ホトケ印!? 消しゴムハンコのお坊さんの巻/極楽寺 麻田弘潤さん(3/3)
新潟・小千谷『極楽パンチ』のお坊さん、麻田弘潤さんインタビュー最終回です。今回は、『極楽パンチ』を続けるなかで「お坊さんとしての麻田さんはどんなふうに変わってきたのか」についてお話を聴きました。
麻田さんは『極楽パンチ』きっかけではじめた消しゴムハンコでワークショップを開いたり、今年からは柏崎刈羽原発の再稼働を阻止する訴訟の原告代表も勤めておられます。ポリシーは一期一会。仏教に出会ったひとりのお坊さんの生きざまを教えていただいた思いです。前回までのインタビューはこちら→第一回、第2回。
※写真は『極楽パンチ2012』のキャンドルナイト後に撮影。左からライブ出演者ユザーンさん、麻田弘潤さん、七尾旅人さん。
消しゴムハンコで仏教がはじまる!?
――麻田さんは消しゴムハンコを作っておられますね。どうして消しゴムハンコを?
『極楽パンチ』でエコバックに消しゴムハンコを押そうと言って、妻がキットを買ってきたんです。消しゴムハンコって版画と同じなので、線を残して彫らなければいけないんですけど、妻は迷いなく線をズバッとえぐりとっちゃった(笑)。もったいないから拾ってやっていたら超面白くなっちゃって、彫っていたら上手になってきたんです。
――どんだけデコボコな夫婦なんですか……!!
僕は、ちまちまやるのが好きだったので。趣味が高じて「これをうまく取り入れて何かできないかな」と、よそのお寺の子ども会で消しゴムハンコを教えたりしています。作った後に「できたハンコはどうでもいいです」と、切った後のカスを使ってかたちを作ってみましょうっていうワークショップをしたら好評で。
捨てたものは組み合わせてすごくステキなかたちなるけれど、犬の消しゴムハンコは犬にしかできなくて、木の形に押すことはできません。削りかすの△とかだと、いい感じに樹の幹を作ったりもできます。「自分がいいと思うものが、必ずしも全部に適しているわけではないですよ」みたいな(笑)。社会のいろんなものが重なり合って自分が生かされているわけですからね。
――なんだかすごくいいことを言ってる(笑)。まさに、ハンコ法話!
でしょう(笑)。ハンコ坊さんみたいな。お坊さんが「ハンコ」って書いてある袈裟を着ている消しゴムハンコも作ったんですよ。消しゴムハンコをうまく組み合わせて布教の出張の代わりにできないかなあと思っています。
7月には津波の被害にあった宮城県亘理町というところで津久井智子さんっていう、有名な消しゴムはんこ職人の方と一緒にワークショップすることになったんです。僕はアシスタントみたいな感じでお手伝いするだけですけど、この機会に津久井さんの技を学びたいです。
――お坊さん活動と趣味を分けていないんですね。
分けていないです。消しゴムハンコはすごくいいコミュニケーションツールですね。彫っている間にいろんな話ができますし、「ふだん何やっているんですか?」って必ず聴かれるから。お坊さんだって言うと「まじですか?」みたいな感じになって。くだけた感じでいろんなことを質問されたり、仏教の話になったりもする。「聴いてください」っていうよりは、自然と向こうから聞いてくる感じになりますから。
今度行く亘理町でも1月に消しゴムはんこを持っていってきました。はんこを彫りながら、津波直後の避難の様子とかを聞かせていただきました。はんこを通じて人の思いも聞いていきたいですね。
仏教で”調理”された自分の姿を見せたい
『キャンドルナイトライブ』の最後に、法衣を着て現れた麻田さんのお話は、本当に心に残りました。お寺のロウソクの燃え残り1670本を再利用して、手間をかけて作るキャンドルのなかで過ごした時間の後、指一本で点灯する明るい電灯の”便利さ”を改めて問い直すように語りかけられたのです。
「豊かさというのは便利さではなくて。いろんな人がつながりあって、つながりあって、ひとつのものを作っていく。それが私たち人間の豊かさの本質なんじゃないかなということを、僕らは『極楽パンチ』を7年やって、いろんな人と知り合って思うようになりました」。
――『極楽パンチ』を7年間続けてきて、お坊さんとしての部分への影響はあるのでしょうか。
ふつうの法座でお話するときと、『極楽パンチ』の最後に話すときでは、みなさんの食いつき方が違うということを目の当たりにしてしまったから。一日かけて空気感を作った流れのなかで、イベントに込めた意味を話したときには、聴いている人たちの目が全然違うんですね。「こんなに聞いてくれる態勢を作れているんだ」とビックリしました。
お寺って「仏教ってこういうものですよ」と材料やレシピを渡す問屋みたいなイメージだったのですが、今は仏教の教えで調理された自分の姿を見せる料理屋さんであるべきかなと思っています。まずは、仏教に触れた自分がどういうことになっているのかを積極的に見せていくと、仏教の話をするときにも「なになに?」って食いつきがあると思うんです。
――法話するときの気持ちもちょっと変わってきたりしますか?
そうですね。以前は、あくまで本筋は法座の法話で、他は課外活動的に思っていたけれど、今はその差が全然なくなりましたね。場に合わせて話して、一気に持っていける力のある人もいますが、場を設ける側の意識も必要なんじゃないかなって思います。
――『極楽パンチ』を1日かけてやって、麻田さんのお話は10分ほどです。その10分のために、1日があるというか、準備を含めると1年があるというか。
そうですね。それぐらいやらないと、僕の場合は伝えることができないんだなと思います。
一期一会のポリシーが自分の世界を広げていく
麻田さんは、今年5月から『東電・柏崎刈羽原発差止め原告団/市民の会』の共同代表に就任。世界最大の原発再稼働をさせないための活動をはじめられました。麻田さんの活動の根っこにある、一期一会のポリシーが新たなご縁を結んでいくのです。
――『極楽パンチ』も消しゴムハンコも、自分から何かしようとしたというよりは、やってきたご縁を受けとめて動いていかれるイメージがあります。
一期一会のポリシーで、とりあえず来るものは拒まずに話は聴くようにしています。最初は「気に入らないな」と思ったことのほうが得るものが多かったりしますから。
自分の発想にない人たちに出会うと、自分の許容範囲がどんどん広がっていきます。いろんな人とつきあわないとどんどん固まってしまうし、いろんな人が来てくれるような環境がいいし、楽しいですね。
今度、『東電・柏崎刈羽原発差止め原告団/市民の会』の共同代表になったんです。世界最大の原発再稼働をさせない訴訟の。
――それはまたどういう経緯があったのでしょう?
僕は、こんな感じでニュートラルにやっているから、いろんな話が持ち込まれるんですね。そのなかに「放射能測定をしてみませんか?」という話があって、お寺で勉強会をした後に測定しにいったら、やはり小千谷にも放射性物質(セシウム)が飛んできているんですね。それを(その結果を)市長に持って行って、処理する必要がありますよっていう話をしたりしていたら、その話をしてくれと柏崎刈羽原発差止め訴訟のための弁護団結成時のパネルディスカッションに呼ばれたんです。その流れで、原告団に入って代表になりました。
――原告代表になってもいいと思われたのはどうしてでしょうか。
勉強して、放射能って「基準値以下だから大丈夫」という日本の考え方はありえなくて、ゼロから1になった時点からリスクが高まるんだなとわかったし、福島の原発から200キロ離れた小千谷にまで飛んできているという単純な事実を見たからですね。
福島から避難している人に直接話を聴いたりするなかで、生活や仕事を奪われ、自ら命を絶つ人もいることをお聞きしました。すでにこれだけ被害(実害)を与えているものについて、「安全か?危険か?」という議論の余地はないと思いました。これを見逃すと、同じ課題が自分の子ども世代に引き継がれていくことに対して、親としての責任はどうなんだ? と考えれば、アクションを起こすしかないでしょう。それに、プレッシャーがないとついサボってしまいますから(笑)。
――これから、ますます忙しくなりそうですね。これからもどうぞよろしくお願いします。ありがとうございました。
※このインタビューがご縁となり8月末に京都で、麻田さんと一緒にふたつのイベントを開催することになりました。ぜひ麻田さんに会いにきてください!
8月30日(木)午後19時から21時、やはり『坊主めくり』でご縁をいただいた法然院の梶田真章さんと麻田さんの対談および「お坊さんと一緒に原発について話す」場を開く「お坊さんといっしょに原発の話をしよう」を、法然院さんにて開催させていただきます。詳しくはこちらのフライヤー(PDF)をご覧ください。
8月31日(金)午後19時から21時、京都の町家カフェ『ハイファイカフェ』にて麻田さんの消しゴムはんこワークショップを開催します。要予約、詳しくはこちら。
坊主めくりアンケート
1)好きな音楽(ミュージシャン)を教えてください。特定のアルバムなどがあれば、そのタイトルもお願いします。
永積タカシさん。とくに「サヨナラCOLOR」の歌詞が好きで次男(3)の子守唄にもしています。最近一緒に歌ってくれるようになりました。ちなみに長男は「ゲゲゲの鬼太郎」でした。一緒に歌ってくれませんでした。
2)好きな映画があれば教えてください。特に好きなシーンなどがあれば、かんたんな説明をお願いします。
(回答なし、寝ちゃうので見ないそうです)
3)影響を受けたと思われる本、好きな本があれば教えてください。
「性差別する仏教」。フェミニズムの視点から、お釈迦様や親鸞聖人がズバズバ批判されていくところが気に入っています。
4)好きなスポーツはありますか? またスポーツされることはありますか?
体を動かすのが好きで、毎年50キロのウォーキング大会に出ています。あとバレーボールは中学から続けていて、今も市内のチームに入っています。ポジションはセッターです。一番ボールに触れることが出来、プレーの決定権を持つポジションですので、我欲の強い方にはおすすめです。
5)好きな料理・食べ物はなんですか?
炭水化物全般。
6)趣味・特技があれば教えてください。
消しゴムはんこ等の細かい作業。
7)苦手だなぁと思われることはなんですか?
大声を出す。テキパキ指示を出す。即答する。
8)旅行してみたい場所、国があれば教えてください。
青森県。妹夫婦が転勤で弘前に行っちゃったので。
9)子供のころの夢、なりたかった職業があれば教えてください。
魚屋さん。
10)尊敬している人がいれば教えてください。
馬場一樹(Hand made candle TAiMU)さん。一緒に極楽パンチを作り上げているキャンドルアーティストです。彼の考え方はすごく面白くて”ハンドメイド”といえば「ハンドメイドなので一点一点風合いが異なります」というタグが必ずと言っていいほど商品についているものなのですが、彼はそれについて作り手の”逃げ”にすぎないのではないかと考えています。
だからキャンドル一つ作るのにも、素材だったり蝋を溶かす温度だったり炎の色であったり、あらゆる要素を妥協せず徹底的に作り込んでいます。そのため出来上がりにばらつきが無いのはもちろん、一つ一つのキャンドルがすごくきれいなんです。
この7年間、色々なキャンドルを見てきましたが、彼のキャンドル以上のものには出会ったことがありません。
11)学生時代のクラブ・サークル活動では何をされていましたか?
(回答なし)
12)アルバイトされたことはありますか? あればその内容も教えてください。
壁の塗装の塗り替えをお勧めするテレアポ。高分子ポリマーを使っているからすごくいいんですよーという電話をかけるアルバイトでした。
13)(お坊さんなのに)どうしてもやめられないことがあればこっそり教えてください。
お坊さんなのにという縛りの必要性を感じないので、特に教えることもありません。
14)休みの日はありますか? もしあれば、休みの日はどんな風に過ごされていますか?
決まった休みはありません。時間があれば子どもと遊んでいます。
15)1ヶ月以上の長いお休みが取れたら何をしたいですか?
高校の部活動に練習生(高校生になっちゃうと中間テストとか大変だし)として参加して、毎日バレーボールに明け暮れたい。
16)座右の銘にしている言葉があれば教えてください。
一期一会
17)前世では何をしていたと思われますか? また生まれ変わったら何になりたいですか?
(回答なし)
18)他のお坊さんに聞いてみたい質問があれば教えてください。(次のインタビューで聞いてみます)
「お坊さんになって一番嬉しかったこと、辛かったことを教えて下さい。」
19)前のお坊さんからの質問です。「あなたの宗派の教えの大好きなところを教えて下さい」
生きている間に誰もが仏様と同じような尊いいのちをいただけるところです。
社会に生きていると色々な常識や制約があるのですが、そこから外れると「それはだめ」と、失格の烙印を押されてしまいます。早い段階でそういった烙印を押されてしまうと、それがコンプレックスになってしまいます。それは僕のことなのですが。
さらにはそこから外れた人を自分より劣るものとして差別することもあります。それも僕のことなのですが。
常識って、良いいのちと悪いいのちを勝手に選別するやっかいなものです。
でも阿弥陀さまの救いは、みんな仏様と同じように尊いんですよーと、そういった常識や制約をあっさりぶち壊して解放してくれます。そこらへんがすごく好きです。
僕の場合は阿弥陀さまに出あったことで、コンプレックスだったのが実はステキな特徴だと思えるようになり、それを生かそうと考えるようになりました。一方で自分の差別性が見えるようになりました。
プロフィール麻田弘潤/あさだこうじゅん
1976年新潟県小千谷市生まれ。2000年龍谷大学短期大学部卒業。
浄土真宗本願寺派僧侶。父・住職が取り組む被差別部落問題に関心を寄せ、自らも研究を行う。2006年、中越地震で被災したことをきっかけに、エコをテー
マとした復興イベント『極楽パンチ』をスタート。今年で7回を開催し、循環型社会への移行に向けたメッセージを発しつづけている。東日本大震災以降は原発
問題に関心を寄せ、2012年4月『東電・柏崎刈羽原発差止め原告団/市民の会』共同代表に就任。特技は消しゴムハンコ。イベント等で消しゴムハンコワー
クショップも開催中。
浄土真宗本願寺派青木山極楽寺
1511年創建。大正15年、先々代住職が洋裁学校を併設した
洋館づくりの本堂を落慶。女性にも教育の機会を開くとともに、小千谷初の幼稚園の場を提供、講堂でダンスパーティーを開く等、早くから地域に開かれたお寺
として活動していた。また同時に境内の墓地を全てなくして、本堂の地下に納骨堂をつくり、「みんなが一緒に仲良く入る」スタイルをいち早く実現した。
2004年、建物の老朽化のため、本堂を再建。納骨堂は独立した建物にし、いつでも誰でもお参り出来る環境になっている。
住所: 新潟県小千谷市平成2-5-7
極楽パンチブログ http://blog.gokuraku-punch.com/
■関連リンク
境内に60店舗! 老若男女でにぎわうエコマーケット『極楽パンチ2012』レポート(前編)
七尾旅人×U-zhaanにちょっぴりインタビュー!『極楽パンチ2012』レポート(後編)
ウェブサイト: http://www.higan.net/bouzu/
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