デュアルライフ・二拠点生活[20] 横浜と西軽井沢。定年前にプレ移住した理由
50歳を前に、西軽井沢と東京(現在は横浜)で二拠点生活を始めたWさん夫妻。
「ただ、そんなに目的をもって二拠点生活を始めたわけではないんです」と言いつつ、「この選択に間違いはなかった。この暮らし方を満喫しています」というWさん夫妻に、今回は現在の暮らしぶり、二拠点生活を始めた経緯、将来の展望についてインタビューした。連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、さまざまな世代がデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点居住者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます。
妻は会社をセミリタイア。夫は二拠点生活に
「老後は田舎暮らしをしたい」とずっと考えていたというWさん夫妻。それを前倒しする形で、2年前から西軽井沢拠点での暮らしを始めた。軽井沢暮らしを機に、妻は長年勤めた会社を退職している。「ずっとずっと辞めたいなぁと思っていて(笑)、せっかく家を建てたし、もっと満喫したい。今が辞め時だって思い切りました。新卒で25年以上働いてきて、もういいかなぁって。ここで一区切り、新しい生活をしてみようと思ったんです」(妻)
一方、夫は東京と西軽井沢の二拠点生活。金曜日の夜に西軽井沢へ。土、日を過ごし、月曜日の早朝に新幹線で出社している。「軽井沢駅までは車で15分、軽井沢駅から東京駅までは新幹線で1時間程度。満員電車知らずで、かなり快適です。近い将来には、一日ほどリモートワークさせてもらって、週4長野、週3東京といった生活ができればいいなって思っています」(夫)
最近、夫が東京から神奈川県に転勤になったことに伴い、東京都三鷹市の住まいは売却。横浜市内に1LDKのマンションを借り、妻も友人に会うなど、東京に用事があるときなどに、拠点としているそうだ。二人とも「のんべえ」さん。外食よりも家でのんびりお酒を飲むことが多いそう(写真撮影/片山貴博)
こだわったのは、平屋でシンプルな住まいであること
依頼したのは、宿泊できる住宅展示場を展開している「class vesso西軽井沢」。W夫妻宅の完成後、入居までの半年間はモデルハウスとして貸していた(写真撮影/片山貴博)
西軽井沢の住まいは、土地を買い、注文住宅を建てた。
「東京の自宅は3階建てで、今はいいけれど、年を取ると階段の上り下りは大変になる。次の住まいは“平屋”がいい。それがこだわりでした」(妻)
当初は“平屋は意外と割高になる”とも聞いていたが、あらかじめ構造計算されたユニット式の住宅をアレンジすることで、コストを削減。木のぬくもりが感じられる住まいが実現した。開放的なキッチン、外と一体感のあるテラス、タイル細工がアクセントのパウダールームなど、随所にこだわりも。
「ドアは最小限で、ほぼワンルーム。今は2つ住まいがあるので、モノも最小限にと思っています。とはいえ、生活の場でもあるので、だんだんモノは増えてしまっていますね」(妻)
長野の拠点ができたことで、東京から友人が泊りがけで遊びに来ることも増えた。「このあたりは別荘地なので、布団のレンタルサービスもあり、客用布団は不要です」(妻) 開放感あるリビング。冬の暖房は薪ストーブで (写真撮影/片山貴博) 赤いドアがアクセントの玄関。既製品のハンガーフックを斜めにつけて、スキー板置き場にDIY (写真撮影/片山貴博) 開放感あるカウンターキッチン。「コーヒーを淹れるのは夫の担当。彼は料理も得意です」 (写真撮影/片山貴博)トイレと一体化したパウダールーム。モザイクタイルがおしゃれ (写真撮影/片山貴博)
趣味のワインに没頭。コミュニティづくりにも一役買う
一足先にセミリタイア生活を送っている妻。「ここでの生活どうですか?」と漠然とした質問をしたところ、「今も会社勤めをしている彼には悪いけれど……」と前置きしたうえで、「かなり楽しい!」 と即答。「例えば夕暮れ時に染まっていく空の色をぼんやりみるだけで、心癒やされます。野菜を植えたり、家の中を少しDIYしたり、ちょっとしたことで季節の移り変わりを感じたり。忙しい東京での暮らしでは考えられないことです」
そんな妻が今、夢中なのが「ワイン」。移住者向けの農業セミナー「農ある暮らし研修」や1年間のワインアカデミーで知り合った友人たちと一緒に、ブドウ農園で醸造用葡萄づくりのお手伝いをしたり、ワイナリーをはしごしたり、趣味とコミュニティづくりを兼ねた日々を過ごしている。「このあたりは移住者や二拠点生活をしている方も多く、共通の趣味があるので、自然と仲良くなれます」 今日は、ワインアカデミーで知り合った、長野県東御市在住の葡萄農家の方の畑で収穫のお手伝い(画像提供/妻)ワインアカデミーの同期の面々。「ご夫婦で小諸に移住された方、東京から長野に週末通って、葡萄を育てている方、ボランティアで収穫にかかわっている方などさまざまで面白いです」 (画像提供/友人)
今は、平日は夫婦別居生活になっているWさん夫妻。二拠点生活をしている夫に、「生活は変わりましたか?」と聞いてみると、「実はあまり生活が変わっていない」と返答。「もともと、共働きで、平日の夕食はお互い自己解決だったため、今と同じです」。むしろ、今は、別々に暮らす平日でもLINEでおしゃべりしながら夕食をとったり、休日は、毎朝森の中を数kmランニングするなど、ほぼ一緒に過ごし、かえって、メリハリのある関係でいられるようだ。西軽井沢の住まいのテラスでのんびり過ごす、おふたり(写真撮影/片山貴博)
“新幹線通勤もありえる場所”――それが二拠点生活の始まり
そもそも、どうして西軽井沢に拠点を構えることになったのだろう?
「東京はあくまでも“稼ぐ場所”。ずっと暮らすつもりはなかったから」と、夫婦ともに口をそろえる。夫は福島、妻は福岡と、ともに地方出身で、東京に一戸建てを建てたものの、「定年後は、どこか田舎で暮らしたい」とずっと思っていたそう。「だから、どこか旅行に行くたび、“ここで暮らしたらどうだろう”と考えていました。地元の不動産会社をのぞいたり、実際に物件に足を運んだこともありました」(妻)
訪れた場所は、富山、湯布院、屋久島、小豆島、阿蘇など多種多様。さらには、タイやフランス、ニュージーランドなど、海外移住も漠然と検討していたそう。そんななか、毎年参加している小布施見にマラソンのついでに、たまたま足を運んだのが、この西軽井沢の土地。最寄駅となる御代田駅は、軽井沢駅から、しなの鉄道線で3駅、約15分のロケーションだ。「もともと別荘地として宅地分譲されていたもの。旧軽井沢など昔からの別荘地の土地は高いですが、少し離れることで手の届く価格になっていました」(妻)
しかも、「この場所なら、東京の職場へも通える」距離感だったことも決め手になった。「当初は定年退職、少なくとも早期退職後に、田舎暮らしを始めるつもりでしたが、この場所なら新幹線通勤もアリじゃないかなと思い始めました。それなら、“いつか”ではなく、“今”買ってもいいのかもと思うように」(夫)
その日のうちに申し込み。“いつかの夢”と思っていた田舎暮らしの夢が一気に現実に近づくことになった。 友人が手掛けたワインで乾杯。「軽井沢は昔からの別荘地なので、地元のスーパーもジャムやハム、チーズなど気の利いたものが充実しています」(写真撮影/片山貴博)近所にある農作物の直売所センターにはよく足を運ぶ。「新鮮でとにかく安い。バターナッツなど知らない野菜にも出会えて楽しいです」(写真撮影/片山貴博)
50代の今だからこそできることも。前倒ししてよかったと実感
当初は「定年後に田舎暮らし」を想定していたWさん夫妻。それが10年以上前倒しになったことは想定外だったけれど、結果的に正解だったと思っているそう。
「田舎暮らしは、やることが意外と多いんですよね。ストーブの薪割り、庭の手入れ、大工仕事など、いろいろあります。60代でいきなりこんな生活に突入するのは正直キツかったと思うんですよね。だから、リタイア前に、二拠点を構えて、働き方、暮らし方をゆるやかにシフトしていくやり方は、よかったなと思っています」(夫) 薪割り、薪置き場のDIY、煙突の掃除など、田舎生活はやることがいっぱい(画像提供/妻)(画像提供/妻)
現在は横浜と西軽井沢の二拠点生活だが、定年退職後は西軽井沢に完全移住するつもりというWさん夫妻。家のメンテナンスをする。東京の住まいを売却し、モノを減らす。コミュニティをつくる。それらのすべてが、完全移住のための準備に。「この土地に出会ったことで、すべてが動き出しました。決断して良かったなと思います」(妻)
定年後の田舎暮らしに憧れる人は多いが、いきなり始めてしまうのはハードルが高いもの。Wさん夫妻のように、現役時代に、二拠点生活を始めてみることで、ゆるやかにシフトしていくのは賢い選択だろう。Wさんの場合は家を建てたが、試しに賃貸で始めて見るのもひとつの方法だ。
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