自称「特技は殺陣・技斗」俳優の事故を無くし世界を見据えたアクションを 高瀬将嗣氏&崔洋一監督インタビュー

崔洋一監督「日本という枠組みを超えて、アジアや世界を見据えた形に」

▲崔洋一監督

――5年以上にわたって審査委員長を務められていらっしゃいます。なぜ、お引き受けになられたのでしょうか?

日俳連のアクション部会とは、我々の仕事の中で日常的にやりとりをすることもありますし、同時に高瀬将嗣さんは、私が若い頃から仕事をご一緒している仲です。ほかのメンバーも仕事上で見知っている関係だったから、引き受けたということもあります。アクション認定会は単なる技術認定の場ではなく、安全を含めた現場の技術向上のためのものでもあるんです。時代劇そのものは減ってきてはいるんですけども、例えば劇場用映画の時代劇も今風の引っ越しだったり、参勤交代のスピードだったり、勘定方であったり、料理だったりと、テーマが現代の世相にあわせたものが多くなってきました。かつての正統派の時代劇は、いわゆる、股旅・任侠ものも含め、オーソドックスな忠臣蔵のようなものが多かったですよね。テレビの歴史上で言えば、『三匹の侍』であったり、『必殺』シリーズであったりが、立ち回りの世界を大きく変えてきました。そういったインパクトや希望を常に持てるような、未来の形を考えた認定作業なんです。

――審査は、単純な認定以上に、ワークショップ的な側面も持っているのではないかと思いました。審査員のみなさんは、アドバイスもされていましたし。

そうかもしれませんね。そういう時代なんだと思います。認定会では、いわゆる所作や立ち回りも含めた、お芝居の要素を重要視しながら、技術的な向上を目指すために、初級・中級・上級の殺陣・技斗でランクをつけていきます。それと、現場の技術向上のためであることはもちろんなのですが、それ以上のレベルになるように、私たち(審査員)も努力していく。そういう視点を持っています。もうひとつ、日俳連のアクション部会は、いずれはこの認定会を日本という枠組みを超えて、アジアや世界を見据えた形に持っていきたいのではないかと思っています。

――と言うと?

現在、中国を中心にいわゆる武侠映画や、三国志のような歴史ものの作品は沢山作られています。中国の古代史をモチーフにしたゲームにも人気のあるものが多く、そういった作品ではモーションキャプチャーというかたちで、殺陣や技斗の動きを分析し、CG化しています。こういった大きな範囲で、表舞台だけではない活躍の場がもっと増えていくと思います。受講者は海を越えていくことを前提にして、日本独特の立ち回りや、安全性を基準とした技斗を身に着けて欲しいですね。求められるアクションは、様式美を重視するものもあれば、リアリズムのあるものまで、実はかなり幅が広い。そういった意味で、この認定試験は技能のベースになりうるだろうと思っています。もう少し時間が経てば、認定会の受験者として外国の方が参加することもあるのではないでしょうか。あるいは、中国武侠界の重鎮が認定会の審査委員席に座るような可能性もあると思います。

――崔監督の『カムイ外伝』は、日本のアクション映画の中で重要な役割を果たした作品だと思います。この映画を契機に、崔監督ご自身のアクションに対する意識も変わってきたのでは?

それはありますね。時代劇固有の、いわゆる基礎的な所作や立ち回りに、忍者のような身体を使ったアクションを加えたらどうなるのか。それで、『カムイ外伝』では高瀬さんや谷垣健治くんの力を借りました。このお二人が柱になって、アクションを作り上げてくれたおかげで、中国でも人気を得ることが出来ました。こういう視点でどんどん海外に広がってくれればな、と思います。一方で、現代劇では三池崇史監督のような、ある種の様式的なバイオレンス作品も日本にはあります。昔からヤンキー映画というものは、娯楽映画のひとつの伝統として存在しているわけですが、そこが諸外国とちょっと違うところだと思います。

崔洋一監督『カムイ外伝』予告(YouTube)https://youtu.be/qpxw5nkKCCc

――確かに。

例えば、韓国映画だとテコンドーや空手の様式美の中にアクションがあって、ハードなんですね。ハードなんだけど、ちょっと人工的な技斗・立ち回りかな、と。最近は少しづつその傾向も変わってきましたように思います。韓国や中国の若い男性は基本的に徴兵を経験して、武闘訓練を受けることになるので、日本とは俳優の下地が少し違うんだと思います。ぼくも韓国映画を1本(2007年の『ス SOO』)監督しましたが、俳優に「絶対に(蹴りや突きを)本気で入れないでね」と何度も注意するんですけど、彼らは入れちゃうんですよね。力はあるんですけど、けが人が続出しちゃうんで、「ダメですよ」と。今はそういう段階は卒業していると思いますが。

――崔監督が、これからの認定会に求められるものはなんでしょうか?

一番は、様々なジャンル・属性の方に参加して欲しいということですね。そういった意味でも、女性が増えているのは喜ばしいことです。また、初級については現在もそうだと思いますが、少年少女・青年を中心に、若者を養成していくことが出来れば。先ほどお話が出ましたが、参加者は各々がワークショップのようなことを積み重ねてきている人たちなんですよね。いきなり、「好きだから」と来たわけではなくて、仕事の延長線上で参加している方が多い。ですから、プロフェッショナルのための認定会であればいいな、と。別にアマチュアを排除するというわけではなくて、俳優のためのアクション、技斗・立ち回りですから、性差を超えて必要なことだと思います。流行ったり、流行らなかったりといった、トレンドのようなものはありますが、映画・映像の表現としてのアクションは永遠に無くならないということだけは言えます。ゲームの中で形を変えて必要とされるように。ぼくの予測では、もうアクロバティックな振付や、ワイヤー、CGといった技術的なものは、ハリウッド作品も含めて、いいところまで来てしまっていると思うんです。それを、どうやってより現実感のある方向にもっていくのかが、今後の課題ではないでしょうか。

2019年12月7日(土)に開催された『第32回アクションライセンス認定会』では、日俳連の組合員以外もライセンスの取得が可能になり、のべ31人が参加している。2020年以降の開催予定は、随時アップされる日俳連アクション部会公式サイトを確認しよう。

インタビュー・文=藤本洋輔  撮影=オサダ コウジ

(執筆者: 藤本 洋輔)

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