“触って読む文字”奥深い「点字」の歴史

 子どもの頃は、何でも触って確かめていたが、大人になるにつれ、目で見てわかったつもりになってしまうもの。しかし、触ってみるということは、とても大事なことなのだ。

 そんな“触る”世界の魅力をつづった『さわっておどろく!』(広瀬浩二郎、嶺重慎/著、岩波書店/刊)では、「さわって愕(おどろ)く」「見えない世界のリアリティ」というテーマを、さまざまな観点から掘り下げていく一冊。実践を通し、自分のさわる能力を開発するためのヒントも随所に入れられている。また、本書では、触覚に依拠して生活する人を「触常者」、視覚に依拠して生活している人「見常者」という呼び方をしているのも特徴的だ。

 触れて読む文字といえば“点字”だ。エレベーターや階段の手すりなど、街で触常者のための点字を見かける機会は多いだろう。では、そもそもこの点字とは誰が創ったのだろうか。
 点字考案以前の視覚障がい者の教育においては、凸文字(浮き出し文字)が使用されていたという。世界最古の盲学校であるパリ訓盲院の創設者バランタン・アユイによってアルファベットの浮き出し文字による教科書が、また、日本最初の盲学校である京都盲唖院では木刻文字や蠟盤文字が使われていた。しかし、凸文字は触読には適していなかった。
 点字開発者として知られるルイ・ブライユは、フランス軍の砲兵シャルル・バルビエが考案した暗号である「夜の文字」にヒントを得て、試行錯誤の末に6点でアルファベットや数字、さまざまな記号を書き表す方法を作り上げる。そして、ブライユが創出した六点点字は、19世紀半ばにはヨーロッパ各国、米国でも受け入れられた。
 日本でもアルファベット点字を日本語の五十音順に翻案する作業が東京盲唖学校で進められ、1890年11月に教員・石川倉次の提案が採択された。そして、日本点字制定から120年が経つ今日でも、多少の表記法の変遷はあったものの、基本的に石川が翻案した仮名文字体系の点字が使用されている。
 本書はこういった経緯で生まれた点字についても触れられており、見常者にもたらすもの、「さわる文字」の今日的存在価値が考察されている。

 “触る”ことの奥深さを教えてくれる本書。触覚を少し意識してみると、今まで気づかなかった新たな世界の広がりを感じ取ることができるだろう。
(新刊JP編集部)



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