「もう死のう。生きて辛い思いをし続けるよりは……」恋の板挟みに悩み疲れたヒロインに突き刺さる、最愛の母の言葉~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~

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妻は「どう気にすればよいかわかりませんわ」。高貴な方は嫉妬などしてはいけないというエチケットに則ったお返事ですが、実際に薫のことは自分専属の世話係くらいにしか思っていないので、まあ、こんなものかも。

承諾を得た薫は、浮舟の新居を内々に仕上げさせます。ところが悪いことに、この準備を一手に引き受けていたのが、宮に情報をリークしていた道定の義父・仲信です。例によって道定は妻から何もかも聞き出し、逐一宮に報告しました。

宮は負けじと、手頃な物件を押さえることに成功。薫に先んじた引っ越し計画を宇治に連絡しますが、宮自身が迎えに行くことはおろか、浮舟もうるさい乳母に密着されているので、とても抜け出すことはできません。

「万一の時は縁を切る」娘に突き刺さった母の言葉

薫が決めた引越し予定日は4月10日(旧暦)。その日が迫るにつれ、浮舟は進退窮まり、不安定な状態です。(どこでも誘われるままにとは行かない。でもどうしたらいいかわからない。たまらなく不安だわ。しばらくお母様の所へ行こうかしら)

しかし常陸介邸は、例の少将と結婚した妹がお産で大変。母のほうから宇治へ訪れます。「どうしたの? ずいぶん顔色が悪くて、やつれて見えるけれど……」

乳母が最近はずっとこうだと説明すると、「変ね、物の怪の仕業かしら。おめでたかとも思ったけど、たしか生理がきて石山詣でを取りやめたのよね」。生理の話がダイレクトに出てくるのも、宇治十帖の特徴です。

母と乳母が、薫の用意してくれた衣装などを見てはしゃぐのを聞いても、浮舟はいたたまれません。それもそのはず、まさに今朝も宮から「オレと一緒に」という手紙が来ていたばかり。もしそんな事になったら、母も乳母も絶望し、立つ瀬がなくなるだろうに……。

弁の尼も呼ばれ、おばさんたちの昔話に花が咲く中、浮舟は気分が悪いと物陰で寝たふり。「……薫の君とのご縁が出来たのもあなたのおかげですわ。中の君さまもご親切にしてくださったのですが、あちらで思わぬアクシデントがありまして。行き場もないと途方に暮れた所でしたのでね」。

母がこう言うと弁は「匂宮さまは驚くほど好色なお方だそうで、きちんとした娘さんはあちらにお仕えするのをためらうとか。他のことでは素晴らしいお方なのに、うっかりお手つきになってしまい、中の君さまに疎まれないか気がかりだと聞いています」。

浮舟は(そうよね。女房だって気を使うのに、ましてや私は異母妹……)

「とんでもないお話ね。薫さまには女二の宮さまがいらっしゃるけれど、そこは他人ですもの。どう思われようと仕方がないと思いますが、中の君さまは血縁、もし間違いなどがあろうものなら、どんなにこの浮舟が可愛くても、二度と会うことはできませんわ」。もう万が一の事態が起きてしまっています!!

母のこの言葉が浮舟の胸に突き刺さりました。(やっぱりもう死ぬしかない。死のう。あとになっていろいろなことが出てくるだろうけど……)

どうすればいいかわからない、親しい人にも打ち明けられない。それならもう、死のう。自殺者の思考パターンにぴったり一致してしまった浮舟の耳に、そばを流れる宇治川の川音が恐ろしく響きます。

「川と言っても大したことのないものもあるのに、怖い川ね。こんな激しい川のそばにいつまでもいたのですから、そりゃあ薫さまもかわいそうだと思ってくださったのね」と母。そこに、女房の誰かが「そういえば、先日も川の渡し守の孫が、棹をさしそこねて溺死したそうですわ。命を落とす人の多い川です」

(そうだ、川に身を投げてしまえば跡形もなくなる。しばらくは母も乳母も悲しむだろうけど、生き恥をさらすよりはいい。こんな辛い思いをいつまでも続けているよりは……)。そう思うと自殺するメリットしか思い浮かばなくなりますが、そうは言ってもやっぱり悲しくてたまりません。うう……。

女房たちに諸注意を言い渡し、「お産で取り込んでいるからそろそろ帰るわね」と母。これが今生の別れかと思い詰める浮舟は「お母様がいてくださらないと不安でたまらないの。どうかしばらくここにいて。それがだめなら、あちらの家に置いて下さい」

「私もそうしたいのだけど、とにかく取り込んでいて手狭なの。薫の君がお引取りになっても、こっそり会いに行きますからね……」。お母さんは浮舟だけのお母さんではない。でも、今の浮舟には命綱を切り落とされたくらいのダメージだったに違いありません。

皮肉にも、自分を誰よりも愛してくれる母親の言葉に致命傷を受けた浮舟。娘がそこまで思いつめているとも知らず、帰ってゆく母。まさに絶体絶命の状況に、さらなる悲劇が襲いかかります。

簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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