迷える大人たちのラブ・ストーリー『冬時間のパリ』オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー「あらゆることを俳優たちには期待した」 

フランスの名匠オリヴィエ・アサイヤス監督がパリの出版業界を舞台に<本、人生、愛>をテーマに描く、迷える大人たちのラブ・ストーリー『冬時間のパリ』が公開となります。ジュリエット・ビノシュ、ギヨーム・カネ、ヴァンサン・マケーニュなどフランスを代表するスター俳優たちが集い、映画ファンならずとも圧倒されそうな内容に仕上がっている本作について、映画公開前に来日したアサイヤス監督に、お話をうかがいました。

●製作の過程、そして撮影の過程で、もっとも知恵を絞ったことは?

映画の中にはビジュアルな要素がとても重要になっていて、描きたいと思っているビジュアルのほうが自ずと映画の脚本のスタイルに採用されていくというタイプの映画もありますが、今回はダイアローグが重要でした。会話で成り立っていく物語なので、あえて情景描写みたいなシーンは入れていないんです。すべてがセリフでつながっているんです。

でもこれは演出としては手ごわいもので、各シーンがそれぞれの個性を持っていて、ビビットで生き生きとしている。各シーンが多様性を帯びることは、とても難しいことなんです。今回はつなぎのシーンというものをまったく描き込んでいなかったので、そういうものをビジュアルにすることは大変でした。毎朝撮影現場で、ビジュアルに注力していました。

●俳優たちには今回、どのようなことをリクエストしましたか?

言ってみれば、すべてをリクエストしています(笑)。すべてのことを、キャストには期待していました。とうのも今回の作品は演劇的なところがあって、演劇の戯曲というものはいったん書いてしまうと、後は俳優が自分で体現することで役柄を作り上げていくというもの。違う俳優に依頼すれば、まったく違うものが仕上がっていく、そういうものなんです。俳優たちがそれぞれの個性で、それぞの人物のアイデンティティーを作り上げて体現している。

特に今回の作品はセリフがメインで、俳優が動かしていくというものなので、彼らには自由をたくさん与えました。シーンによってはアドリブもよいことにして、それぞれの俳優の個性で体現してもらう。それでようやく脚本が意味を帯びてくるという感じでした。

●本作はあなたの作品群の中で、どんな存在になるのでしょうか?

『8月の終わり、9月の初め』(98)という作品がありますが、どちらかというと今回の作品は、その<続き>のようなところはあります。もちろん似ているところがいくつかあって、背景になっているものは出版界や、センチメンタルコメディーであったり、『8月の終わり、9月の初め』(98)には死というテーマがあって、トーンとしてはシリアスですよね。反対に今回は、生命力を打ち出している。描いている人間関係も、もっと軽やかだ。

フィルモグラフィーのなかには群像劇があったり、自分の世代というものを体現する映画があるなかで、この映画は『8月の終わり、9月の初め』(98)の系譜に連なるものと言えましょう。

それともうひとつ、パーソナルショッパーと対になっている作品でもあります。違うアングルで社会のデジタル化を描いているものとも言えます。

●ところで、映画人として、何のために仕事をしていますか?

考えたことはないですかね。振り返れば10代の頃から映画製作についてはよく知らないまま、映画監督の仕事には興味がありました。それが自分にとっての天職みたいな感じで考えていました。なぜかというと、当時の僕自身は、造形美術に興味があったのですが、絵画やイラストをデザインしながら、これは孤独な作業だなと、自分の性格に合っていないなと思いました。ところが、映画芸術は集団で作り上げる芸術で、ひとりでは絶対にできないもの。必ずコラボレーターがいて、一緒に作り上げるもの。それが僕にとって、居心地のいいものでした。

映画は世界を観察することができるもので、絵を描くだけなら部屋でできるけれど、映画はロケハンや旅行や世界を観察して回る。現代のフランス社会を探究したり、社会に対する窓を映画というものは開かせてくれる。映画は数あるアートの中でもいまなお大衆性、国際性、普遍性を持ち続けているアートだと思うんです。それはとても稀です。ほかのアートは、だんだんと少数の人たちしかたしなまないものになっている。そのなかで国際的な大衆性を持ち続けている映画というものに、映画という芸術に携わりたいと若い時に思ったのです。

●今後の作品について教えてください。

それはまだありません(笑)。

本日はありがとうございました!

12月20日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー!

(執筆者: ときたたかし)

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