバルコニー側に移動して、新宿の夜景を望むビューバスを実現しています。洗面室も広めにとり、ガラス引き戸で開放的に。
こうしたバスタイムに特化した物件が売れると判断した背景には、それだけ住み手のニーズが多様化・細分化していること、不動産市場が成熟してきていることが挙げられるのではないでしょうか。
特別賞・和室リノベーション賞
『SHOGUN Castle』有限会社ひまわり何の変哲もないマンションの一室を、絢爛たる和の空間に(有限会社ひまわり)
6畳の和室を囲む3面の壁と天井用に、日本画家に原画の書き下ろしを依頼。原画を特殊スキャンして壁面に転写した、世界にひとつだけの空間に仕上がっています。和の美を極限的に追求し、空間の存在価値を高めていることに、遊び心と個性を感じさせます。再販物件でここまでこだわるのかと感じた作品です。
特別賞・性能向上リノベーション賞
『最小限の予算で★耐震適合★2世帯住宅』株式会社まごころ本舗築40年超とは思えない、スタイリッシュで新しい内装(株式会社まごころ本舗)
耐震・断熱改修に予算を多く割くため、「仕入れ、設計、施工、販売」を全て自社で行い、設備や内装材は価格比較サイトや楽天を活用して最安値を入手するなど、徹底して費用を抑えた物件です。そのため、2世帯プランへの間取り変更も合わせて1000万円以下という低コストで実現しています。
マンションに比べ、戸建て住宅はどうしても性能改善にコストがかさみます。ワンストップ販売とコスト配分の取捨選択によって改善した点で、再販物件事業の可能性を示した良い見本となっています。
【注目point3】新たな空間を生み出す秀逸アイデア
リノベーションは、「こんな暮らしがしたい」「こんな場所をつくりたい」という熱い思いを具体的な形に変えてくれる、究極のオーダーメード。時には、「こんな空間見たことない」というユニークなプランや、逆転の発想を形にした特徴ある家が目立っていました。
施主のライフスタイルによってリノベーションはどんどん多様化・細分化されているのを感じます。
500万円未満部門・最優秀賞
『我が家の遊び場、地下に根ざす』株式会社ブルースタジオジメジメしてあまり活用されていなかった地下の物置を、ライブラリーとシアタースペースにチェンジ。秘密基地のようなワクワク空間です(株式会社ブルースタジオ)
特別賞・R1ペット共生リノベーション賞
『イヌはイエ。ヒトはケージ。』株式会社ニューユニークス施主の食事中、元気いっぱいな愛犬と家族がストレスなく過ごせるよう、DKをケージですっぽり囲んでしまったという逆転の発想(株式会社ニューユニークス)
特別賞・ベストデザイン賞
『浮かぶガラスの茶室がある大阪長屋』9株式会社築79年という長屋を再生。コンクリートをはね出してつくったガラスの茶室など、新たなしつらえが目を引きます(9株式会社)
【注目point4】古き良き時代を継承する
古来より、住まいは手を入れながらずっと住み継いでいくものでした。いつの間にかスクラップ&ビルドの時代となり、古民家などはどんどん建て替えられることに。しかし、国が200年住宅を推奨する現在、住まいを継承することは再び当たり前の時代となってきました。古いものが持つ味わいや温かみ。それらが再生により蘇った家は心まで温めてくれます。そうした作品も要注目です。
1000万円以上部門・最優秀賞
『5世代に渡り受け継がれる、築100年の古民家』株式会社アトリエいろは一級建築士事務所
家族5世代が暮らす築100年超の古民家。子世帯の同居を機に再生。煤(すす)で真っ黒になった大黒柱や縦横にかかる大梁など、この家の魅力が輝きを取り戻しました(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)
特別賞・事業継承リノベーション賞
『郊外大家さんは農と緑でバトンタッチ』株式会社ブルースタジオ祖父、父、息子と3世代に渡って賃貸物件の大家業を継承。劣化した建物をリノベし、地域に開かれた庭をつくり、本業の農業をベースにしたグリーンショップを開くことで見事な再生を果たしています(株式会社ブルースタジオ)
特別賞・エリアリノベーション賞
『継なぐまちの記憶「アメリカヤ横丁」』(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)取り壊される予定だった昭和の趣が色濃い長屋を賃貸住宅と店舗として再生。昭和のころのような活気や人々の繋がりが取り戻されました(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)
特別賞・地域風景デザイン賞
『二軒長屋のブロック造の家』株式会社スロウル北海道で多く建てられた二軒長屋。今では徐々に姿を消しつつありますが、性能を高めて内装を変え、快適な家に変化させたことで、昔ながらの町の風景を留めています(株式会社スロウル)
「こんな暮らしがしたい!」に特化したリノベーションが目立つように
かつてリノベーションといえば、空間全体で「優れたデザイン」「おしゃれな住空間」という物件が数多く見られました。しかし近年は、「こんな暮らしがしたい!」という気持ちに重点を置いたリノベーション事例が多くなってきたと感じます。
例えば、上で紹介した『my dot.-東京の中心で風呂に住む-』のように入浴しながら夜景が見える浴室をプランの要にしてしまった家や、『イヌはイエ。ヒトはケージ。』のように愛犬ではなく人間を囲む家、『我が家の遊び場、地下に根ざす』みたいな秘密基地をつくってしまった家と、「したい暮らし」がかなり具体的。
それは、リノベーションが施主のライフスタイルや世の中が求めているものを、より鮮明に具体化できるからなのでしょう。今年一番注目された、「性能向上リノベ」然り、リノベーションの可能性は時代とともにどんどん変化し、広がっていくものなのだと感じました。赤絨毯に正装が決まっている受賞者のみなさん。2020年も素敵な作品を期待しています(写真提供/リノベーション協議会)●取材協力
リノベーション協議会「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019」
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