圧倒的な脚本力と映像力――韓国映画初のゴールデングローブ受賞作『パラサイト 半地下の家族』のすごさ:映画レビュー
カンヌ国際映画祭のパルムドールのみならず、ゴールデングローブ賞では、監督賞、脚本賞、外国語映画賞の3部門にノミネートされ、見事外国語映画賞を受賞。韓国、フランス、アメリカと各国で大ヒット中のポン・ジュノ最新作『パラサイト 半地下の家族』。
次々と事業に失敗する父キム・ギテク、元ハンマー投げ選手の母チュンスク、大学受験に失敗し続けている息子ギウ、美大を目指す娘ギジョンという、全員定職が無く、内職で食い繋ぐキム一家。彼らは電波もWi-Fiも満足に入らず、窓から路上で散布される消毒剤が入ってくるという半地下の家で、人間臭く和気藹々と暮らしている。しかしもちろん、誰もがこの暮らしを早く抜け出したいと願っている。この冒頭の描写からして見事で、これから何が起こるのだろうと期待が否応なしに高まる。ある日ギウは友人の名門大学生に、留学する間、自分の生徒である女子高生の家庭教師の代打をしてほしいと頼まれる。その女子高生の家庭が、高台の大豪邸に住むIT社長のパク一家。まんまと家庭教師としてパク一家に「パラサイト」にしたギウは、妹ギジョンをパク一家の息子の家庭教師として推薦し、キム一家の「パラサイト」はさらに進む──。
どのカーストの家庭に生まれるか、それは決して選べないからこそ、人の一生にまとわりつく。キム一家にもパク一家にも悪意は存在しない。ただただ深く染み込んだ貧富の差があるだけだ。貧の極と富の極、その圧倒的な格差が交わると何が起こるのか。ポン・ジュノは全く予想のできないストーリー展開でそれを描いた。本作のパンフレットには、ポン・ジュノの映画という文化そのものへの愛と「出来る限り兄妹が家庭教師として働き始めるところ以降の展開を語ることは控えてください」というコメントが掲載されている。フランスでは「ネタバレしたら殺す」というコピーのポスターが貼られたそうだ。それらの事象に頷ける、唯一無比の展開を宿した見事なシナリオ。そして、事前に役者陣にカメラワークとカメラアングルが共有されることで構築された美しくパワフルな映像。抜群のユーモアとペーソスが宿ったセリフの数々。世界中で巻き起っている深刻な現実への問題提起が強烈になされていることも含めて、どこをとっても素晴らしく、芸術と言って良い程だ。
『パラサイト 半地下の家族』1月10日公開
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【書いた人】小松香里
編集者。「H」「ロッキング・オン・ジャパン」編集部を経てフリーランスに。
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